‐Grasper‐ 捕らえしモノ達











その頃、某所の「機関」本部。
ブリーフィングルームに、3人の人影があった。




『今頃、緋色真珠に惹かれて「ダイモン」が目覚めている頃だろう・・・』




1人は、「機関」の司令である男・ヘッド。




『相変わらず、強かなやり方をするな?ヘッドよ。あの男の忠誠心を利用し、命を落としかねない危険なお使いを本人に秘密でやらせるとはな?』




もう1人は、「機関」最強・・・いや、「最凶」の男である「殺ス者」、レリック。




『忠誠心は、利用するに越した事は無い。私無しでは生きられなかったに等しいアネモスは、それを体現するかのような存在だよ。もし彼が死んでしまったらそれは残念だが、ダイモンは補って余りある程の破滅をもたらすだろうね・・・』
『破滅、か。私を前にしてそのような表現をするとは、相当なものなのだろうな?』
『それは間違い無いわ、レリック。ダイモンがそれ程までに、「G」を憎んでいる事は。』




そして、3人目・・・「機関」内でレリックに次ぐ位置にいる女、「錬成」の爾落人・エリクシア。




『確か、お前はそのダイモンとやらと会った事があったのだったな?』
『彼女はバビロニア伝承に名が残る「錬成の魔女」、その張本人だからね・・・どうだい、エリクシア?レリックにダイモンの事を話してはくれないか?』
『私も興味があるな。聞こうじゃないか、エリクシア。私と出会う、遥か以前のお前の事を含めてな。』
『・・・分かったわ。滅亡寸前のバビロニア人達から聞いた内容もあるから、真偽が不明な所もあるけど・・・』




珍しく他者の事に興味を持ったヘッドとレリックに催促され、エリクシアは話し始めた。
「四象」の魔人・ダイモンの起源を・・・










・・・約3000年前、紀元前で言えば1000年頃。
バビロニアの都市・ウルは異能者、今で言う能力者が支配していた。
この頃は能力者程度でも、一つの街を支配出来た時代だから。
その能力者は女で、どうやら炎を多少増大させる「G」、とりあえず「炎上」として・・・人間に文明をもたらす切欠となった「火」を操る事で、人々を奴隷として使っていたらしいわ。




『ぎゃ、ぎゃああああああああっ!!』
『ホホホホホ!!指一つ動けもしない奴隷なんて、要らないのよ!ワタシの火で燃やしてやるわ!!』
『あ・・・がっ・・・!!』
『ほら、そこ!この不要物を早く捨てて、労働に戻りなさい!!』
『『は、はい!!』』




そんな中、苛烈な労働に力尽きたある奴隷の男が、いつものように「炎上」の女に焼かれ、墓場と言う名のゴミ捨て場に捨てられた。




『・・・ぐ・・・ううっ・・・!!』




だが、その男は辛うじて生き延び、墓場から脱出しようとした・・・




『・・・あ、あれは・・・!!』




その時、男は見たのだろう。
墓場の骨の中に埋まる、アトランティス大陸滅亡時に白虎から離れ、いつしかバビロニアへと流れ付いた、緋色真珠の輝きと・・・




『・・・天の、光が・・・落ちて・・・来た・・・?』




レリック、貴方が気紛れに分散させた「殺ス者」の力の一つ・・・ブルーストーンが落ちて来るのを。




『・・・っ、生きる・・・!わたしは・・・生きる・・・ッ!!』




緋色真珠を手にした男は、四大元素を増幅させる緋色真珠の【性質】に触れ、墓場付近の湖で「水」の元素の浄化作用を使い、全身の傷を癒した。
次に男はブルーストーンを回収し、緋色真珠とは逆にブルーストーンが「G」を、異能を打ち消せる事を知り・・・「炎上」の女に反逆する事にした。




『異能者め!!貴様に焼かれながら私は、墓場から舞い戻ったぞ!私を再び焼けるものなら、焼いてみろ!!』
『なんですって?どんな異能を使ったかは知らないけど、そんなに焼かれたいなら・・・望み通りにしてあげるわぁ!!』




男はあえて「炎上」の女の炎を浴び、緋色真珠を使って火の元素の【性質】たる「変化」、それを女の炎を利用して発揮し、自らの体を作り替え・・・




『なっ・・・!?』
『・・・フッフッフッフッ・・・アッハッハッハッハッ・・・!』




「四象」の魔人・ダイモンとなった。




『く、来るな!!ケダモノめが!!燃えろ!!燃えろぉ!!』




「炎上」の女が放つ炎を全て、ブルーストーンで無力としたダイモンは、まるで民に見せ付けるかのように女の喉笛を食い千切り、吹き出す血飛沫に染まりながら流れる血を悉く啜(すす)り、惨たらしく殺した・・・




『ごぶあああぁ!!
・・・が、はっ・・・あ・・・!!』
『・・・その血だけは、中々美味だったな・・・フッフッフッフッ・・・』






こうして、バビロニアの独裁者はダイモンによって討たれた・・・でもダイモンの中の怒りと憎しみは、バビロニアと「異能」、「G」自体に向いた。




『許せん・・・許せん・・・この国を・・・「異能」を・・・!
憎い・・・
憎い・・・
憎い・・・
憎い・・・
憎い・・・!』




ダイモンはウルに眠る秘宝、四大元素を集める「G」である「魔笏」を手に、バビロニアの各地を滅ぼして行き、見付けた異能は例外無く血を吸いながら殺した。
恐らく、ダイモンは強引に自らの姿を変えた代償として、能力者か爾落人・・・「G」の血が必要な体質になったのだと思うわ。
バビロニアの民はダイモンを時に恐れて別の国へ逃げ出し、時に立ち向かっては死に、時に服従を誓って手駒となり・・・皮肉にも、あれ程憎んでいた「炎上」の女以上に恐怖をもたらす存在となってしまっていた。
過ぎた力に飲み込まれた者の、典型的な末路ね。






『・・・お前が、噂のダイモンか?』




・・・そんな頃よ。私がバビロニアを訪れたのは。
あの頃の私には、何処と無く正義感に近いものがあった。
だから「G」を使ってバビロニアを壊滅させた罰を与える為に、ダイモンの元へ行った。




『・・・美しい異能だ。私の血となるに相応しい・・・』
『何を言っている?私は、お前に負ける気など無い。負けるのはお前だ。』
『フッフッフッフッ・・・笑わせる。どんな異能であろうとも、私には通じないのだぞ・・・!』
『その「青い石」の力か?お前には過ぎた道具だ、取り上げる。』
『アッハッハッハッハッ!私を愚弄するのも、大概にしてお・・・!?』
『・・・ほう?まだ人間、いや雄としての本能は残っていたのだな?』




私は道中で見付けた「獅子の瞳」と言う、「魅惑」の「G」を持った宝石を使い、ダイモンの動きを止め・・・




『・・・驕れた罪だ。長き時を持って償うのだな。』




体を青銅で覆い、像へと変えた。
一切動けなくなれば、緋色真珠やブルーストーンを持っていようと意味は無いから。
その後、衰退したバビロニアはアッシリアの支配を受ける事になり、ダイモンと言う存在を退け、ブルーストーンと緋色真珠を持ち去った私の事は、事実から多少の改変や差異はあれど、バビロニア伝承に於いて「錬成の魔女」と呼ばれるようになった・・・
8/13ページ
スキ