Date of Nativity


 三章 白銀の巨人

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 この一週間は何かと忙しかった。だが、それも終わりに近づいていると思うと安堵する。地球の危機は、この前ようやく片付いた、という報告をもらうことができた。地球から飛来したあの怪獣が全て行ったと思うとそのポテンシャルの高さに感心させられる。僕ら宇宙警備隊員でも一人でここまで完璧に処理するなんてなかなかできない。周囲の惑星に対する二次被害なども無く、きれいさっぱりだ。その報告が宇宙警備隊本部があるこのM78星雲に届いたのがつい昨日。
 あの、モスラと名乗る怪獣の使いが知らせに来た。それを受け取ったのは僕なのだが、モスラそっくりの使いが飛来したと思ったら、二人の人の形になった。その姿は、宇宙警備隊特別保護領域に指定されている惑星、地球の人間とそっくりだった。
 地球が宇宙警備隊特別保護区になっている本当の理由は明らかにはされていない。そのはずなのだが、実際の理由は皆分かっているので、あえて言う必要も無いと言ったところだろう。地球は、銀河系全体で見てもまれにみる完成された生態系である。恒星からの距離。知的生命の発展。そして、惑星間航行がまだ本格的に果たされていない。つまりはその惑星の生態系の保護を行うには適した惑星ということだ。このウルトラの星周辺の惑星は、個人での惑星間航行が頻繁に行われている。生態系の保護なんてあったものではない。そして、中には地球の生態系を独り占めしようとする惑星人や、住み着こうとする怪獣だって多数存在する。それを阻止するのが宇宙警備隊特別保護区分隊である僕たちの役割であり、僕はその隊長を任されている。

 ――まただ。僕の頭上に現れた小さな光。あのモスラの使いが飛来してきた。これで何度目かの交信になる。モスラが地球に向かう巨大彗星を破壊すると宣告してきたのが始まりだった。分隊の助けも受けずに自分だけでやると言ってきたところに僕は感心したのをよく覚えてる。というのも、惑星間を航行する怪獣に対し、基本的に宇宙警備隊はあまりいい反応をしない。その事をわかってた上であらかじめ宣告してきたかのようでもあった。その後の働きで、宇宙警備隊はモスラを信じる事にしたのだが。今度モスラが知らせてきた内容は僕らの想像とは違っていた。モスラの使いの妖精が僕に語り掛ける。

「地球の危機はまだ終わっていませんでした。凶悪な意思を持った宇宙怪獣が地球に向かっています」
「なんですって?」
「もし、あの怪獣の地球飛来を許してしまうと、地球はあの怪獣に征服されてしまいます。お願いです。私たちでは間に合いません。地球を、あの怪獣から救ってください」
「その怪獣は今どのあたりに?」
「間もなく太陽系に突入します。ですが、信じられない速さで移動しています」
「わかりました。ここからは我々に任せてください」

 凶悪な宇宙怪獣。宇宙警備隊としては決して難しくない相手だ。だが、あのモスラの焦りも気になる。他の分隊ではしばしば単独行動もさせるらしいが、ここはやはり全員で行くべきだろう。僕はすぐに分隊の戦闘員を呼び出すウルトラサインを送った。幸い、全員が本部周辺にいたので、召集してから集合するまでに時間はかからなかった。特別保護区分隊の戦闘員は全部で5人。並大抵の怪獣なら正直相手にならない戦力だ。
「モスラからの知らせだ。地球に宇宙怪獣が
迫っている。移動スピードが非常に速い怪獣らしい。全員で迎撃に行くぞ」
「隊長、敵は何匹ですか?」
「複数とは言っていなかった。だが、油断はするな」
「はい!」

 そう。並の怪獣ならば十分すぎる戦力なのだ。若い隊員でなくても疑問に思って当たり前の話だ。だが、この場で口にはしなかったが、モスラの通信を直接受けた僕はこの時、とてつもなく嫌な予感がしていた。出撃前の隊長がそんな事、口に出して言えない。だから僕はそれ以上何も言わずに、僕らは出撃した。
その嫌な予感が的中することなど、夢にも思わずに……

  
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