本編
凌は呆然と立ち尽くす木内に斬り掛かった荒木――ツルクの刀を光の刃で受け止めた。
状況が一変した瞬間、一樹はさり気なく現場から後退りする。
「下がれ!」
凌に怒鳴られ我に帰った木内は姿勢を低くしてその場を離れる。
それに釣られ伊吹と綾もツルクから距離を取った。
刀と刃が接触し合う膠着した状態。これにデジャヴを感じた凌は蹴られる前にツルクを蹴り飛ばした。
距離を確保した凌は接近戦に持ち込ませまいと光弾を連射し、今回も苦戦を強いられるであろうと覚悟した。
が、それは心配には及ばなかった。
ツルク…基荒木は光弾を避けるのが精一杯の様で一向に距離を詰めてこなかったのだ。それに加え動きは本家よりもキレが無かった。
「姿はコピーできても戦い方までは真似できないようだな。」
そう言ってツルクの回避進路上に光弾を撃つ凌。ツルクは光弾を刀で受け止めると突然立ち止まり自身に再び閃光を纏う。まばゆい閃光に凌は一瞬だが目を逸らし、再び目視するとそこにいたのは東條凌だった。
「!」
「驚いた? 私は触れられば誰でも変身できるのよ。」
凌は先程の無理矢理に近い握手を思い出す。
凌の姿声色で話す荒木は指鉄砲を形作り、本人と同じように光弾を発射させる。
「凌」の放った光弾を自分の光弾で相殺する凌。
その隙に「凌」は遠くで事態を傍観していた伊吹達に向かい光弾を乱射した。
「!」
伊吹達は各々物陰に隠れ光弾をやり過ごす。
「凌」は両手に光の刃を形成すると伊吹らに向かい走り出した。
凌は同じく光の刃を形成すると先回りし受け止める。さらにそれをすぐに振り払うと刃を消し「凌」の両手首を掴み光の刃を消滅させた。
「俺の能力で人は殺させない!」
「やっぱりあなたから消した方が良さそうね。」
「凌」は光の弓を形成し弦を引く、それに伴って光の矢も形成された。
「これは「私」自身の技よ。」
言葉と共に放たれた光の矢を、正方形の光シールドで防御する凌。
「凌」は矢を連射し凌はそれを受け止め続けた。
「凌」は光シールドで守られていない凌の脚を狙い矢を放つ。そして見事に矢はシールドの死角を突破した。
「東條君!」
しかし矢は凌の脚に突き刺さる手前で静止した。
綾の念撃によるものだった。
「! この人にも能力があったのね。なら…」
「凌」は再び弓の弦を引き綾を狙うが突然自分の身体に異変を感じたかと思うと、次の瞬間には荒木美香に戻っていた。
「何故…」
「やはり爾落でもないのに能力を乱用したな。」
不測の事態にうろたえる荒木。綾は荒木に近付きながら語り始める。
「あなたは後天的能力者ね。」
「後天…的…?」
「何の事か分からないみたいね。能力者は生まれつき能力を宿しているか、生まれてから能力を授かるかによって2つに分けられるの。
後天的能力者の力は、先天的能力者…つまり爾落には到底及ばない。
それでもあなたの「G」の力は強い方だけど限界があったみたい。ここまで能力を酷使したのは初めてだったでしょう?」
「……」
彼女の顔は疲労の表情が大半を占め、綾の言葉を確かめるべく再び変身を試みるも無意味だった。
満身創痍な荒木に凌は背後から押さえ付け、綾は能力封じのブレスレットを嵌めさせる。
「一先ず公務執行妨害と殺人未遂。綾さん、」
凌の意図を感じ取った綾は腕時計を見た。
「午前9時12分。」
「荒木美香、午前9時12分現行犯逮捕。」
荒木は能力を封じられた上手錠を掛けられ成す術のなく連行されようとしている。