本編
「あぁ、刑事さん。」
翌日、2人は再び荒木のアパートを訪ねていた。荒木とは呼び鈴を押す前に玄関先で出くわしてしまっていた。
「上がります?」
「お構いなく。今日は野暮用ですよ。」
そう言った伊吹は内ポケットから名刺入れを取り出す。
「何か思い出した事がありましたら私に連絡を。これ、名刺です。昨日渡し忘れたので。」
伊吹はある名刺を取り出し荒木に差し出す。
「あ、分かりました。……石葉幸治?」
「あっ、すいません。これは電気屋の名刺でした。最近テレビを買い替えまして…」
「あぁ、そういう事ですか。お名前が違ったので驚きましたよ。」
「以後、気をつけます。」
電気屋の名刺を苦笑いのままさり気なく回収し、名刺を渡し直した伊吹と木内は撤収する。
荒木が部屋に戻ったのを確認した伊吹は、車に戻りつつ電気屋の名刺を証拠品袋に収納した。
「鑑識に廻すぞ。名刺の指紋と上原の家の指紋を照合させろ。」
あまりにも手慣れた作業だった。木内は頭に浮かんだ率直な疑問を伊吹にぶつける。
「伊吹さん、いつテレビを買い替えたんです?」
「さぁな、俺そんな事言ったか?」
伊吹は惚けた様子で答え、煙草に火をつけた。
「あれ? 今日はどうした、しかも誰かを連れて来るなんて。」
数時間後、伊吹と木内は特捜課を訪れていた。
「少しお前達に聞きたい事があってな。この人は俺の上司の伊吹警部補。」
紹介された伊吹は特捜課の3人と倉島係長に建前上の握手を無言で交わす。
「それで用件は?」
「俺と伊吹さんは今、あるヤマを追ってる。それで目をつけてる人物の指紋とガイシャの家で採れた指紋を照合したら一致した。」
「それが俺達とどんな関係が?」
「その指紋を警視庁のデータベースで全照合してみたら、ツルクとか言う「G」の刀から採れた指紋と一致したんだ。」
「!」
「もしかしてその殺人事件の凶器は特定できていないの?」
綾は自分の頭に過ぎった推理を確かめるべく木内に問い掛ける。
「あぁ、ただ断言できるのはこの前の通り魔事件と同一の凶器が使用されていた事だけさ。」
この答えに綾は自分の推理に信憑性が増した事を感じた。
「まさか…その事件のホシは何かの能力者かもしれない。」
「能力者?」
「断言はできないけど凶器か何かをコピーできる能力を持つ人間かも。そしたら凶器の説明がつくわ。」
綾の推理を聞いた木内は伊吹と顔を見合わせた。
「実は明日、その人を任意で引っ張ろうと思ってる。」
「私達も同行して宜しいですか?」
綾は木内ではなく会話を静観していた伊吹に問う。
「…別に良いが邪魔はするなよ。」
伊吹は脅しとも取れる眼力と共に返答した。