‐Geek‐ 好きこそモノの上手なれ
「・・・南條から確認が取れました。本日です。」
『うむ、ご苦労・・・よいな、明日香。貴様を我が一族の娘として造り、アルマの代わりに「組織」を任せたのは、この日の為と言っても過言ではない。「時空」の爾落人、蒲生五月は今夜誕生する。それを阻止することは我々にできぬ・・・だが、奪い!再び「組織」の時代を作る道具とし、その権威を不動のものとするには十分にある。そして、いずれは「神」創造の母体とすることも出来る。』
「はい。」
『東・・・いや、キャシャーンよ。お前に苦汁を舐めさせた出来損ないもいるそうだ。奴を殺せ!そして、我にその屍を捧げよ!
・・・今こそ、完全なる力を取り戻す時だ。』
『御意にございます。』
『・・・目覚めよ、我が船よ!!』
暫し後、静岡市・三保半島の旧某大学海洋博物館に展示されていた第二某大学丸が突如として浮上。
それは第二某大学丸を「方舟」・・・または動く「拠点」とした、「組織」の長にして「複製」の爾落人・蛾雷夜の成せる技であり、腹心たる某大学代表にして「組織」の表向きの代表である「反転」の爾落人・松田明日香、かつて玄奘に奪われた体を「新造」せし「身増」の爾落人・東改めキャシャーンを連れた、たった3人による進軍。
それを合図として、「沼津防衛戦」の火蓋は切って落とされたのだった。
防衛戦が始まり、J.G.R.C.沼津支社でも各々が持ち場に付き、戦いを始める者達もいる中、パレッタは江司と共に開発部の地下格納庫、その更に最深部の実験室にいた。
実験室には緑色の液体に満たされた円筒の培養槽があり、培養槽の周囲には観察・維持用の観測装置と循環器の監視装置が重々しい稼働音と共に動き、培養槽の中には関口の手によって2028年の「機関」同時多発襲撃の際に南極で菜奈美・世莉が「殺ス者」レリックに対抗する為、一時的な「時空」の器として使用した「吸収」の「G」・イリスと「ある人間」の細胞片を取り込んだ、胎盤代わりの一つの大きな蕾・・・「電磁」の「G」・レギオンが繁殖時に使用する特殊な植物「草体」が入っていた。
江司は監視装置のコンソールを叩きながら微調整を行い、パレッタはガラス越しに培養槽内の草体を無言で見つめていた。
「あの、ちょっとは手伝って下さいよパレッタさん。これの死守が最大の目的なんですから、うっかり調整ミスして死なせたりしたら・・・」
『・・・「命あるモノを造った現代のフランケンシュタイン博士」、か。』
「そうですよ・・・貴女はアークと、その杖でしたっけ?僕は千早を、そして関口君は今まさに「時空」の爾落人を造ろうとしている、まさに凰華のヴィクター・フランケンシュタイン・・・創造主(クリエイター)仲間ですからね。あと、個人的に失いたくないのである意味一番安全な場所のここにいて貰う、と言う考えもあるみたいですけど・・・」
『あたしやコージ君でも造れなかったヒトを、関口君は造る一歩手前にいる。ずっと昔からやりたかった事なんだね、きっと。』
「でしょうね。だから時間を掛けてコネクションを作りまくったり、あらゆる科学や「G」を学んだり、時に非合法ギリギリな事にまで手を出した・・・ある意味『コレ』は、関口君の人生の集大成かもしれない。」
『・・・あたしね、まだ人類がヒトを造るのは早いと思ってるの。だから関口君にはこんな事して欲しくなかったけど・・・きっと、自分の願いを叶えながらついでに世界を救うつもりなんだね?』
「それが関口亮と言う人間ですよ。結局最後は自分が第一の偽善者で、何なら自称したり誇ったりする時さえある。でも、クリエイターなんてきっと、そんな我が道を往く人じゃないとなれませんよ。僕だって、スタート地点こそお父さんの介護用だった筈の千早にAIと言う命を与えた理由に、自己満足が無いかと言われれば嘘になる・・・それでも、誰かの役に立てるのなら結論としては悪くないと思っています・・・まぁ多分、ただの人間だからそうなるんでしょうけど・・・」
『あたしも一緒だよ。エアロ・ボットちゃんとか。けどエアロ・ボットちゃんは今はアークちゃんとして、みんなを守ってる・・・コージ君の意見も、関口君の本心も、全部間違いじゃないんだよ。だから・・・あたしも、手伝うね。』
