‐Grasper‐ 捕らえしモノ達
「・・・俺の静電気が、微妙に吸われてるな?じゃあ、これは空気中のプラズマを引き寄せる作用があるって事か?幽霊の正体はプラズマだとか言われてるし、道理で霊験あらたかな感じがして怪異も祓えるって訳だ・・・つまりこれ、天然のプラズマクラスター式空気清浄機みたいなもんじゃねぇか!チッ・・・五井さんのせいで、俺の見る目までスランプになっちまった・・・」
ーーこれ、どうするか?
天然の空気清浄機なら別に壊すまでも無さそうだし、面倒だが戻すか・・・
博物館を出た瀬上は透明のまま裏手に回り、入手したターゲットを鑑定。
盗み出した物品が危険な「G」なら破壊し、安全なら元の場所に返却する・・・これが今の瀬上、「G」ハンターのポリシーである。
「・・・それにしても、五井さんがいないとほんとあっさり終わっちまうんだな?」
「コイさんがどうしたって?こんの、こそ泥野郎が!」
するとその時、瀬上の足下を狙って何処からか風の刃・・・鎌鼬が飛来。
瀬上は透明化したまま必要最小限の動きで、鎌鼬が巻き上げる土煙によって透明化した体が炙り出されないように跳躍して距離を取るが、着地した瞬間を狙うかのように二度目の鎌鼬が飛んで来た。
ーーこの鎌鼬を放ってる奴、透明化した俺に気付いてるな・・・?
「隠れてねぇで、さっさとツラ見せやがれ!透明人間になってバレてねぇつもりだろうが、この俺には・・・」
「まるっと全部お見通しなんだから!だから大人しく出て来て降参しなさいっ!!」
「いや、俺がまだ喋ってんだけど・・・」
そこに、鎌鼬を放った張本人・・・隼薙・アークと、妙に態度が大きな穂野香が現れる。
方法は不明にせよ、明らかに隼薙達がこの場に自分がいる事を把握し、攻撃や会話を試みているのが分かった瀬上は、無用になった光学迷彩を解いてその姿を現す。
「・・・はぁ、この状態でバレるのは初めてだな?」
「あっ、麒麟送子の剣!これはこそ泥の動かぬ証拠よ!」
「『こそ泥』って何か嫌な言い方、止めてくれないか?せめて『怪盗』とかさ?」
「人の物をパクってんのは一緒だろうが!カッコ付けてんじゃねぇ!」
「いきなり物を盗んだり、人を平気で傷付けるこそ泥とは、スマートさが違うんだよ。俺は邪魔する奴を気絶はさせるが傷付けた事は一度も無いし、予め予告も送ってるしな?」
「そ、そんな事を言われても私達は乗せられないんだから!犯罪行為に代わりは無いわ!」
『穂野香様の仰る通り・・・だが、確かに「G」ハンターが殺人を行った事例は一つも無い。独自の美学は持ち合わせている、と言う事か。』
「おいアーク!お前が乗せられんなよ!」
「んっ?その手に付けてるの、AIが搭載されてんのか?俺の場所が分かったのも、そいつの解析かなんかか?」
「へっ!残念ながらこいつじゃねぇ、俺の力だ!俺には千里眼があるんだよ!こそ泥なんか百発千中だぜ!」
『間違っているぞ、隼薙。百発で千中は・・・』
「うるせぇよ、お前は!折角キメてんだから、キメさせろ!」
「・・・鎌鼬、風に関する「G」・・・って事は、さしずめ俺が移動する事で発生する空気の振動を読んで位置を探り当てた・・・って事か?そこそこやるじゃねぇか。」
「そこそこ、だぁ?じゃあお前はどんだけ強いんだよ!」
「少なくとも、お前らみたいなたかだか何十年しか生きてない半人前よりかは、間違いなく強いぜ?俺は少なくとも、2000年は生きてるからな・・・あれ?2000年は少し言い過ぎか?1800年くらいだったか?」
「に、2000年だとぉ!?」
「あんた、もしかして・・・」
『間違いない、爾落人・・・それも、相当な実力者と見た。』
「マジかよ・・・ほんとに爾落人って、何千年も生きれんのか・・・」
「・・・それでも、だとしても!こそ泥なんて許せないわ!もう見えるようになった今なら、私の火で無駄に火傷させずに済む!倒せなくても・・・その剣だけは取り返すんだから!」
「お、おい待て穂野香!」
『穂野香様!?』
相手が爾落人・・・強大な存在と分かりながらも、熱い正義感を爆発させた穂野香は両手両足に火炎を纏わせ、瀬上へと全力で向かって行く。
「おいおい、こそ泥側の事情もちょっとは考えてくれよ、ファイヤーガール!」
だが、瀬上は余裕を全く崩さずに穂野香の燃える拳を回避し、続けての炎のキックも問題無く避けてしまう。
「くっ!」
「それとな、その正義感と勇敢さは認めてやるが・・・手練れの爾落人を相手にするなら、相手を傷付けないようにするとか、そう言う甘ったれた考えは捨てな!そうしないと・・・」
