‐Geek‐ 好きこそモノの上手なれ
翌日、6月5日の夜。
静岡・旧沼津市のJ.G.R.C.沼津支社、その一号館ロビーにある目的の為に集いし者達がいた。
「桐哉、今からでも引き返さないか?正直、レリックと同格の奴を相手にしてお前を守り切れるかどうか・・・」
「ううん。この戦い、僕も力になりたいんだ。君と生きて行く世界を・・・エリクシアに託された願いを守る為に。それに、僕はいつだって世界最強の奥さんは負けない、って信じてるから。だろう?世莉。」
「・・・全く、困った旦那だ。」
「その通りだな。うちの旦那は大人しく留守番を選んだってのに・・・部下としては、有り難い事この上無いが。」
「あれ、実質脅しと言うか侮辱ですよね?ただの警官なんざ役不足だ、なんて。」
「ちなみに役立たず、って意味の『役不足』は誤用らしいぞ?」
「五月蝿い、部下の分際で揚げ足を取るな。」
「事務所」より、「転移」の能力者の汐見(旧姓北条)翔子・「空間」の爾落人の四ノ宮世莉・その夫の円藤桐哉。
「しかし、ある程度結果が分かってる戦いをするなんざ、不思議なもんだな?」
『厳密には、約2000年後の戦いへと繋がる因子を持ったMOGERA及び「時空」の爾落人誕生を阻止されない為の戦い、ですね。敵の戦力は未だ未知数ですが、結果的にMOGERAの一部が破壊されて完成が遅れたり、「時空」の爾落人を蛾雷夜に奪取されたり、ここにいる誰かを失う可能性はあり得ます。』
「クーガー、もしかして未来でも視たの?」
『いえ。私には「今」を視る事しか出来ません。あくまで現状の情報を統合した、起こりうる可能性の仮定の話ですよ。』
「データベースは結論を出せない、って事か?」
『ナナミ、かつてオルレアンで私と戦った時のように、貴女が未来へ行く事は出来ないのですか?』
「やろうと思えば出来るけど・・・時間も未来も不確実なモノだから、たかが数人が行動した所でどうにも出来ないし、それより「今」をよりよいモノにして少しでも良い未来を作った方がいい・・・それが、数千年生きて来た私の考え。」
『なるほど・・・だからこそ、この「今」を守る必要があるのですね。かつて私達が関わったオルレアンの戦いが、南極での戦いに繋がったように。』
「何でもいい。首突っ込んだからには、何でも守ってやるよ・・・世界だってな。」
1491年のオルレアンでの戦いで生き残った者達である、菜奈美・瀬上・「視解」の爾落人のクーガー・「思念」の爾落人のハイダ。
「・・・なぁ、これで本当に来なかったらどうするんだ?ただの無駄足だろ?」
「本当に来て欲しいのか、一樹?」
「とんでもない!オレは無駄足になって欲しいからそう言ってるだけだ!あの「機関」と同レベルのヤツらと戦うなんざ、まっぴらゴメンだっての!」
「残念だが、この台風が迫る悪天候は大規模襲撃としては都合が良い。索敵を乱しつつ、目的地へ進撃するには・・・」
「もう止めて下さぁい!八重樫さんがそう言ったら、マジでそうなるってお墨付きを頂くようなもんですから!」
「・・・それでも、絶対に守り抜くわよ。私達で、何があっても。」
「綾さん?なんかここ数日、妙に思い詰めてません?昨日朱夏と話してから特に・・・」
「いえ、そんな事無いわよ?東條君。私の事は気にしないで、宮代君が敵前逃亡しないかちゃんと見ておいて?」
「それなら大丈夫ですよ。四ノ宮とか翔子さんとかいますし、何より八重樫さんがいますからね。」
「いやいや、流石にここまで来てそんな無様な真似しませんて、綾さん!」
「俺としては、今の二階堂くらいの緊張感がある方が正解だな?それ程の相手である事に、変わりは無い・・・」
ーーだが、今の二階堂はむしろ自決も已む無しと腹を決めた兵士のような、命を投げ出す決意を下した者にも近い・・・
何も無ければ良いが。
「警鋭セキュリティ」より、「光撃」の爾落人の東條凌・「念撃」の能力者の二階堂綾・「捕捉」の爾落人の八重樫大輔、そして宮代一樹。
