‐Grasper‐ 捕らえしモノ達





瀬上が再度パチンコ玉を用意し、何時でもレールガンを発射出来る体勢になったのと同時に、隼薙は瀬上と逆方向に走りながらあえて嵐を解き、旋回から解放され空中に投げ出されたアネモスは初めて、サングラス越しに怒りの表情を見せる。




『第三目標の分際で私を弄ぶか、初之隼薙・・・!ならば、多少初之穂野香及びアークに傷が付こうとも、「G」ハンターごとまとめて潰す!』




アネモスは両手に力を込め、身の丈の数倍はある巨大な気圧の壁を生成し、眼下の隼薙・瀬上を押し潰そうと気圧の壁を叩き落とした。




「潰れるのは、どっちかな?」




だが、瀬上は俄然余裕のままレールガンを気圧の壁目掛けて発射し、気圧の壁を押し留めると三発目のレールガンの発射準備を始める。




ーー・・・もっと、もっと迅(はや)く!
音よりも、光よりも・・・速く!
一瞬でぶっ飛べ・・・!俺の体!!
超電磁砲よりも・・・奴よりも、迅く!!




隼薙は全身に風を纏わせたかと思うと、その風を自身を覆うように密着させ、目にも止まらぬ超スピードで上空のアネモスへ向かって行く。
それまで使っていた、追い風による加速とはまるで次元が違う、瀬上のレールガンにも負けない音速の先の領域に、隼薙は達したのだった。




「お兄・・・え、はやっ!?」




穂野香が激励する間も無い程の迅さで、隼薙はアネモスが自分が地面から離れたのを認識した、そのコンマ1秒後にアネモスの眼前に移動。
右手を振り上げ、疾風を乗せた一撃をアネモスに食らわせんとする。




ーーい、一瞬・・・!
だがやはり愚か者、私が攻撃のみを考えていたとでも思ったか!




そう、アネモスは気圧の壁を隼薙・瀬上を押し潰すの同時に自分の周りにも生成し、瀬上がレールガンで攻撃する間に隼薙が自分へ向かって来るのを察して、密かに対策を講じていたのだ。




ーー攻撃を防いだ間に、お前の全身に強力な音波を浴びせ・・・



「おいおい、だから俺はアウトオブ眼中かぁ?」




・・・が、瀬上が三発目のレールガンを発射。
レールガンはアネモス・・・では無く、隼薙の足元を掠めて行く。




『フン、外したか。「G」ハンターとあろう者が痛恨のミ・・・!?』




明後日の方向へ飛んで行くパチンコ玉を目視し、アネモスはほくそ笑む。
だが、しかし・・・レールガンに気を取られ、アネモスは気付くのが僅かに遅れた。
レールガンのジュール熱が発する熱波を利用し、隼薙が更に上空に舞い上がっていた事に。




『・・・初之隼薙が、いな・・・』
「ここだあああああああああああっ!!」




そして、隼薙の絶叫にアネモスが気付いた時には、既に遅し。
マッハを越える隼薙の疾風の拳が、アネモスの見えざる壁を上方から強引に貫き・・・アネモスの右頬にクリーンヒットした。




『ごふうっ!!』




右頬が抉れたアネモスは気圧の壁よりも早く地面に叩き付けられ、激しい土埃を撒き上げながら自身そのものが質量弾となって形成したクレーターの中に沈む。
それから約1秒後に隼薙は穂野香の前に着地し、全身の風を解いた。




「わっ!お兄ちゃんやっぱ速っ!でも・・・やったね!お兄ちゃん!!」
「おう!無事で良かったぜ、穂野香!」
『・・・全身に真空の膜を張り、空気抵抗を極限まで消しての超加速・・・やれば出来るじゃないか、隼薙。』
「へっ、だから言ってんだろ?俺は『風使い』だってな!」
「俺も見直したぜ、半人前。何も言って無いのに、俺のレールガンの目的に気付くとはな?自称風神に昇格してやるよ。」
「うるせ!それより今度こそ、てめぇの番だからな!決着付けようぜ、雷神様よ!」
「もう、お兄ちゃんったら助けてくれた人にそんな事言わないっ!あっ、私達を助けてくれてありがとうございます。こそ泥じゃなくて、怪盗と言うか義賊みたいな感じなんですね・・・訳も聞かずにいきなり襲い掛かって、ごめんなさい。」
「礼には及ばないさ、泥棒なのに変わりは無いからな?ただ、俺は「G」によって誰かが無意味に傷付くのを見たくない・・・要は、余計なお世話ってヤツだ。」
「いえ!余計なお世話はヒーローの本懐ですから!私、そう言うヒロイズムも大好きですよ!きっと今まで、危険な「G」を盗んで来たんですよね?そうやって、みんなを守ってくれてたんですよね!」
「ま、まぁな?」


