‐Geek‐ 好きこそモノの上手なれ











2047年・6月3日。
大阪・天王寺の開発地より少し離れ、天王寺動物園と四天王寺の間を取るような地に佇む寺院「一心寺」を、田冶冬樹が訪れていた。
1185年、浄土宗を開いた法然上人が四間四面の草庵「荒陵の新別所(あらはかのしんべっしょ)」で夕陽を見ながら極楽浄土を観想する16観の初観・日想観を修したのを機に、法然上人の本名をとって「源空庵」と呼ばれ、後に「一心寺」へと改称。
1600年の「関ヶ原の戦い」を経て徳川家康の第8男・仙千代君が夭折した際、家康の同郷・三河の僧であった本誉存牟(ほんよぞんむ)上人が導師となって葬儀が行われたのを縁として、1614年の「大坂冬の陣」では家康側の本陣が置かれたり、江戸時代末期に年中無休で施餓鬼法要を行う「おせがきの寺」として賑わい、大阪市の無形民俗文化財にも登録された遺骨で造られし阿弥陀如来像「お骨佛」が明治20年に造立されてからは「お骨佛の寺」として民衆から親しまれた、「開かれた庶民の寺」。
そんな歴史から宗派や人種を問わずに納骨を受け入れ、阿弥陀仏へと変わった故人をいつまでも丁重に供養しながら仏様への礼拝も捧げる、仏教の根本精神と故人への供養を兼ねた「お骨佛」の存在から、海外からも納骨の依頼が来るこの地へ冬樹が来た理由・・・それは一年前にこの地に眠り、じきに16体目のお骨佛へと変わる「友」、コンドウの一周忌の今日に彼を供養する為である。




「あの、貴女がパレッタさんですか?」
『そだよ?じゃあ、キミが元「怪獣F」こと田冶冬樹君だね?待ってたよ!』




二体の仁王像が睨みを効かせる、一心寺の正門となる「仁王門」の前にはパレッタが待っていた。
目的は無論、冬樹と同じコンドウ一周忌を弔う為である。




「えっと、連れはもう少し時間が掛かるようなので先に行かせて貰いました。貴女と2人で話してみたかった事もあるので。」
『あたしに?なになに?』
「貴女はコンドウ君の「G」関係の師匠だと聞きましたが、その馴れ初めについてお聞きしたいです。確か、コンドウ君は一度も詳しく話して無かったので。」
『あっ、そうなんだ?うーんっとね、あれは36年前の2011年のクリスマスイブに、日本の大阪上空に「ユニジン」って言う「G」が12年振りに現れる、って噂を聞いて・・・』
「えっ?ユニジンってあの12年に一度、時空を超えて数秒だけこの世界に現れると各地の伝承に伝わりながらまともな目撃例は僅かで、写真に収められた事が一度も無い事から、存在自体が幻とされている『神話の幻獣』?」
『その通り!さっすがガレリアン古参の元怪獣F君だね~。で、ちょうど日本で診察所を建てたいって思ってたマイン君とカル君と一緒に日本入りして、そのままあたしは大阪へ行って、ここ天王寺辺りの上空に現れる事までは突き止めたんだけど、土地勘が無いから詳しい場所が分からなくて、遂にクリスマスイブ当日を迎えちゃったんだけど・・・そこで、お尋ねしたのがコンちゃんだったんだ。』








