‐Grasper‐ 捕らえしモノ達
『・・・邪魔するぞ。』
・・・その時。
この一触即発の間に唐突に、だが大胆に乱入した衝撃波が、風神雷神図を乱した。
隼薙は風を纏って秒の速さで穂野香を抱えて、瀬上は電磁波を発して衝撃を軽減しながら回避し、衝撃波によって抉れた地面にいつの間にか仁王立ちする、土埃の中の何者かの存在を確認する。
「っと・・・誰だか知らんが、どいつもこいつも不意討ちが好きだな?」
「オイコラ!今俺達は取り込み中だ!邪魔すんな!邪魔するんなら帰れ!」
『そう言う訳にはいかない。私は、その女と人口「G」に用があるからな。』
「女と・・・まさか、穂野香とアークの事か!」
『そうだ。第一目標である、四神・白虎の巫子の初之穂野香。第二目標である、あらゆる「G」由来の自然現象を制御する人口「G」のアーク。「機関」の目的を達成する為の道具として、有益だとヘッドが判断したこれらを、貰い受ける事にした。』
やがて土埃が張れ、乱入者の素顔が月明かりの元に露わとなった。
2mは優に超えている大柄な体と、冷たく光る黒いサングラスが印象に残る、スキンヘッドの黒人の男だ。
「道具?貰い受ける、だぁ?ふざけんのもいい加減にしやがれ!!お前みたいなグラサンハゲに、絶対穂野香は渡すかよ!アークもな!」
『承諾を貰う気は無い。現状第三目標の初之隼薙、お前はむしろ不必要だ。お前を殺し、奪い取る。』
「俺は二の次ってか・・・!ざけんじゃねぇぞ!瀬上と言い、俺をコケにしやがって!」
ーー「機関」・・・また、厄介な奴が面倒なタイミングで来やがったな?
それにあの妹が「バラン」、四神の白虎の巫子・・・そういや、あいつ自分の事を「風使い」とか言ってたが、四国に一時期「風使い」って言う女の子を連れた風を自在に操る風来坊がいて、2019年にバランが現れてから四神大戦まで一度しか姿を見せなかった事から、「風使い」の正体はバランじゃないか、ってそれこそ風の噂で聞いた事があるな・・・
眉唾物かと思ってたが、もしかしたらそれは本当で、あいつらはただの半人前兄妹じゃ無いって事か。
『・・・一応、名乗っておこう。私は「空操」の爾落人のアネモス。』
「「空操」?俺の「疾風」と変わらないじゃねぇか!」
『否、違うな。「空操」は空気を自在に操る力。空気を動かす事しか出来ない「風」とは違う。』
「んだと!俺の風が、お前より弱いって言いてぇのか!」
『試してみるか?』
「舐めやがって・・・やってやらぁ!!」
『待て、隼薙!』
アークの静止を無視し、穂野香を風で包んで後方の茂みの中に運んだ隼薙は、両手を掲げて起こした台風並みの強風を、乱入者・アネモスへ向けて飛ばす。
しかし、アネモスは眉一つ動かす事無く右手を突き出し、強風を受け止めながら上空へと流した。
「なっ・・・!?」
「あんのバカ、あんな安い挑発に引っ掛かんなよ・・・」
『言ったであろう。「空操」は空気そのものを自在に操る力だと。空気の流れでしか無い風など、対処は簡単だ。加えて・・・』
アネモスは右手に加えて左手も突き出し、何かを押し出すような動作をする。
それと同時に、凄まじい音波がアネモスの両手から発せられ、隼薙を直撃。
隼薙の全身を音波が襲い、苦悶の表情で耳を両手で塞ぎながら、後退を強いられる。
「ぐううっ・・・!すっげぇ、うるせぇ・・・鼓膜、破れる・・・!!」
『これは、空気を急激に振動させての音波発振を攻撃に転用したものか・・・!』
「んっ・・・あれ、私なんで地面に・・・えっ!?お、お兄ちゃん!?」
『穂野香様!』
「ほ、ほのか・・・!に、逃げろ・・・!あいつは、お前を狙って・・・!」
「そ、そんな・・・!」
と、ここで意識を取り戻した穂野香が見たのは、知らない男からの音波攻撃に苦しむ隼薙の姿だった。
あまりに突然に繰り広げられる兄の危機に、激しく動揺した穂野香の思考は、隼薙の言う通りに逃げるべきか、それとも隼薙を助けるべきか・・・究極の二択にパンク状態になってしまい、体が動かなくなってしまう。
「おい、俺はアウトオブ眼中か?」