「千早、機械の体だからって無理はしないでくれよ?僕にとって君は・・・」
『「我が子」、承知しています。だから必ず私は貴方の元へと帰還します。それに私と同じく関口亮が造りし身体を持つ者も来るのでしょう?』
「その筈だけど・・・旦那を喪ったばかりで本当は喪に伏してないといけないからなぁ・・・」
『まっ、スクラップになろうが俺が回収してやるから安心しろよな!』
『そう言う事を言うものではありませんよ?その失敗フラグ、だいたい実行されますからね?』
『いや、口を開けば毒ばっか吐くダガーラも裸足で逃げ出すような「戦場のナイチンゲール」に言われたくないだろ?』
『あの、私は千早ではなく貴方を対象にしているのですが?』
『はあぁ!?』
桐生江司と、彼が関口と共に造り出したアンドロイドである桐生千早・天の異界神「黄昏」を身に宿す巫師の黄天(ホァンティエン)・水の異界神「紺碧」を身に宿す巫子の三島芙蓉。
「・・・だから、陸自だけじゃなくて空自と海自もこっそり協力させられねぇのか!現地の陸自だけじゃ死地に送り込むようなもんだぞ!」
『私はただの陸将の1人でしか無い、よって私の意見だけで全てを動かすのは無理がある。我々の火力も人員も、無限では無い・・・』
「そんな事言ってる場合か!オレ達Gnosisも無理を道理で押し通してる所なんだよ!だったらあんたも無理を道理で押し通せ!お前、息子やその家族があいつらに殺されても良いのか?これから相手にするのは、「機関」と同じ規模と力を持った連中なんだぞ!」
『言われなくとも分かっている・・・!私は、「今すぐに」が無理だと言っているだけだ・・・ベストは尽くす。俺なりにな。』
「なら、頼んだぞ?本気でな・・・」
「Gnosis」隊長の浦園験司は、協力者である陸上自衛隊陸将・逸見亨平との電話を終え、即座にスマホの通知を確認した後、元紀と「変化」の爾落人のガラテア・ステラに目線を向ける。
「・・・とりあえず、海自と空自の協力は今は確約出来ない。来てくれれば万々歳、と思ってくれ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「それと、うちの連れはもうすぐ来るらしい。パレッタと蘭戸は問題無いんだが、初之が時間が掛かったようだ。」
『確か、パレッタ殿に同行していた玄奘殿が連れて来ると聞いたが・・・』
「連れて来たぞ。」
と、噂をすればとばかりに玄奘がパレッタ・弦義・「疾風」の爾落人の初之隼薙と共に、験司の目の前に「転移」して来た。
彼らの姿を見て、続々と旧知の仲の者達が寄って来る。
『あっ、ガラちゃんに元紀ちゃんにトゲトゲくん。おひさだね。』
「こんちは・・・」
「こんにちは、今回の戦いの参加に感謝して・・・あれ?パレッタさんってこんな大人しかったかしら?」
「パレッタ?どうかしたの?」
「パレッタは2日前、蛾雷夜によってコンドウなる友人を喪った。私も諸事情あり、同行していた。」
「えっ!?」
「そんな、コンドウさんが・・・!」
『コンドウ、聞いています。お父様やお爺様・桐生篤之が「G」関係の情報元として懇意にしていた者だと。』
「・・・五井さんに続いて、あいつもか・・・」
「お前がパレッタに同行していたなんて、珍しいな?玄奘。」
「能登沢憐太郎を通し、コンドウ自身に頼まれた。能登沢とは多少縁があるのでな。」
「まさか、私と会う前に蘭子と隆文をあの2人に会わせて「「G」への愛」についてテストしてたなんてね?でもそれで2人が思い留まってくれたのなら、感謝するわ。」
「玄奘さんに『愛の力』を認めさせた2人、ですからね。能登沢夫妻は。」
「あと、コンドウさんからは四神大戦での能登沢君の命の恩人だと聞きましたが・・・」
『土井平司の銃撃によって損壊した臓器を手術で摘出し、「複製」した新しい臓器と交換したとデータベースにあります。』