『ねぇ、そこのキミ!ちょっと聞きたい事あるんだけど・・・』
『えっ!?ちょっ、ノースピーキングイングリッシュ・・・って、あれ?日本語?』
『じゃあ大丈夫だよね?この辺りに、仏像ばっかりある場所ってある?あたしよく分かんなくって・・・』
『仏像・・・四天王寺?いや、仏像ばっかりならお骨佛のある一心寺か・・・?』
『そこ知ってるの?じゃあ今すぐ連れてって!』
『えーっ・・・と、別に大丈夫ですよ。あそこには僕のおじいちゃんがいるので何度か・・・』
『ほんと!?ありがとね~!!』
『ふえっ!?あっ、あのいきなりこんな所で僕なんかに抱き付いちゃダメですよぉ!?』
『ゴメンゴメン、嬉しくってつい・・・キミ、顔まっかっかだね?』
『す、すみません・・・他人の女性とのハグなんていつ以来かだったんで・・・とりあえず、着いて来て下さい。』
『はいさ!そう言えば、キミは何の用事でここに来てるの?』
『好きなアニメの映画を朝一で観に来たんですけど、折角だからと思って天王寺をぶらぶらしてただけなんで・・・それで、貴女は何で一心寺に?』
『ふっふっふ・・・あたしはあの幻の怪獣ユニジンを見に行くの!みんなぶっちゃけありえない、って言ってるみたいだけどあたしは・・・』
『えっ!?あのユニジンをですか!?僕も知ってます!あのアトランティス文明が存在した遥かな昔から伝承が残っていながら、まだ誰もちゃんと見た事の無い幻のポケモン的な怪獣!』
『うそ、キミも知ってるの!?じゃあ話は早いっ!そのユニジンが今日の11時11分11秒にここ天王寺の上空を通過するんだけど、調べたら仏像ばっかりの場所らしいって事になって・・・ねぇ、あたしと一緒にユニジン見ない?案内してくれたお礼って事でさ♪』
『勿論です!ってか、もう全然時間無いやん!はよ行きましょう!』
『お願いするね☆そうだ、キミの名前は?』
『〇〇って言います。貴女の名前は?』
『あたしはガラ・・・いや、パレッタ!「想造」の芸術家にして、「G」の探求家よ!』







『・・・それで、あたしとコンちゃんはここに行って・・・11時11分11秒。たった1秒だけだったけど、その目で純白に輝きながら空を飛ぶユニジンを見たの。』










・・・パァァウォォォウゥ・・・




『『・・・あっ!!』』
『見た!?〇〇君!?』
『はいっ!一瞬だけですけど見ました、見ましたよユニジンを!』
『あたしも見た!確かにあれはユニジンだよ!』
『『いやったあああああぁぁぁぁぁぁっ!!』』
『やったね!〇〇君!!』
『やりましたよ、パレッタさん!!最高のクリスマスプレゼントや・・・って、はうっ!?す、すみませんまたつい抱き付いてしまって・・・!』
『あたしは平気だよ?それにしても、〇〇君ってほんとシャイなんだから~♪』
『いえいえ、他人の大人の女性にいきなり抱き付いちゃった事に変わりないんで・・・』
『も~、この1000年間でいっつも子供扱いされてたあたしを大人の女性とか言っちゃって~、キミって面白いね~?』
『いやいや、その口紅とか・・・ゑ?1000年間?』
『うん。あたし、こう見えて西暦1000年ちょうど生まれの1011歳なんだ!「爾落人」って聞いた事ない?あの「G」を体に宿し、歳を取らずに何百年以上も生き続ける人間の事なんだけど・・・』
『都市伝説は聞いた事ありますよ、あのジャンヌ・ダルクや「暴れん坊将軍」こと徳川吉宗がそうだったんじゃないか、って・・・でも、流石にそこまで信じろっていきなり言われても・・・』
『うーん、嘘は付いてないんだけどな~?何を話したらいいのかな~?じゃあ、100年くらい前にロンドンで・・・』
『・・・だから、これから色々と教えて下さい。』
『えっ?』
『さっき、あたしは「「G」の探求家」だ、って言ってましたよね?って事は「G」について・・・この世界の謎について沢山知ってる、って事ですよね?僕もそう言うオカルトとか都市伝説とかの非現実的なモノ・・・それこそ、「G」について興味津々な奴なんです。そして貴女は僕に、ユニジンと言うとびっきりの非現実を・・・夢のように素晴らしい「G」を見せてくれた。だから僕は・・・俺は、決心しました。
俺を、弟子にして下さい!!俺も「G」を・・・この世界のスゴい真実を、いっぱい知りたいんです!お願いします!』
『・・・弟子、か。悪くはないねぇ・・・うん、分かった!キミを弟子にしてしんぜよう!』
『ほ、本当ですか!?ありがとうございます!!ありがとうございます!!ありがとうございます・・・!!じゃあ、今から貴女はパレッタ師匠です!』
『師匠・・・!うんうん、この響きやっぱし悪くないっ!だからまずは、面を上げなさいな?』
『感謝致します!はは~っ!
あっ、それとこれからはなるべく「コンドウ」と呼んで下さい。俺、辺境もいいとこなんですがサイトの管理人やってまして、そこのHNなんです。』
『分かった!じゃあ、これからは師弟としてもっともっと「G」を知って行こうね!
コンドウ君・・・コンちゃん!』








