‐バラガミ‐ 今によみがえる飛梅伝説(総天然色版)
――さくらちゃん、ごめんね。お別れになっちゃって・・・
――ぐすっ・・・ううっ、うわあぁ~ん!
――おっきくなったら、ぜったい会いにくるから、それまでまってて。
ぜったいぜったい、会いにくるからね!
――ううん・・・!じゃあ、わたしがあいにいく!とびうめさんみたいに、まことちゃんのとこにいくっ!
――え、ええ~っ!?
――いくったらいくの!
はなればなれなんて、いや!
まことちゃんと、ずっといっしょにいたいもん!
わああぁぁ~ん!!
――・・・うん。じゃあぼくも、まってるからね。
けど、ぼくがもっとおとなになったら・・・
数十分後、京都・桜花神社前・・・
「ふっふっ、ふ~ん♪」
これからが楽しみ過ぎて、真ちゃんとお別れした日の事を思い出しちゃった。
真ちゃん、もう少しだけ待っててね・・・
「・・・よし!とうちゃく!」
ここが、桜花神社。
北野天満宮のすぐ隣の林の中にひっそりと建つ、ちっちゃい神社です。
何故か何百年も花を付けない桜の木と、お地蔵様しかいない神社なので、観光ガイドにも載りません。
地元の人でもあまり知らないくらいですから、ほんとに神社やお地蔵様が好きな人とかしか来ないのですが、わたしは昔から不思議と好きな場所で、何度通ったか分かりません。
どうしてでしょう・・・ここに来ると心が落ち着いて、ちょっと懐かしい気持ちになるんです。
まぁ、きっと平安時代からあった歴史ある場所だからかもしれませんね。
「ええっと、松ぼっくりは・・・あれっ!?」
ど、どうしましょう!
こっそり置いていた松ぼっくりがありません!
確かにここに、銀色のお皿の上に置いていたのに・・・お皿も無くなってますし・・・
わたしぐらいしか来ないと思っていたのに、まさか誰かに見つかったのでしょうか!?
わたしの他にもバラン様の伝説を知っている人がいて、もっと霊験あらたかな場所に持って行ったのでしょうか!
そんなぁ・・・わたしの、お願い事が・・・
「どうしよ・・・楽しみにしてたのに・・・」
わたしとバラン様には、縁がなかったのでしょうか?
それとも、自分の願い事は自分の力で叶えなさい!と言うお告げなのでしょうか・・・
「ごめんね、真ちゃん。真ちゃんに会えるのは、もっともっと先に・・・っ!」
・・・その時でした。
突然神社にもの強い風が吹いて、わたしは飛ばされないようにその場にうずくまりました。
それだけ強い風なのですが・・・今日は雲一つない快晴で、強風の予報なんてなかったのに・・・
「はううっ・・・な、なに、これ・・・」
しかしそんな中、わたしは気付きました。
風はただいたずらにビュービュー吹いているのではなく、ちょうど神社の上の方に向かって吹いていたのです。
まるで、風が集まっているような・・・
「ふるふる・・・あっ、やっとおさま・・・」
ようやく風が止み、ふと上を見た時・・・わたしは、更にびっくりしました。
「えっ・・・ええぇぇぇっ!?」
グウィゥゥゥゥゥゥゥゥウウン・・・
そう・・・さっき風が集まっていた神社の上、つまりわたしの目の前に、すごくおっきな怪獣さんがいたんです。
長い尻尾、背中から一直線に生えた棘々、むささびみたいに脇から膜を張って浮きながら、わたしを見つめる鋭い眼差し。
第一印象は恐竜みたいに見えましたが、わたしは体中が赤茶色・・・それこそ、松の幹みたいな体を見て直感しました。
「・・・あ、あの、あなたがバラン様、ですか?あっ、それとも『バラガミ』様の方ですか?」
そう・・・わたしが会おうとしていた、バラン様だと。
こんな姿をした神様と、お話出来たのかも分かりませんが、わたしはとりあえず話しかけてみる事にしました。
すると突然、わたしの頭の中にとても低くて渋い感じの男の人の声が聞こえてきたのです・・・
――・・・バランだ。
私を蘇らせたのは、御前か?
「は、はい!わたし、嵯峨野さくらです!13歳の中学生で、生まれも育ちも京都で・・・」
――雑多な事を聞いた積もりは無い。
「す、すみませんっ!」
――・・・む、待て。
御前、「さくら」と言う名なのか?
「はっ、はい。これはお父さんとお母さんがわたしがさくらの日に・・・い、いやいや、余計な事は聞いてなかったですよね・・・」
――否(いや)、大体理解した。成る程、然う言う事か・・・
其れで、御前は何故私を蘇らせたのだ?
「そ、それはですね、福岡にわたしが大好きな真ちゃんって男の子がいまして、もう5年も離れ離れで・・・だから、ちょっとだけでも良いので、真ちゃんと直接会いたくなりまして・・・なので、わたしを福岡まで連れて行って下さいっ!」
――「フクオカ」・・・「ダザイフ」に行きたいのだな?
「だざいふ・・・あっ、今の福岡ですね。そ、そうなんです!ちょっとだけでいいので、どうか・・・お願いします!」
――・・・ダザイフには、私も用が在った所だ。
序(つい)でに連れて行って遣ろう。
「ほ、ほっ・・・本当ですか!?あ、ありがとうございますっ!このご恩、一生忘れません!」
――只連れて行くだけだと言うのに、物事を誇張し過ぎだ。
ダザイフへは、今直ぐ行けるのか?
「はい!ばっちりです!」
――然うか。成らば、私の掌の中に乗れ。
「はいっ!分かりました!」
わたしは溢れる嬉しさを隠さず、こちらに差し伸べられたバラン様の手に飛び乗りました。
走り高跳びは苦手ですが、この時だけはクラスで一番になれたと思います・・・えへへ。
それから、わたしが乗ったバラン様の手のひらが薄い風で包まれ、どんどん体の感覚が上へ上へとなって行って・・・わたしはバラン様の手の中で空を飛んで、京都を離れて行きました。
「わあぁ~っ!すごい!わたし、空を飛んでる~っ!!」
――飛行する私の掌に居るんだ、当たり前で在ろう。
「ですけど、こんな凄い風景は飛行機でも見れませんよ!わたしが、空を飛んでるみたいで・・・」
・・・純粋無垢な所も、彼奴と酷似して要るな・・・
然う・・・私は嘗(かつ)て、ヘイアンの都に聳(そび)えて居た「マツ」にして、主で在ったドウシンを追ってウメと共に飛んだ「トビマツ」。
だが私は道中雷に撃たれ、セッツの地に降り立って根を張る事でしか自らの存在を保て無かった。
其の間に私の存在は「神」に也(なり)、セッツの地から離れられずに居た・・・だから、私は自らの存在の「種子」を蒔き、再びヘイアンの地の力で元の存在に戻れるのを待った。
其れがまさか、此の巡り合わせで戻る事に成ろうとは・・・
然も、私の種子を安置して居たモノ・・・ニンゲンが「オリハルコン」等と呼ぶ、謎の魔力を持つ銀のモノの力か、蘇生するや此処まで巨大なケモノに成って居るとはな。
まぁ、此の姿の方が都合としては良いのは事実だが・・・兎も角、待って居ろ。ドウシンよ。
御主の無念は、私が必ず晴らす・・・!