‐Geek‐ 好きこそモノの上手なれ
「・・・なるほど。じゃあ『あァァァんまりだァァアァ!!』も、合理的なクールダウンの手段だったって訳か。」
『そうみたいだよ~?だから、関口君も泣きたい時は泣けばイイんだよ☆あたし、胸貸してあげよっか?』
「いや、俺は酒と煙草でだいたい何とかなるんで遠慮しときます・・・と言うか、飄々と喋ってますけどかなりヤバい状態だった、って事じゃないですか。そこからどうやって復活したんです?」
『それはね~、どうせ外には出れないから一ヶ月くらい病院でのんびり養生してたらね・・・「あややちゃん」が来てくれたの。』
「あっ、パレッタさんだ!おひさで~す!ごめんなさい、中々会う暇が作れなくて・・・」
「・・・引田さんから聞きました。PTSDにかかって、「想造」が出来なくなったって・・・でも、だからこそ貴女は「想造」、想い描いたモノを造れるスゴい人なんだから、厳しいかもしれませんが・・・想う事を、やめちゃいけないと思います。ちょっとずつ、でも確実にアゲてく感じで・・・」
「頼まれ事、でしたっけ?内容は知りませんけど、ある程度決まってる未来・・・ゴール地点が見えているなら、あえてマイペースに今の自分がしたい事をやるべきです。リハビリって時間が掛かってでも少しずつこなして、私は出来る!って実感を積み重ねて行く事ですし。」
「・・・『あたたかいあたりまえ』を、思い出して下さい。」
「・・・鳳君か。それはある意味最強の助っ人が来てくれましたね?」
『でしょ♪みぃちゃんがあたしを癒してくれたなら、あややちゃんがあたしを立ち直らせてくれた感じかな?「因果」かどうかは分からないけど、それからやる気と想像力がぐんぐん湧き上がって来て、ガンバろう!って思えたから、一ヶ月振りに転送装置を造ってみたらね・・・』
『・・・で、出来た・・・出来たよ!!みぃちゃん!!チェリィ!!あややちゃん!!
い~、やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
『パレッタ、おめでとうデス!』
「うんうん!やっぱパレッタさんって、超ワンダフルっ♪おめでとうございまーす!!」
「・・・本当に良かったわね。パレッタさん・・・」
『・・・こうして、あたしはまた「想造」の芸術家にカムバックした・・・とさ☆』
「いやいや、『~とさ』って勝手に〆ないで下さいよ。俺もその頃ちょうどJ.G.R.C.辞めてここに来てたんで、励ましのメッセージも送れなかった中で自分で立ち直ってくれたのはありがたいを越えたありがたいですけど、まだ『コイツ』の誕生秘話については一つも聞いて無いんですよ?」
『大丈夫、話の本番はこっからだから!それで、チェリィと一緒に一ヶ月振りにアトリエに戻ったあたしは・・・』
『うーん、うーん・・・』
アトリエの一室。
「G」動力炉・・・になる予定である動力部が空っぽのエンジンを前に、パレッタは悩んでいた。
今までと違うのは、傍らにチェリィがいる事だが。
『やっぱり、ダメそうデスか?』
『うーん・・・ダメって言うか、なんかやる気だけは凄いあるのにどうやれば良いか分からないって言うか、ひたすら気力が行き場を失って行ってる煮え切らなさって言うか・・・』
『たしか、「G」の「動力炉」をつくるんデスよね?それなら、すごい「G」をもとにしたらどうデス?』
『「G」を再現してみる、って事?うんうん、それは良いアイデアかも!でも、永久機関に出来そうな「G」は・・・』
『・・・「時間」とか?もしくは「空間」・・・』
『あっ!!それだ!その案買った!さっすがオカ研からの付き合いのチェリにゃん!ありがと~!!』
この一年、パレッタを悩ませていた難題を解決に導くヒントをおもむろに提示したチェリィに対し、パレッタは感激の感情のままチェリィを強く抱擁する。
チェリィが差し出した謎を解く鍵は、それ程までにパレッタの中で大きなものであった。
『わっと・・・パレッタ、すこしやせたデス?あれからちゃんとたべてないデスね?』
『だって、想像力が湧かないと食欲も湧かないよ~!けど、もう大丈夫!そうと決まれば、早速設計図作りの開始よ!!