躍起になりながら、瀬上に次の一撃を繰り出そうとする穂野香の額を、瀬上は右手の人差し指で突き・・・軽い電気ショックを浴びせた。
「あうっ・・・!」
「・・・やられるぜ?こう言う風にな。」
「ほ、穂野香!?」
一瞬で気絶した穂野香はその場に倒れ込み、隼薙・アークは慌てて穂野香に駆け寄ると、彼女の体を抱えて様子を伺う。
「穂野香!大丈夫か、穂野香ぁ!てめぇ、穂野香に何しやがったぁ!!」
「何したって、マヒ状態にしただけだ。じきに起きるだろ。」
『・・・どうやら、この男の言う事は本当のようだ。穂野香様は意識こそ失っているが、バイタルは正常だ。』
「まぁ、別にこの剣は特に問題の無いブツだったし、返してやってもいいぜ?と言うかむしろ、返してくれると助かる・・・」
「・・・決めた、やっぱてめぇは俺がぶっ飛ばす!!」
隼薙は穂野香を再びゆっくりと地面に降ろし、その刹那に右手から起こした強風を瀬上へ向けて飛ばした。
不意の強風に瀬上の体は吹き飛ばされ、瀬上が手放した剣は宙を舞って博物館の方へと飛んで行くが、即座に受け身を取っていた瀬上は直ぐ様体勢を立て直し、無事に着地する。
「おい、全力で来いとは言ったが不意討ちとは感心しないな?」
「うるせぇ!ちゃんと対処出来てやがるだろうが!俺だけじゃなくて、穂野香にまでマウント取りやがって・・・ぜってぇ許さねぇ!!」
「あ~、お前アレか。シスコンってやつか?可愛い妹に手を出した俺が、許せねぇんだな?」
「あったり前だ!俺の妹は世界一可愛いんだからなぁ!!」
隼薙は激昂の感情を剥き出しにし、鎌鼬を続々と生成しては瀬上へ跳ばしながら同時に全身に風を纏わせ、追い風を得たグライダーの如く加速しながら、瀬上へ向かって行く。
瀬上もまた、穂野香以上に隼薙の一挙手一投足を警戒しつつ、あえて軽薄な態度を見せながら隼薙の鎌鼬を全て回避する。
「あの妹が可愛いのは認めるがな、甘ったれも兄妹で一緒みたいだな!」
続けての隼薙の疾風を纏わせた渾身のパンチを回避した瀬上は、右手に蓄積した電流を穂野香の時のように隼薙に浴びせようとする。
「お前も妹みたいに、マヒ状態になっときな!」
「なっ・・・んてな!!」
・・・が、隼薙はあえて右手のアークを盾のように向け、アークは風車を高速回転させて電流が直撃する前に拡散、消滅させた。
「なに?」
「へっ!見たか!俺にはアークって言う『ヤタノカガミ』があるんだよ!「G」の電撃なんか、通じるか!」
『私を無断で盾にしておきながら、よくも抜け抜けと・・・だが、これで奴の能力にある程度の推測が付いた。奴は恐らく、「電磁」の爾落人だ。』
「「電磁」?「電気」じゃねぇのかよ?」
『違う。似て非なる、「電気」より応用が利いて厄介な能力だ。先程の透明化も、「G」ハンターの犯行の際に毎回赤外線センサーを掻い潜ったり、警備装置を無力化していたのも、これで説明が付く。』
「ほう?その風車、持ち主よりよっぽど利口で優秀みたいだな?」
「う、うるせぇ!」
『利口ついでに告げておくならば、私は「G」由来の自然現象をコントロールする事が出来る。先程お前の電撃を無力化したように、「電磁」もまた自然現象の一種・・・隼薙は兎も角、並大抵の攻撃は私には通用しないと思った方がいい。』
「お前、ほんと余計な一言な!だが、これで勝機が見えたってもんだ!てめぇが爾落人なら、俺だって「疾風」の爾落人!てめぇが雷神なら、俺は風神!つまり、お前を倒すのはこの俺だぁ!!」
『私を忘れるな・・・だが、穂野香様への無礼に対する詫びと、「G」ハンターの引退は約束して貰う!』
「・・・残念だが、俺はまだ「G」ハンターをやめる気はねぇし、ましてや半人前の爾落人なんかにやられるなんざゴメンだな!いい機会だ、爾落人としての格の違いってのを教えといてやる・・・が、その前に自称風神様の名前だけ聞いとくか。お前、名は?」
「人に名前を聞くなら、先にお前が名乗りやがれ!」
「やっぱそう返すか・・・俺は瀬上浩介。またの名を「G」ハンター、そして「電磁」のコウだ。よーく覚えとけ!」
「なら、てめぇもしっかりと脳ミソに刻みやがれよ!俺は『風使い』にして、「疾風」の爾落人の初之隼薙!そんで、相棒のこいつは人口「G」のアーク!
そして世界の誰より可愛い俺の妹の名は、初之穂野香だあああああああっ!!」
瀬上は電撃を、隼薙は風の塊を、それぞれの両手に収束。
激しい雷と風・・・まるで「風神雷神図」のように睨み合う隼薙と瀬上が、今まさにこの町に嵐を巻き起こそうとしていた・・・