‐Grasper‐ 捕らえしモノ達







ーー・・・ミツケタ・・・



博物館内。
アネモスが緋色真珠の力を使い始めたのと共に、博物館の出入口からすぐ近くに展示されていた「バビロニアの大魔人像」が小刻みに振動を始めたかと思うと、紅い光を放ちながら爆発。
爆煙の中から一つの影が現れ、大魔人像が持っていた、先端部に竜頭・その下に小さな斧刃・尻部に三本指のような三股が付いた小型の杖「魔笏(まこつ)」の柄を伸ばし、振るう。
すると強風が館内に吹き荒れ、コンクリートの壁を発泡スチロールのように容易く破壊してしまった。






『むっ・・・!』
「!?」
「見て、お兄ちゃん!博物館から何か出て来た!」
『これは・・・隼薙、「G」による風の反応を感知した。「疾風」でも「空操」でも無い、微かに他の四大元素が混じり合ったような、異様な風だ・・・』
「あぁ・・・明らかに嫌な感じの風がビンビン来たぜ・・・!」
「おい、あれってあの博物館にあった妙な像じゃないか?」




瀬上の言う通り、博物館の壁穴から現れた、謎の影・・・それはさながら「大魔人像」が青銅を脱ぎ捨て、意志を持って一人でに歩いているようにしか見えなかった。
肋(あばら)骨が剥き出しになったような胸部と、それ以外が猛禽類の羽毛に似た鎧に覆われた全身の色は深緑に変わり、腰部に五つの骸骨が付いたチャンピオンベルト似のバックルを身に付け、鬼神の如きおぞましい形相をしながら何処か薄ら笑いを浮かべた、青銅像の時には存在しなかった血走った眼力が本能的な恐怖をひしひしと与える、鼻と後頭部が異様に伸びたその顔はまるで烏天狗・・・いや、和風ドラキュラと呼んで差し支え無い異形が、そこにいた。





『大魔人?何者だ?』



ーー「アカイイシ」ヲ、ヨコセ・・・



「「「『!?』」」」
『んっ?どうした、隼薙?穂野香様と瀬上殿と・・・アネモスも?』
「えっ?お前、聞こえなかったのか?」
「今、頭の中に聞いた事無いはずなのに、意味だけは分かる言葉が流れて来て・・・」
『・・・もしや、テレパシーの一種か?』
「だろうな・・・お前は人間と作りが違う人工「G」、AIだからテレパシーが届かなかったんだろ。」




魔人は両手を掲げ、テレパシーでアーク以外の者に意思伝達をしながらアネモス・・・厳密には彼が持つ緋色真珠を標的に定め、歩み寄って行く。




『赤い石?これの事か?残念だが、渡す気は無い・・・!』




アネモスは右手に生成した光から超音波メスを放ち、魔人の首を切り落とそうとする。
だが、魔人が魔笏を降り下ろすや周囲の地面が隆起し、魔人を取り囲む岩の壁が完成。
超音波メスは岩壁を横凪ぎに切り裂くも、岩壁に阻まれ魔人には届かなかった。




『くっ・・・ならば!』




アネモスは気圧の壁を生成し、魔人へ叩き付けて岩壁を破壊。
続けざまに音波攻撃を放ち、今度こそ魔人に攻撃を当てようと試みる・・・が、魔人は魔笏を左から右へ振るって竜巻を起こし、続けて魔笏を前へと突き出して竜頭部から焔を噴射。
焔を纏った竜巻は音波を突き抜け、アネモスの全身を焼き尽くす。




『うおおおおおおっ・・・!?』
「岩で壁作ったかと思えば、次は炎の竜巻だぁ!?」
「・・・何だか、アンバーが私の体を借りてた時みたい・・・!」
『その指摘は正解かもしれません・・・魔人は間違い無く、四大元素を自在に使いこなしています!』
「四大元素を?」
「さしずめ、「四象」ってとこか・・・だからあの石をよこせ、って言ったのか?」




