本編


翌日、特捜課。綾は数枚の紙を持って庁内のある部署から部屋に戻ってきた。


「彼女、公安が取り調べて全て話したらしいわ。」


あの後、3人は荒木の身柄を公安に引き渡し、取り調べは公安が行った。
綾は調書のコピーを貰い、持ってきたのだった。調書に興味を示した凌と一樹に、綾は内容を要約して話し出した。


「ツルクを撃破した夜、偶然にも深夜シフト帰りに戦闘を目撃したらしいわ。ツルク撃破後、私達全員が死骸から目を離したのを見計らって刀に触れ、コピーした。動機とかはこの前聞いた通りね。」
「やっぱりあの夜の人影は荒木だったのか…」
「だから言っただろ? 走り方が女だったって。それにしても触るなら何で手袋とかしなかったんだ?」
「それはほら、日常生活を送っていて滅多にないチャンスにいつ遭遇するか分からないじゃない?」
「それに直に触れないとコピーできないとかな。」
「昨日東條君に握手を求めたのも、能力が戦闘…つまり殺人に特化していたかららしいわ。あの夜に私の能力は見過ごしていたらしいけど。」
「もし綾さんの能力もコピーしていたら…」
「逮捕できなかったかもな。それどころか今頃はオレ達バラバラ死体か?」
「何もしなかったお前が言いなよ。宮代一樹捜査官殿?」
「あれは……あれはオレの出る幕がなかっただけさ。」


調書を廻し読みした三人と倉島。ふと凌は思い出したかの様に呟いた。


「荒木美香は…法律で裁かれるんだろうな。」
「当たり前よ。」
「そう言えばさ、能力者を裁く法律なんてあるのか? 能力者が逮捕されたのは今回が初だろ。」
「それは現行の法律が適用されると思う。」


一樹の疑問に綾は答え、「それに」を付け加える。


「能力者であれ爾落人であれ人間である事に変わりはないわ。能力を行使して罪を犯すならば正当な法の下で裁かれるべきよ。」
「…それ、オレも含まれてるよな?」


綾の言葉に一樹は確かめるべく恐る恐る聞く。


「まぁ、今は良いにしても気をつける事ね。宮代君の能力は便利だろうから他人の前では使わない事。テロリストとかに掠われないようにね。」
「…気をつけます。」


しかし数十分後、彼はパソコンと向かい合い何度目か分からないハッキングを楽しんでいた。



そして気が付けば、今日も定時の時間が迫っていた。
能力者の犯罪や「G」の事件は、頻繁には起こらない。特殊捜査課のメンバーはほぼ毎日と言っていい程定時で帰宅できた。


「今日も定時か…」
「オレ帰るわ。」


一樹は早々と荷物を纏め上げ始め、それを革切りに皆も帰り仕度を始めた。
その最中、綾は思い付いたように提案した。


「ねぇ、晩御飯食べに行かない?」
「俺行きます。」
「じゃあ、オレはお先に。コレと会うんでね。」


一樹は凌と綾に握り拳の甲を向け、自慢げに小指を突き立てた。2人が顔を見合わせたのを確認した一樹は颯爽と部屋を後にする。


「係長はどうします?」
「私も今日は埋まってるから。消灯は任せたよ。」


倉島も部屋を後にした。部屋に残されたのは凌と綾だけだ。


「じゃあ東條君、2人で行こうか。」
「はい。」
「何を食べに行く?」
「肉料理は勘弁してくださいよ。」


凌は新調したスーツにコートを羽織り、出入口で待つ綾と共に部屋を後にした。



―――了
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