‐Grasper‐ 捕らえしモノ達







『・・・それから私はバラージと言う地に向かい、アントラーなる巨大な蟲に困る国王に授けた。実際にブルーストーンによってアントラーは退治され、ブルーストーンは今もバラージであった何処かの国にあると聞くわね。』
『それはきっと、クレプラキスタンだね?そこの伝承では、君はアントラーを退治した「女神」と呼ばれているそうじゃないか?』
『「女神」、また私には荷の重い肩書きを・・・』
『ほう、クレプラキスタンか・・・いつか、完全なる「殺ス者」としての力が必要となる時が来たら、訪れるとしよう。』
『それで、緋色真珠はその頃に君が主な居住の地にしていたアテネに安置し、5年前の竜宮・大戸島襲撃時に回収した。四神覚醒の陰で、「万物」に至ろうとしていた蛾雷夜・・・「組織」との対決に備えて。まぁ、まさか四神大戦の時に君の独断で無くなるとは、思っても見なかったけどね?』
『代わりとなる「予備」・五つ目の緋色真珠を見付けたのだから、構わないでしょう?それに下手をすれば、あのまま蛾雷夜が「万物」に至っていた可能性もあった事は指摘済みよ?』


ーー・・・まぁ、そのせいで数年は無駄な時間を掛ける事になったけど。
不老の爾落人だからこその、無意味な日々・・・やむを得なかったとは言え、あの退屈は高く付くぞ?パレッタ・・・


『三重県・志摩の港町・大王町の沖に浮かぶ無人島・緋島、だったか。日本の片隅の更にもっと片隅にあったとは、難儀だったね?』
『あえて「機関」に、私やヘッドに仇なす事を行い、あわ良くば私に殺されるのを望んでいた・・・その点もあったのだろう?「負」、破壊そのものたるアルビノギャオスは私も興味があったからな。だが、奴がいなくなろうと私が完全な「殺ス者」となれば良い、それだけの話だ。残念だが。』
『・・・いいわ。いつか、貴方が私に「死」を与えてくれれば、それで良いから。』
『その時には、私も漸く死ねるのかな?「G」をこの世界から消し去る、私の願いが成就した時に・・・!』
『ハハハハハ!全く、勝手な連中だ・・・私を怖れているのか、こき使っているのか、まるで分からんな?』




互いの顔を伺いながら、三種三様の笑みを浮かべるヘッド・レリック・エリクシア。
願望、絶望、期待、達観、愉悦、空虚、破滅・・・彼らの笑いには、様々な感情が複雑に入り交じっていた。




『ところで、「獅子の瞳」はどうしたんだい?今は持っていないようだが、君が持つに相応しい「G」だと思うんだが?』
『バラージに行く最中の山脈に捨てたわ。その後の行方は知らないけど、使い方によっては危険をもたらすから、もう「G」ハンターが盗んだんじゃないかしら?それに、そんな物が無くとも・・・私の顔と身体は、雄も雌も異様なまでに蠱惑するようだから。』
『私と会うまでに、長過ぎる凌辱の日々を過ごすのを強いられたようだからな?まぁ、私には外見など関係も興味も無いが。』
『そう言う貴方だから、私は貴方に着いて行く事にした・・・私にとっては、丁度良いわ。そんな事より、最後の緋色真珠が無くなってもいいの?四神の関係者や「G」ハンターがいるのでしょう?』
『その時は・・・いよいよ君達の出番になる、それだけさ。』
『本当に、この男は・・・』
『死なない男、それだけなのにね?』









ーー・・・イノウ、ケス・・・!




待紋博物館前では、ヘッドの思惑で復活したダイモンが数千年経っても消えない「異能」、「G」への恨みのテレパシーを発しながら、緋色真珠を求めて瀬上に狙いを定め、重傷を負いながらどうにか意識を保つアネモスは、この理解し難い事態にただただ戦慄していた。




ーー・・・この、取り憑かれたかのような「G」への憎しみ、まるでヘッドのよう・・・はっ!
まさか、ヘッドの本当の目的は・・・この魔人の復活!
「機関」の、自らの最大の目的を果たす為の、手駒とする為なのか・・・!?
・・・ならば、私の目的は既に果たされたと言う事になる。緋色真珠はまた事態が一段落した時に回収すれば問題は無いし、動くとしても「G」ハンターや初之兄妹の動向を見てからで良い・・・わざわざ、火中の栗を拾う必要は無いのだから。
今ここで戦いを続けるのは、非効率的過ぎる・・・
そう、逃げるは恥では無い。
無いのだ・・・!


