番外編 孤高の空






『管制室より通達。国籍不明機と思われる航空機、総数2機がEN5766方面から領空内へ向けて侵攻中。第11飛行分隊にスクランブル。繰り返す―――』


それは月夜の出来事だった。フェンスで囲まれた広大な空軍基地の敷地内に、けたたましい警報と共に非常事態を告げるアナウンスが流れる。


アナウンスで指名されたパイロットの2人は待機から一転、戦闘機が格納してあるハンガーに走って向かう。


ハンガー内は整備長の怒号が飛び、整備員が戦闘機の出撃準備を整えていた。
到着したパイロットは戦闘機のコックピットに架けられた梯子を素早く登って操縦席に座る。
それと同時進行で整備員によってハンガーの扉が開けられ、架けられた梯子も撤去された。


パイロットは予め置いてあったヘルメットを被ると計器類、電子機器、燃料、火器管制装置のチェックを行いながらキャノピーを閉じた。
さらに整備員に手信号で準備OKの旨を伝えると彼らは待避する。


双発のエンジンを始動した戦闘機は唸りをあげ、誘導員に導かれてハンガーを出た。戦闘機はその銀翼の機体を月明かりの元に晒したのだ。


戦闘機はそのまま最短の距離にある滑走路に導かれ僚機の離陸を待つ。
僚機が離陸すると間もなく管制塔から離陸の許可が下り、スロットルレバーをMAXまで押し込み機体を一気に加速させた。


視界から流れる景色が早くなるにつれ、ハーネスに押し付けられる力、Gが強くなる。ある程度加速したのを確認したパイロットは操縦桿を引いた。


水平尾翼が傾き揚力の働いた機体は地表を離れ、ランディングギアを収納すると徐々に高度を上げていく。戦闘機は旋回して待機していた僚機と合流すると編隊を組み、大空へ向けて飛び立った。


編隊を組んで飛行する戦闘機にAWACS機から通信が入る。


AWACSとは早期警戒管制機の略である。主な役割は索敵、情報整理と分析、友軍機との情報共有、攻撃・要撃を含む指揮管制である。
AWACS機は航続距離の問題から旅客機を改造し、レーダードームを取り付けた機体が主流なのは「G」が発見された以降も変わらなかった。


『こちらAWACS:ナイトレーダー。マクドネル少佐だ。第11飛行分隊の離陸を確認した。これよりナイトレーダーの指揮下に入ってもらう。コールサインはアクセルで間違いはないな?』


コールサインとは航空部隊やパイロットのコードネームのようなものである。


『間違いない。』
『よし、アクセル分隊は機首を方位1ー0ー5に向けてそのままの高度と速度を維持しろ。会敵予想、next340sec。』
『アクセル1、了解。』
『アクセル2、了解。』


通信回線でのAWACSとのやり取り中、先程のパイロット―――アクセル2はキャノピー越しに星空を見た。
機体の高度は雲より上で、月明かりが満遍なく下方の雲と海を照らしていた。


自分はこの空を飛んでいる。


緊迫した状況でもこの変わらない事実を敢えて認識しなおしたアクセル2は操縦桿を握り直した。

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