パレッタは微笑を浮かべ、観測装置に向かうとコンソールを高速で入力し、急速に維持装置のアルゴリズムの調整を始める。
エンジニアとしての彼女の一面を見せ付けられた江司は内心驚愕しつつ、ある意味負けじとコンソールを叩く手を早めるのだった。
ーー・・・やっぱり、僕達はクリエイターと言うより「Geek(ギーク)」、つまりはオタク仲間みたいだ。
「第三防衛線に援軍を送ろう。誰だ?」
「一人は初之さん。彼なら黄さんがいなくなった穴を埋められるわ。」
「初之か。確かに・・・送ったぞ。他は?」
「行きましょう。」
外では戦いが激しさを増し、旧東名高速の第四防衛線で待機していた隼薙と、沼津支社事務所に待機していた弦義が激戦区と化した旧沼津市境の第三防衛線に「転移」。
「うおっ!「転移」ってほんといきなり移動するんだ・・・なっ!?」
「・・・あれが「身増」のキャシャーンか。」
弦義と隼薙が見たもの、それは戦場を埋め尽くさんとする白い影・・・約4万にまで増殖した、腰のブースターと口元を覆う鋼鉄のマスク、白のバトルスーツが特徴的な男・新造人間キャシャーンの「群れ」であった。
『・・・成程。完全なる分身を生み出す「身増」で、爾落人レベルにまで機械化改造された身体を倍々ゲーム方式で増やし、無尽蔵に兵隊を補充し続ける・・・物量で押す戦法の究極形と言う訳か。』
「つまり、俺達は8人で4万以上の爾落人を相手にしなければならないと言う事だな・・・」
「・・・なぁ、アーク。あいつらは人間なのか?」
『体の一部分のみを機械化した、サイボーグに近い存在であるが・・・実質は量産兵器、いくらでも使い捨てられる程度の存在だと思っていい。それに恐らく奴自身も、自分は蛾雷夜の兵隊(コマ)であると割り切っているだろう。』
「じゃあ・・・バラバラにしても、問題ねぇな・・・!」
「覚悟を決めたか。俺も・・・」
ーーしかし、桶狭間の戦いすらまともに思える程であるこの数の差、リカバリー役の菜奈美殿と紺碧がいるとは言え、圧倒的過ぎる物量にいずれ押されて全滅するのは、火を見るより明らか・・・!
何か、奴らを一網打尽に・・・せめて半分程にまで数を減らす術は・・・んっ?
『三島さん。黄は自衛隊がいるとは言え1人で任せていて大丈夫ですかね?』
『あぁ、彼なら心配いらないでしょ・・・それよりも前の敵ですよ。その剣、まだ完全に使いこなせていないのでしょう?』
『大丈夫です。少なくとも剣はこの意志が望む姿になるので。』
ーー望む姿に変える・・・これだ!
と、千早の右手が持ち手を握る形で一体化している変幻自在の剣「ジークフリードの剣」を見たアークは閃き、強引に隼薙を右手ごと引っ張る形で千早に近寄った。
「ん?どうした、アーク?」
『失礼。そなたもAIとお見受けする。』
『あぁ、貴方がアークさんですか。パレッタさんに造られた方ですね?』
『その通り。そなたは関口亮・桐生江司共同製作のアンドロイドだと聞いたが、事実か?』
『えぇ。「心」に当たるAIはお父様が、「体」は関口さんが最初に開発したアーキタイプアンドロイドボディです。』
『成る程。非常に良く出来ている・・・加えて、その「ジークフリードの剣」は敵を倒す最適な形状・能力に変化すると見受けられるが、如何だろうか?』
『事実です。』
『感謝する。その剣を見て、我々にも有効な作戦を発案する事が出来た・・・先ず、隼薙の「疾風」にとって本日の天候は最適といえる状況だ。瀬上殿?』
「アークか、なんだ?」
『そなたの「電磁」、隼薙の「草薙」と同程度の出力は出せるだろうか?』
「余裕だ。俺は雷神様だからな?」
『良し。これで風と雷がある・・・』
『雨・・・いや、雹も用意できるぞ?アーク殿。』
『素晴らしい、流石はガラテア殿。ご存知だと思うが、我が能力は隼薙の力をコントロールしているもの、しかしそれは「G」による自然現象全てに対応可能・・・即ち、そなた達の攻撃を合成することが可能だ。』
「そう言う事か・・・面白れぇ、ドデカい嵐を起こすぞ!」
「おい、俺の台詞取るなこの野郎!」
『隼薙殿、瀬上殿、そしてアーク殿!行くぞ!』
「ったく・・・闇を飲み込め、俺の・・・俺達の嵐!草薙!!」