瞬く間に大ダメージを受け、全身を焼かれたアネモスは緋色真珠を手放してしまい、魔人は竜巻を止めて地面に転がった緋色真珠にゆっくりと迫る。




「まずい、あれを取られたらとんでもない事になる!行くぞ風神!」
「命令すんな!あと俺の名前は隼薙だ、って言ってんだろ!」




事態の悪化を察した瀬上と隼薙は、どうにか緋色真珠を魔人に渡さんと駆け出す。
それを見た魔人は魔笏を空に掲げ、自分に瓜二つだが少し透けている「分身」を二つ作り出すと、一つは魔笏からの焔を隼薙に、もう一つは地面を隆起させての岩雪崩を瀬上へ飛ばした。




「うわっ!?三つに増えたぞあいつ!」
「惑わされんな!四大元素辺りで作った只の分身だ!分身ごと倒せるくらい強い攻撃を出せ!」
「わ、分かってるっての!」




瀬上は冷静にレールガンで岩雪崩ごと、隼薙は僅かに反応が遅れるも無数の鎌鼬で焔を切り裂きながら、分身をそのまま攻撃。
分身は消え去り、2人は立ち止まらずに真っ直ぐ緋色真珠に向かう。




『流石は瀬上殿、惑わされずに的確な判断をする・・・』
「お前まであいつに懐くなぁ!んなろ、こうなったらあいつより速く石をぶんどってやらぁ!」




隼薙は全身に風を纏わせ加速し、瀬上を追い抜いて緋色真珠に手を伸ばす・・・が、魔人が魔笏をくるりと回したその時、隼薙の足元が一瞬で氷付き、足を取られて転倒した隼薙は地面に思い切り顔面をぶつけてしまった。




「あいたあっ!!」
『冷凍攻撃・・・水の元素の応用か!』
「何も考えずに突っ込むからだバカ!だがお陰で、あいつの戦法は大体分かったぜ!」




今度は瀬上に冷凍攻撃を仕掛ける魔人だが、瀬上の下半身が凍った暫し後、凍った筈の瀬上の姿が消え失せ、魔人の右横にいつの間にか消えた筈の瀬上がいた。
先程凍った瀬上は、光学迷彩で作った瀬上の即席の分身だったのだ。




「分身戦法を使うのは、お前だけじゃないって事だ!ついでに俺は、狙ったターゲットは絶対に逃さないんでな!」




瀬上は右手から電磁波を発して緋色真珠に当て、それと共に左手を突き出す。
すると緋色真珠は一瞬で瀬上の左手に吸い寄せられ、魔人の手に渡る事は阻止された。




「くそっ!あいつが先に石取りやがった!」
『成る程。右手からプラスの作用のある電磁波を発して緋色真珠をプラスとし、同時に左手にマイナスの作用のある磁力を自身の掌に宿していたのか・・・』
「ど、どう言う事?」
『平たく言えば、磁石だ。瀬上殿は自分と緋色真珠を簡易的なプラスとマイナスの磁石とし、緋色真珠を磁力で引き寄せたのだ。』
「ほぉ~、あいつ意外と科学的なん・・・って!危ねぇ危ねぇ、俺はあいつなんか認めねぇからな!」


ーーもう、お兄ちゃんったら・・・
でもやっぱり、瀬上さんって凄い!
このままあの魔人を、お兄ちゃんとアークと一緒に倒せるかも!
私だって・・・ううん、ダメダメ!
能力者の私なんて、足を引っ張るだけ・・・大人しく、見守らないと・・・







ーーヨコセ、「アカイイシ」・・・



「・・・断る。何なら、お前の手に渡るくらいならここで破壊してやる!」



ーー・・・ジャマヲスルノカ、「イノウ」ヨ?
ニクイ・・・
ニクイ・・・
ニクイ・・・
ニクイ・・・
ニクイ・・・



「『異能』?おいおい、そんなに「G」が憎いってか?」
『「G」が憎い?』
「あぁ。今もずっと呪いの言葉みてぇに憎い憎い、って呟き続けてやがる・・・気味悪ぃぜ。」






『どう言う事だ・・・ヘッドは私に、今日現れる「G」ハンターの始末と、ここに来るとSNSに報告していた初之穂野香及びアークの奪取のいずれかを実行し、頃合いを見て緋色真珠が機能するかテストしろ、と言う指示しか出していない。あんな者がいるとは、聞いていない・・・!』




魔人の「異能」・・・「G」への呪詛と憎悪の言葉が脳裏に流れ続ける中、予想だにしない現状にアネモスは動揺を禁じ得ずにいた。
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