「お前、いつブラックジャックになったんだよ?」
「・・・過去の自身の経験を生かし、四神大戦解決の鍵となると踏んだ能登沢を生かした、それだけだ。私が望むのは調和だからな。」
「・・・そうだったな。」
「そんなレンと紀子の師匠だったコンドウの死は、オレ達Gnosisにとってもあってはならねぇ犠牲なんだ・・・だからこの戦い、絶対負けられねぇんだよ・・・!」
『コンドウ殿の弔い合戦、と言う訳だな?私も銀河殿とまた会える日が来ると信じているが、銀河殿を奪われたのは同じ・・・理由なら、それで十分だ。』
「弔い合戦と言うなら、私にとっても同じよ・・・だから、今日と言う日を必ず守り抜きましょう。」
「あぁ。」
「ねぇパレッタ、本当にこのまま参加するの?危険な事に変わりは無いし、辛いなら・・・」
『大丈夫だよ、菜奈美ちゃん。マブダチとのお別れなら、何度か経験してるから。それに関口君の、未来のみんなを救う為だもん。だったら「想造」の芸術家で「G」の探求家のあたしがいないと、ね?』
「・・・分かったわ。じゃあ、一緒に戦おう。未来の為に。」
『うん・・・それとここには、トゲトゲ君と元紀ちゃんとカシマシ君のチーム「ゲン担ぎ」がいるし!』
「・・・はっ?」
『浦園験司、蒲生元紀、加島玄奘・・・共通して本名に「ゲン」が入っている、と言うわけですね。流石はパレッタ様、傷心中にも関わらず冴えたセンスだ・・・付け加えるならば、読みは違いますが弦義殿の「弦」は「ゲン」とも読みます。』
「・・・あいにくだが、俺を無理にカウントする必要は無いぞ。」
『あれが私より早く誕生した人口「G」及びシンギュラリティポイントを突破したAI、アーク・・・』
「ま、まぁ今日のパレッタはおしゃべりじゃないだけで割といつも通り、って事で!」
「・・・カシマシ君、ぷっ。」
「良かったな?可愛いニックネームを貰えて?なぁ、カシマシ君?」
「・・・お前達、実力試しがてらもう一度私と戦うか?」
「はいはい、こう言う微妙な空気の時は弄り甲斐のある奴を弄るに限る!ってわけで久々だな、風神?俺の足元に及ぶくらいには強くなったか?」
「うるせぇ、今は話し掛けんな電磁バカ。」
「あん?やけに塩対応だな?いつもの瞬間湯沸し器っぷりはどうした?」
「ちょっと、瀬上さん!隼薙さんはここに来る前に穂野香ちゃんと大喧嘩して来た所なんですよ!」
「なに?」
『そうだ。隼薙は同行すると言って聞かなかった穂野香様を止める為、口論に次ぐ口論の末・・・「アンバーもいない癖にその歳でただの能力者は足手まといにしかなんねぇんだよ」、と言う大暴言を吐き捨て、強引に諦めさせた。さながら、女神を冒涜する大罪を犯した罪人。口だけは達者な男だが、その口も今は達者では無いと言う訳だ。パレッタ様と共に、今はそっとしておいてくれ。』
「オイオイオイ、死ぬわあのアニキ。」
「・・・でも、隼薙さんの判断はある意味正しかったかもしれない。穂野香さんは戦いには慣れていないもの。ただの能力者でも違いはあるわ。」
「綾さん・・・?」
「オレ、てっきり綾さんなら穂野香ちゃんを傷付けるな、ってアニキを詰(なじ)るもんかと思ってたんだけど?」
「だが確かにあの妹はこれくらい言わないと聞かないし、勝手に来られても正直困るしな?ダイモン戦で直に無茶するのを見た俺が保証するし、今日については留守番で良かったんじゃ無いか?」
「俺としても、初之の判断は正しいと言える。妹の重傷は本人の為、更に死亡と言う最悪の結果は初之自身の為に避けるべきだからな。13年前のエリクシア戦と同じだ。」
「俺も、同じ思いで華を汐見さんの事務所に置いて来ました。あいつには悪いとは思っていますが、なるべく生きていて欲しいんです。」
『だからこそ、私もこれ以上隼薙を咎めるつもりは無い・・・穂野香様に死んで欲しくないのは、一緒だからな。』
「・・・ありがとよ、アーク。でも、仲直りは絶対するからな。」