アーク発案のキャシャーン軍団殲滅作戦が始まり、まず隼薙が起こした台風クラスの竜巻「草薙」に、回転するアークが瀬上・ガラテアから発せられた雷・氷を融合させた「氷雷の嵐」が、キャシャーン軍団を飲み込む。
約1万ものキャシャーンが消え失せ、総勢約3万人に減ったものの、残るキャシャーンは「身増」の力で自らをきっかり二つに分裂させ始め、瞬く間に数の補填と増殖を同時に行おうとする。
「間髪入れるな!3万が同時に分裂したら6万に膨れ上がるぞ!」
「おう!」
「隼薙さん!弦義さん!キレの良いヤツ、頼みます!」
「・・・剛龍眼!」
続けて、八重樫の喝を合図に隼薙は即座に弦義・凌の前に陣取り、弦義が羅無蛇を構えながら鳴神龍神流剣術「剛龍眼」を使ってキャシャーン軍団が最も密集する地点を捉える間に、凌は左手に精製した光剣を羅無蛇に重ねる。
「名付けて、ライザーソード!」
「・・・そこだ!はあああっ!」
「のびろぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
隼薙の叫びと共にアークの風車が再び回転し、凌の光剣が羅無蛇に融合。
羅無蛇に光が吸収されるよりも早く、アークのサポートを受けた凌の全身全霊の「光撃」の力が羅無蛇の刀身に収束し、全長1kmにも及ぶ巨大なる光の剣「ライザーソード」が出来上がり、弦義は「通貫」の力をライザーソードに込めながら、弧を描く形でキャシャーン軍団を薙ぎ払った。
「はぁ・・・はぁ・・・どうだ?」
「残数約2万・・・上出来だ!」
『よし、次は私だ!』
作戦は大詰めに入り、ガラテアは2万近くに減ったキャシャーンの大群の隙間の中に飛び出すと、地面に両手を付いて溶岩へと「変化」させ、一気にキャシャーン軍団をマグマの中に沈める。
溶岩を逃れた100以下のキャシャーン達も菜奈美の時間停止に大半が捕まり、菜奈美以外の8人は残りのキャシャーン撃滅の為に八方へと散らばった。
『なかなか面白いことをするな・・・だが、同じ手は二度と食わないぜ?』
「それはどうかな?」
『なら、試してやるぜ!』
だが、キャシャーン達はガラテア以外の8人を均等に取り囲むような陣形を取り、そのまま分身。
『この陣形・・・まさか!まずい!こいつはわざと私の技にかかったんだ!』
キャシャーンの真意にガラテアが気付くも、時既に遅く・・・8人はキャシャーンと言う壁によって、バラバラに分断させられてしまった。
「っ!・・・これは、『八陣図の計』の攻撃への転用か?」
『そうさ。一度ここに迷い込めば逃げられはしない。体をこんな姿にしたんだ。この能力と、この戦闘力を最大限に活かさない手はない・・・何かいいものはないかと探したら、「三国志演義」の諸葛亮が白帝城に敷いたとされるこの陣を見つけた訳さ。あいにく俺自身は文献でしか知らないから、こうしてアレンジを加えたのさ?石兵でなく、俺達自身を使うって具合にな・・・まさか、本当に使う機会に恵まれるとは思わなかったぜ。ありがとよ!』
「・・・小賢しい真似を!」
キャシャーンによる孔明の罠により、孤軍奮闘を強いられる事となった8人。
それでも尚、8人は己の力を信じて不退転の決意の元、キャシャーンに立ち向かって行く。
「ちっ、量産型がなんで教養まであんだよ・・・」
『「量産」とは「そのまま増やす」事だ。元が高品質であれば、高品質のまま増える。日本製の家電や車が良い例だ。』
「いや、強い敵が増えても何も嬉しくねぇわ!しかし、分身か・・・ダイモンとの戦いを思い出すな?」
『単体の強さならばダイモンが上だが、一対多の状況は間違いなくダイモン以上。更に瀬上殿の援護も、穂野香様の加勢もない・・・大丈夫か?』
「あぁ・・・今の俺は、あの時の俺じゃねぇ!」
『『『『『どうした?相談している間に、俺達はどんどん増えるぜ?』』』』』
隼薙とアークが問答する間にキャシャーン達は分裂を終え、数十もの白い円陣となって隼薙を完全に包囲する。
しかし、隼薙の顔に諦めの文字は無い。
「じゃあ、まとめて駆除してやるよ!白ゴキブリ野郎!こうなったら『奥の手』やるぞ、アーク!」
『承知した!私への負担は構わずに行け、隼薙!』
「おうよ・・・切り刻め、刃の嵐!