「・・・そんな事があったんですね。じゃあここはまさに、コンドウ君との思い出深き始まりの地でもあると・・・それにユニジンが実在した事を、あえて秘密にしていたのも分かります。ある伝承によれば、特定の手段でユニジンを捕らえたら瞬く間に周囲一帯が時空の狭間に吸い込まれ始めたので結局逃がした、と言う話もあるようですし、あえて『幻』は幻のままにしていたい気持ちもあったでしょうね。」
『そうなんだよ~。ロマン、ってやつ?あたしも探求家だけどこの事は言わずにそっとして置こう、って気持ちは分かるな~。あ、そう言えば今年ってユニジンが現れる年だよね?またここに現れないかなぁ?』


ーーまっ、今まさにあたしもそっとして置いてる子が1人いるんだけどね・・・


「そうですね・・・んっ?そう考えると、パレッタさんとコンドウ君は出会うべくして出会った2人・・・出会いだけなら運命的と言うか、『あの日あの時あの場所で会えなかったら』って感じですね?そのまま男女の仲になってもおかしくは無いのに。」
『ん~、あたしは男相手に恋した事無いし、コンちゃんも「師匠は子供っぽく見えて地味に大人っぽく感じる部分もある、間違いなく素敵な女性だとは思いますけど・・・恋愛対象には出来ないです、すみません!」、ってはっきり言われちゃったしな~?』
「何か、余程の事が無いと恋愛沙汰に持ち込まないのが本当にコンドウ君らしいなぁ・・・まぁ、俺も関口さんも似たり寄ったりですけど。」
『それに、あの日あの時あの場所で会えなかったらいつまでも見知らぬ2人のまま、なのはキミも関口君も一緒でしょ?ネットの海でね!』
「ですね・・・ただ、実は関口さんもですが、コンドウ君が『GALLERIA』をやる前のただのネットユーザーだった頃からの知り合いではあるのですが。しかし、何故でしょう・・・こうして話していると、墓参りに来た筈なのにコンドウ君も関口さんも、何だか死んだ気がしないんですよ。決して現実逃避ではなくて、関口さんは何の脈絡も無くふらっと背後から現れて、コンドウ君は特撮イベント会場の人混み辺りにひょっこり紛れていそうで・・・」
『・・・そうだね。この何処までも繋がってる青空の先の何処かで、関口君もコンちゃんも生きていたら、素敵だよね!』




本当は関口が死んでいない事を心の中に秘め、しかしコンドウへの「願い」は隠す事なく、パレッタは僅かに笑みを浮かべながら空を見上げ、冬樹にそう返す。
冬樹もまた、コンドウ・関口との思い出を脳内で回想しながら、空を見上げた。




「はい。俺もそう信じて、2人の分まで生きて行きます・・・」
「あっ、いたいた。怪獣Fさーん!」
「すみません、遅れました・・・」
「碧がどうしても朱夏にあれこれさせたい、って聞かなくて・・・」
「だって、リアル『バタフライエフェクトの出番です!』が見たかったんだもん!」
「そう言うワケでパレッタさんに冬樹さん、おひさです♪」




と、そこへやって来た5人の男女。
能登沢憐太郎・紀子夫妻、その子供の能登沢碧(あおい)、鳳朱夏・・・そして、「「G」友の会」の1人である男「デルタンダルA」。
こうしてコンドウを弔う者達が集まり、彼らは仁王門を通って一心寺の中へと入っていった。








「・・・パレッタさんも冬樹君もみんな、元気そうで良かったよ。なぁ、コンドウ君?
さぁて、俺はあと何回ユニジンが見れるのかな?」




そして数十分後、供養を終えて一心寺を去って行くパレッタ達を人混みの中から秘かに見送る、1人の男がいたのだった。
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