ええっと・・・「空間」は・・・昔造った「ディメンション・タイド」をベースに・・・世莉ちゃんの「結界」とか「転移」・・・「転移」はあのおばさんの方が良いか・・・どちらかと言うと「時間」はまだだから・・・「ディメンション・タイド」の反物質世界移動と菜奈美ちゃんの時間巻き戻しを参考に・・・時間を越えるタイムマシンみたいな・・・1.21ジゴワット・・・』
チェリィへの抱擁を止めたパレッタは、両手の人差し指をこめかみに当て、目を瞑ってブツブツと言葉を呟きながら思案に励む。
さながらとんちを考える一休さんのようなこの様子は、パレッタが新たなモノを生み出す際に必ず行われる、自らの頭の中を図面とした「設計図」の生成作業、「想造」の第一段階である。
『・・・反物質世界を通じて・・・シュバルツシルト半径を・・・世界を超えて・・・・・・
っよし!!で~きたっ!!』
『やっとできたんデスかぁ・・・ふぁ~っ・・・』
『ふう・・・今回はか~な~り手こずったけど、これはか~な~り自信作になるよ・・・!
それじゃあ、出番だよ・・・「ン・マ・フリエ」!』
それから、約半日もの間の直立不動の思案を経て、頭の中で「設計図」が出来上がったパレッタは愛用の杖の名を叫び、杖の先の毛筆を出して七色に光らせると、虹の絵の具で地面に何かの模様を描いて行く。
「想造」の第二段階、「設計図」の生成だ。
『チョチョイの、チョチョイの、チョイっと!よーし、出て来なさい・・・』
やがて地面には懐中時計のような模様が描かれ、パレッタは模様を杖で軽く叩く。
すると模様が光り、形状や内部機構だけでなく素材(マテリアル)の一つ一つまでも事細かく刻まれた、模様と言う名の「設計図」を元にした「想造」の力による具現化、「想造」の第三段階が行われ・・・
『・・・さぁっ、「タイムマシン(仮)」の、誕生よ!!』
模様より現れたのは、見た目は大きなメーターが扉に付いた、白色の大型冷蔵庫にしか見えないモノであった。
『・・・「冷蔵庫」?』
『違うよチェリィ、これこそあたしの大発明!発明家なら誰もが憧れる夢の装置・・・そう、「タイムマシン(仮)」!!』
『タイムマシン、かっこかり?これがデスか?』
『そうなの!まず、このメーターに行きたい日付と時間を入力して・・・あとは中に入って、この1.21ジゴワット発生ボタンを押すだけ!ねっ、簡単でしょ☆』
『それはそうデスが・・・これ、「「G」の動力炉」じゃないデスよね?』
『そだよ?でも、さっきチェリィが言ってた「時間」と「空間」・・・つまり「時空」の「G」を擬似的に再現出来れば、永久機関の問題は解決すると思うの!まぁ、擬似的に再現出来るのかとか、安定したパワーソースはどうするのかとか、別の問題はあるけど・・・ひとまず、まだ造った事の無い「時間」関係のモノを造ってみようと思ったんだ!あっ、でも時空間移動とか時間軸の固定とかタイムスリップとかそう言う「場所の移動」に関しては、先に造った「ディメンション・タイド」が役に立ったけどね♪』
『そうなんデスね。それで、これからタイムスリップしにいくデスか?』
『そうしたいのは山々だけど・・・その前に、はらペコった~!からどっかに食べに行こっか♪』
『そりゃそうデスよね・・・じゃあ、きょうはどこにいくデス?』
『うーんっと・・・よし!ブースカのラーメン屋に行こっかな~。』
『またデスか?さいきんよくいくデスね?』
『だって、ブースカ可愛いじゃ~ん☆バラサ、バラサ~♪今から行けば多分まだ開いてるし、行こ行こっ!』