ーー・・・こんなに眩しい眼差しで見られたの、いつ以来だっけか?
・・・たまにスカがあった事は、黙っとくか。


「お、おい穂野香!そんなビリビリ野郎に懐くな!こいつ、さっきお前を・・・」
「お兄ちゃんは黙ってて!」
「アッ、ハイ。」
「今まで一方的に怒ってた分、この人の誤解を少しでも解かないと・・・あ、そう言えば貴方のお名前は?」
「瀬上浩介、本名は『コウ』だ。しかし、バカ兄貴の妹ってのはいつの世も優秀なんだな、穂野香。」
「そうなんで・・・えっ?何で、私の名前を知ってるんですか?」
「そりゃ、バカ兄貴が何度も何度も名前を叫んでるからな?さっきなんか、お前が気絶してる間に『世界一で一番可愛い俺の妹の名は、初之穂野香だあああ!!』って、聞いても無いのに一方的に・・・」
「こらぁ、瀬上いぃ!!余計な事は言わねぇで・・・」
「・・・ほんっと、お兄ちゃんったらいつまで経ってもバカ兄貴なんだから!!」
「ま、待て待て穂野香!今俺は激闘を終えて疲れてんだから、オーバーヒートすんのはやめろぉ!」
『穂野香様、冷静になって下さい!隼薙は別として、その勢いでは私や瀬上殿を巻き込んでしまいます!』
「てんめぇ、アーク!瀬上と一緒に自分だけ助かろうと・・・」






『・・・そうだ、助かったと思うのは早計が過ぎる・・・まだ、終わってなどいないぞ!』




と、土煙を吹き飛ばして発せられた音波攻撃・・・どうにか再起したアネモスによる悪足掻きが、穏やかな雑談の一時を阻害した。




「えっ!?」
「あいつもしつこいな・・・」
『隼薙、私に任せろ!』
「おう!任せんぞアーク!」




自信に満ちたアークの言葉を信じ、隼薙は瀬上の電磁波を防御した時のように右手のアークを盾とし、それと共にアークの風車が高速回転。
音波はアークの力によって、隼薙達を避けるかのように左右へと拡散され、隼薙達に届く事は無かった。




『むっ・・・!』
「音波が、私達を避けてるみたい・・・!さっすがアーク!ナイスねっ!」
『お褒めに預かり光栄です、穂野香様。
・・・アネモスとやら、私の力の範囲をどの程度予想していたのかは知らないが、私は四神大戦以降計15回ものアップデートを重ね、現在は最大三種類の「G」由来の自然現象を、同時に制御出来るようになっている。「空操」であろうとも、「G」由来の自然現象である事に変わりは無い。先程は不覚を取ったが、お前の能力を大体把握した今ならば、もう不覚は取らない。確かに、隼薙だけが相手なら上位互換かもしれないが、私の存在が加わる事で不確定となる事を忘れるな・・・ただ、今の隼薙ならば上位互換と言う優位性すら怪しいかもしれないが。』
『成程、四神大戦時以上に強化されていたと言う事か・・・』
「へえ、やっぱり持ち主より優秀じゃないか?お前。造った奴の顔が見てみたい所だな?」
「言ったな?あの変人女に一度会ったら、そんな事全く思わなくなるぜ?」
『隼薙!我が創造主を愚弄するなと、何度言えば分かる!』
「言ってる場合か、おい!今は戦闘中なんだよ、戦闘中!」
『・・・仕方ない。まさか、こんなにも早くこの段階に至る事になるとはな・・・』




そう呟くと、アネモスは左手で懐から亀の甲羅に似た形状をした紅い石を取り出し、右手を突き出す。
更に、隼薙・穂野香・アークにはアネモスが持つ紅い石に確かに見覚えがあった。




「・・・うそ、あれってまさか!?」
「四神大戦の時にパレッタが持って来て、憐太郎って奴に渡した・・・」
『「緋色真珠」・・・!』
「緋色真珠?お前ら、知ってんのか?」
「はい。あれは四大元素を増幅させる装置、つまりは四神をパワーアップさせる為の物なんです。でも、あれは四神大戦の際にアルビノギャオスを倒す為に使われて、失われた筈なんですが・・・」
『やはり、見覚えがあるな?なら、この技にも覚えがある筈だ・・・』




アネモスは緋色真珠の力を引き出し、右手に四大元素の「火」と「風」を収束・融合させると、甲高い叫びのような音を発する黄色い光に変換して行く。




『もしや・・・あれは!』
「ギャオスが使ってた切断光線・・・!」
「超音波メスじゃねぇか!?」
「ギャオスの、朱雀の光線技・・・つまりあいつ、四神が使う攻撃を使おうってのか?」
『その通り。300万ヘルツ以上の超音波を刃のように振るう、今までは机上の空論でしか無かったが、この緋色真珠があれば私にも可能のようだ・・・昂ぶる、昂ぶるぞ・・・!ヘッドよ、なんと素晴らしいものを私に与えてくれたのだ・・・!』
「一度撃たれたら、避けるか真っ二つにされるかの二択、なら阻止するしか無いな?さっきの超加速、またやれるか風神!」
「当然だろ!やってやるよ!」
『遅いな、今回は私の方が早かったようだ・・・!受けるがいい、最強の「空操」を・・・』
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