「ううん、元々寡黙な蘭戸はともかく小娘と風使いが黙(だんま)りしていて、もの言う風車が一番喋っている・・・慣れんな。そもそも、そんなメンタル状態で命を掛けてでも絶対に失敗してはならない戦いに参加するな、と言いたい所だが・・・猫の手も借りたい状況で、実力については信用している以上、そうも言っていられないからな?まぁ、うちの事務所に来てくれれば古手共々夫が最低限守ってやれたんだが。」
「大丈夫です。俺も初之もパレッタさんも、皆生きて帰ります。『凰愛の大噴火』の際に俺と華を助けてくれた、命の恩人の黄さんもいますし。」
『おっ、呼んだかあいにくサムライ?今日は一緒にジライヤだかガラクタだが知らねぇが、ふざけたカルト集団のリーダー野郎をぶっ潰してやるぞ!』
『しかし、「凰愛の大噴火」前に篤之さんの弔問に行ったついでに獄焔に会いに行ったかと思えば、千早に「ジークフリードの剣」と「ニーベルンゲンの指輪」を渡したり、噴火後に獄焔と勝手に救助活動をしていたとは・・・黄、あくまで貴方はただの巫師でしか無いんですよ?』
『神様宿してんだから問題ねぇだろ、三島。だから大地のエキスパートの獄焔を連れてったんだし、どちらかと言えば「ゴキゲンな蝶」のアヤカに呼ばれたようなもんなんだからよ。』
『知っていますよ?何なら私はその人がボランティア活動を通り越して、自称プリキュア紛いの事が出来るようになったきっかけを、インファント島で見ていますから・・・全く、誰も彼も身の程を弁えて欲しいですね?』
「『でも、それがヒーローですから!』とか、あいつなら言いそうだな?あの女のイカれっぷりは、あいつの言う『最強の能力者パイセン』らしい私が保証するよ。なぁ、世莉?」
「だな。」
「えっと、世莉?親友だからってちょっと扱いが雑じゃないかな?」
「同じ『最強の能力者パイセン』らしい私も、そう思うわ。でも、それなら余計に朱夏には戦いじゃなくて、ボランティアとヒーロー活動で多くの人を救って行って欲しいわね。」
『んっ?アヤカってそんなに顔広いのか?』
『はい。ここにいる方だと・・・桐生江司・千早さん、それと一応元紀さん以外とは面識がありますね。何せ、鳳さんは「「G」の申し子」ですから。』
ーー彼女の「因果」が、蒲生凱吾捜索と言う切欠で私とダイスを再び巡り合わせた、と言うのは本当なのでしょうか・・・?
『それに朱夏殿は、銀河殿の意思を継ぐ弟子のような存在だからな。ヒーローを名乗るのも当然だ。』
「銀河の意思を?俺も鳳の事は知ってるが、あいつのダメ男っぷりを知って言ってんのか・・・いや、『メタモルフォーゼモード』の存在を考えればあいつと大差無いのか?」
「旧友とは言え、あの銀河をそこまで本気で尊敬する子がいたなんて変わってるわね?」
「凌の事も、も追加で。はぁ~、しっかしあんなリアル聖あげはちゃんな朱夏ちゃんに憧れられるなんて、羨ましいぞこの!」
「やっかむな。昔偶然ノスフェルと俺の戦いを見た、それだけだって・・・うん。」
「そう言って満更でも無い癖によ・・・ん?それで穂野香ちゃんはダメで、能力者でも無いガチの一般人の桐哉君がいる件については?」
「最初の会話、聞いてたか?」
「あはは・・・」
先程穂野香と大喧嘩して来たばかりの隼薙と、コンドウを喪ったばかりのパレッタ・・・饒舌な2人による、いつもの騒がしさは全く無い様子は最初こそ異質としか言い様が無かったが、その他の者が時に盛り上げ、時に気を引き締める事で彼らの空気は平常通りに戻ろうとしていた。
「・・・あっ、関口さん!」
「生憎の天気だが、皆が集ってくれて助かった。」
そこに現れた、白衣を着た初老の男・関口。
いの一番に関口を見付けた元紀は彼に駆け寄り、関口と共に集いし有志達を見渡しながら、これから起こる一大防衛戦への決心を新たにする。
ーーさぁて、4年前に「俺」が教えてくれた未来へと繋ぐ為にも、頼んだぞ?「守ル者」達・・・