そうしてパレッタはチェリィを連れ、鏡型転送装置を使って最近ご贔屓にしているとあるラーメン屋へと腹ごしらえに向かい、アトリエは再度もぬけの殻となった。
それから一時間程して、腹を満たしたパレッタがチェリィと共に帰宅。
タイムマシンのメーターの下にあるテンキーを入力し、行き先の時間軸を指定する。
『「2019年」の・・・やっぱり、「この日」にいくんデスね。』
『うん。10年前、「今のあたし」が初めて菜奈美ちゃんと会った時に聞いた、菜奈美ちゃんにとってはあたしと初めて会った事になってる、「いつかの過去」・・・それはきっと今しか無いと思うし、それはタイムトラベル自体は絶対成功するって確証にもなるわ。』
『・・・でも、それってこのタイムマシンはぜったいにこわれる、ってコトになるデスね・・・』
『だから「タイムマシン(仮)」なの。タイムマシンとしては、片道で壊れちゃったら意味無いし・・・ね。あ~あっ!この子、久々のストレートな超自信作だったんだけどなぁ・・・未来が分かるって、意外とつまんないんだね?』
『パレッタ・・・』
『・・・まっ、このタイミングで21年前にタイムトラベル出来るのはドンピシャなタイミングなんだけどね。「第二次関東大震災」が起こる前の日本と、あたしの「あたたかいあたりまえ」を思い出す為にも・・・ってわけで、チェリィにはあたしが帰って来るまでのお留守番を命じるっ!』
『はい!それくらいなら、やってやるデス!』
『まぁ、チェリィとしては一分後くらいにあたしが帰って来るかもしれないけど、何があるか分からないから一応ね?これでもあたしにとってはみぃちゃんや菜奈美ちゃん、それとエリちゃん並みに頼れるマブダチなんだから♪』
『・・・ワタシもデス。』
『ありがとう、チェリィ。それじゃあ・・・史上初の人工「G」によるタイムトラベルへ、さぁ行くぞーーー!!』
『いってらっしゃいデース!』
少し前まで「想造」を、自分自身を失っていたとは思えない程に、屈託の無い満面の笑みを浮かべながらパレッタはチェリィに手を振り、タイムマシン(仮)のドアを開けて稲妻模様の赤いボタンが一つ壁に取り付けてあるのみの内部へと入り・・・暫し後、タイムマシン(仮)にまるで落雷が直撃したかの如き激しい電流が走り、タイムマシン(仮)はパレッタと共に忽然と姿を消したのだった。
『・・・よっ、と・・・ついたーーーっ!!』
2019年、日本の何処かにある「御浜」と言う名の町。
その外れの空き地に、突如として稲光にも似た激しい閃光が瞬き・・・凍り付いた黒焦げの大型冷蔵庫が現れ、ドアを開けて中から「2040年」のパレッタが出て来た。
それは史上初の人口「G」によるタイムトラベルの成功と・・・
『・・・あちゃー、やっぱり壊れちゃったかぁ・・・ううん、キミは片道切符だけど見事にタイムスリップを成し遂げてくれた、あたしの自慢の子!ちょっとの間だけだけど・・・ありがとね。』
パレッタの大発明「タイムマシン(仮)」の、最初で最後の役目が果たされた事を意味していた。
『さてと、間違いが無ければここは2019年の御浜町で・・・あそこに、「今の」菜奈美ちゃんがいるんだね?』
タイムマシン(仮)との別れを済ませ、空き地を出たパレッタは町の外れに佇む古ぼけた灯台を確認し、真っ直ぐに灯台へと歩みを進める。
この後の展開は、少なくとも「未来へ戻る」までの事は大体把握している、言ってしまえば予定調和だが、運命と呼ぶのもまた間違いでは無い「出会い」・・・その為に。
『・・・待っててね、菜奈美ちゃん!』