『・・・撤退!』
「あっ、こんのグラサンハゲ!待ちやがれ!」




ヘッドの真意を察し、尤もな理由を付け・・・敵に背中を見せ、戦術的撤退を実行するアネモス。
隼薙は気付くも、自身そのものを気圧で弾いてのアネモスの決死の逃亡と、眼前に迫るダイモンへの警戒を保ちながら彼を追うのは、不可能であった。




「ほっとけ、あんな奴!今はあの魔人をどうするかだろ!」
「わあってるよ!だがあいつは穂野香の言う通り、人間サイズの四神・・・穂野香アンバーと戦ってるようなもんだ!」
『あの時のアンバー殿の強さは、私が保証する。「火炎」の「G」を持つ穂野香様の体に憑依する事により、唯一アンバー殿が扱えかった「火」の元素を実質扱えるようになった、つまり四大元素を全て掌握したあの時のアンバー殿は、並の巨大「G」ならば労せず倒せていた・・・』
「香川でテレスドンとか言う奴を簡単に倒してたし、四神大戦の時は俺・・・バランを色々サポートしたり、アルビノギャオスの超音波メスからみんなを守ってたからな!」
「実質巨大「G」戦、って事か?だが、あいつは所詮は怪人だ・・・四大元素を使う時に、特定の予備動作をする。」
「予備動作?」
「例えば・・・」




瀬上が情報を話す前に、ダイモンは魔笏をくるりと回して2人の足元を凍らせようとする。




「・・・冷凍攻撃だ!避けろ!」
「お、おう!」




が、その直前に瀬上は冷凍攻撃を見抜き、隼薙に回避を指示。
瀬上は右に、僅かに反応が遅れた隼薙も即座に左に跳んで冷凍攻撃を回避し、地面が凍るだけとなる。




「よっしゃ!今度は足を取られずに済んだぜ!しかし、よく分かったな?」
「あの杖みたいなやつを、くるりと回したからだ。さっきお前が転んだ時、同じ動作をしてたからな?」
「それは言わなくていいんだよ!んで、他はどんな動作だ!」
「・・・次は岩雪崩だ!」




続けてダイモンが魔笏を降り降ろすのを見た瀬上は、先程自分に放って来た岩雪崩が来るのを予期し、左右の指からレーザービームを出して岩雪崩を全て破壊した。




「おおっ!」
「やっぱりな!振り降ろしたら岩雪崩だ!次は竜巻が来るぞ、風神!」




岩雪崩を破壊されてすぐにダイモンが魔笏を横へ振るったのを見て、次は焔と共にアネモスを焼き尽くした竜巻が飛んで来るのを瀬上は見抜き、隼薙に伝える。




『了解した!』
「っしゃあ!風の勝負なら俺の勝ち確なんだよ!」




隼薙・アークも瞬時に対策を取り、ダイモンが竜巻を出した、その刹那に隼薙は更に勢いのある竜巻を繰り出し、ダイモンの竜巻を打ち消すと共に高速回転したアークによって竜巻は渦巻きとなってダイモンの体を捉え、魔笏を振るえないように拘束する。




「よくやった!後は俺が・・・」



ーー・・・ムイミナ、コトヲ・・・




だが、ダイモンは魔笏から焔を出し、渦巻きにあえて纏わせる事によって超高熱を周囲に放射。
レールガンを撃とうとした瀬上のパチンコ玉を、強火で加熱した鍋の如く高熱にし、隼薙・アークが怯むと共に瀬上はパチンコ玉を手放してしまう。




「「あつっ!!」」
『くっ、渦巻きを利用しての反撃か・・・!』
「おいこら、雷神!火炎放射が来るなんて聞いてねぇぞ!」
「焔を出す時は杖を突き出す動作をしてたんだよ!チッ、焔に限ってはノーモーションで出せるのか・・・!」



ーー・・・ホロビヨ・・・




瀬上の読みが外れた隙に、ダイモンは岩を隆起させて焔の渦巻きを消し去り、そのまま岩を雪崩として瀬上・隼薙を攻撃。
瀬上はレーザーで、隼薙は鎌鼬で岩雪崩を破壊するが、数秒は焔に包まれていたにも関わらずダイモンは汗一つ掻かずに魔笏を振り上げ、四つの分身を生み出す。




「あいつ、焔も平気ってのかよ!マジのバケモンじゃねぇか!」
「渦巻きで拘束しても、またあの戦法が来るな・・・」
『・・・むっ?』
「どうした?アーク?」
『いや、本物の魔人の腰部のバックルのような部分から、微かに紅い光が確認出来る・・・』




アークの指摘通り、本物のダイモンのバックルのヒビからはほんの少し紅い光が漏れ出しており、分身のバックルからは光が漏れ出していなかった。




「・・・あれ、緋色真珠の光か?まさかあの中に、緋色真珠の欠片でも入ってるんじゃないか?」
『そうか!ならば魔人が四大元素を自在に使役したり、緋色真珠に執着したり、青銅の中で何千年も生き永らえていたのにも納得が行く!』
「つまり、あのバックルをぶっ壊せばあいつを倒せるかもしれねぇんだな!」
「それが出来たの、話だがな!」




そう、ダイモンは変貌前に緋色真珠の欠片を腹部・・・バックルに埋め込み、炎の中でダイモンとなったのだった。
しかし、弱点が分かっても二人組の分身が隼薙には冷凍・岩雪崩、瀬上には焔・竜巻攻撃を仕掛ける、予断の許さない現状では分身の相手が精一杯であり、とても本体のウィークポイントを突く暇(いとま)など、今の2人には到底無かった。
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