・・・が、すんでの所で音波攻撃をジャンプで回避した瀬上は上空から不協和音の強い電磁波を放ち、音波攻撃を中和。
アネモスは音波攻撃を止め、追撃の電流を後方に跳躍して回避する。
『眼中に無い訳では無い。間違いなく「機関」に害を成すお前は、常に最重要目標だ、「G」ハンター。』
「そうかい、俺も有名人になったもんだ・・・な!」
着地した瀬上は服の内ポケットに入れた巾着袋に手を伸ばし、パチンコ玉を一つ取り出す。
そのパチンコ玉をコイントスのように親指の上に乗せ、強い磁力を宿らせ親指で弾くや・・・パチンコ玉は超高速でアネモスへ向かい、すかさず体を捻って避けたアネモスの右肩を軽く焼きながらパチンコ玉は遠方へと飛んで行き、数秒後に炸裂音が響いた。
『むっ・・・!』
「ええっ!?」
「なんじゃ、ありゃ!?」
『あれは、「電磁」による簡易的なレールガンか・・・パチンコ玉に磁力を付加し、電流を流しながら射出する事でローレンツ力による音速を越える速度と、手榴弾の数倍もの威力を与える・・・』
「えっと・・・つまり『超電磁砲』、ってコト?」
「こそ泥の雷神野郎の次はビリビリ、ってわけか?何でもありだなアイツ・・・」
「と、言うかもしかしてあの人・・・私達を助けてくれたの?」
「んなわけある・・・のか?」
「色々分かったんなら、早くここから逃げろ!こいつは俺が何とかする、だから・・・」
「・・・悪ぃな、俺はこれ以上誰かから逃げんのは、まっぴらゴメンなんだよ!!」
隼薙は鎌鼬を両手に生成し、アネモスに打ち出し続けるが、アネモスは両手で気圧による障壁・・・見えないバリアを張り、鎌鼬を全て打ち消してしまう。
「お兄ちゃんの鎌鼬が、全然届いて無い!?」
『お前の風は通用しない、と言った筈だ。学習の無い愚か者めが。』
「だから逃げろ、って言ってんだろ半人前!あいつは相当な実力者だ、逃げるのは恥なんかじゃ・・・」
「んなの、関係ねぇんだ!!俺はな・・・『風使い』とか言われながら、いつ終わるか分からねぇ旅って言う『逃げ』に穂野香を、アークを巻き込んだ・・・でもな、俺がもっと強かったらそんな事にならなかった!穂野香に、あんな辛い目に遭わせずに済んだんだ・・・!」
「お兄ちゃん・・・」
『隼薙・・・』
「だから・・・!俺は逃げねぇ!!穂野香をモノ扱いして、酷い目に遭わせようとするグラサンハゲなんざ・・・俺が絶対、ぶっ飛ばしてやるんだぁ!!」
圧倒的な差を見せ付けられながら、絶対に愛する妹を守る・・・更に強い自分になる、その為に奮い立った隼薙は木枯らしとは比べものにならない程に激しく渦巻く竜巻を起こし、アネモスへぶつける。
『何をしようとも、「空操」の前にはいくら風が吹こうがひとたまりも・・・』
呆れた様子でアネモスは両手を出し、先程の強風のように竜巻を打ち消そうとした。
・・・だが、しかし。
竜巻は一向に消える事は無く、アネモスを巻き込まんと依然吹き荒れ続ける。
『なに?何故だ、何故消えない・・・もしや、我が「空操」よりも速く、止めどなく、空気の流れが・・・風が、起こっていると言うのか・・・!』
ーー・・・もっとだ。
台風よりも速く、竜巻よりも激しく・・・!
もっと、もっと・・・強く!!
吹き荒れろ、嵐!!
隼薙の内から張り裂けんとする、溢れ出る克己心・・・意志の強さが力へと変換され、竜巻は嵐と化してアネモスを捕らえ、渦の中でアネモスは無抵抗のまま高速で宙を回り続ける事を強いられる。
『うおおおおっ・・・!』
『隼薙自身の風が、奴の「空操」のキャパシティを上回ったのか!』
「わぁ・・・!凄いっ!!凄いよ、お兄ちゃん!!」
「よくやった半人前!後は俺のレールガンで・・・」
「余計な事すんな、どけ!俺はお兄ちゃんだぞ!」
「だからなんだってんだよ!」
「まだ、あの野郎に一発お見舞いしてねぇんだよ!先にぶっ飛ばすってなら、その前にてめぇからぶっ飛ばすぞ瀬上!」
「・・・なら、俺のレールガンより速くあいつをぶっ飛ばしてみるんだな!」
「はっ!やあってやるぜ!!」