草薙・鼬(イタチ)!消し飛びやがれぇぇっ!!」
隼薙が両手を掲げると共に、アークが火花を散らしながら激しく回転し・・・その刹那。
隼薙を取り巻くキャシャーンが全て吹き荒れる風に捉えられ、激しく旋回しながら宙を舞い、円弧の中の無数の鎌鼬に全身を切り刻まれた。
それはさながら隼薙を中心とした鎌鼬の嵐であり、後に残ったのはスクラップと化した無数のキャシャーンの残骸と・・・
『『『『・・・ふう、死ぬかと思ったぜ。』』』』
『くっ、隼薙・・・七体取り逃した!』
「うげっ!鎌鼬の制御に気を取られた!」
『急げ・・・奴らは見る間に、三十へと増殖するぞ!』
「分かってる!つうかそれ、マジでゴキブリじゃねぇか!」
隼薙の僅かなミスで生き延びた、七人のキャシャーンであった。
『お前のその黙り・・・ぐわっ!』
『憎き加島玄奘を・・・ぐわっ!』
『思い出すんだよ・・・ぐわっ!』
「・・・」
『ちょっとはトーク・・・あばっ!』
『させやが、あばっ!』
『れよこのやろ・・・あばっ!』
『う、あばっ!』
一方、弦義は息も付かせぬ速さでキャシャーン達と距離を詰めて一人、また一人と分裂する前にキャシャーン達を羅無蛇で斬り捨て、羅無蛇に吸わせて行く。
寡黙に集中力を保つ弦義に対し、キャシャーン達は弦義に無駄な会話を仕掛けて弦義の隙を作ろうとするが、弦義は意にも返さず黙々と羅無蛇を振るい、無駄話を言い終わる前に消されるキャシャーンすらいる程だった。
『まぁいい、俺達はまだまだいるからな!お前らは所詮は前座、俺は必ず俺をこんな体にした加島玄奘を引き摺り出し、裁きを与え・・・蛾雷夜様の世界を作る!
キャシャーンがやらねば、誰がやる!』
その中に一人、他のキャシャーンに紛れながら弦義の太刀筋をかわし、玄奘への恨み言を吐くキャシャーンがいた。
弦義はそのキャシャーンを鋭い眼で捉えると、下半身に力を込めながら上体を右へと捻り、羅無蛇を顔の脇に構える。
「・・・あいにくだが、その必要は無い。」
弦義は捻った上体を戻し、その勢いのまま羅無蛇を投擲。
鳴神龍神流剣術奥義「白波」の技は「通貫」と合わさり、独りでに飛んで行く羅無蛇は続々とキャシャーン達を串刺しにし、消し去って行く。
『おっと、ボディががら空きだぜ!』
だが、辛くも羅無蛇から逃れたそのキャシャーンは腰元のブースターを全力で稼働させ、旋回して一気に弦義の背後を取ると、真っ直ぐに弦義目掛けて拳を突き出しながら迫った。
『これで一丁上が・・・がっ!?』
・・・だがしかし、キャシャーンに待っていたのは背中を見せたままの弦義が一瞬で左手に持った鞘・不動による、胸を突く逆手の一撃であった。
「その必要は無い、と言った筈だ。」
そして、数人のキャシャーンを刺したまま飛来した羅無蛇によって、そのキャシャーンも串に団子を刺すかの如き様相で背後を突かれ、そのまま「無吸」の中へと消えるのだった。