‐Geek‐ 好きこそモノの上手なれ
「んっ?なんだ?シルエットはまるでゴジラだけど、なんかデジャブ・・・」
「クーガー、分かるか?」
『言わずもがな、蛾雷夜の力によるものでしょう。「武創」の力を複製して生み出した、全身武器庫の様なロボット怪獣・・・蛾雷夜版メカゴジラ、新メカゴジラと呼称すべき存在ですね。全身を覆う装甲はチタン合金の一種ですが、現在の人類の技術で作られたそれよりも遥かに頑丈ですよ。これは厄介ですね?』
その後も戦いは更に激化。
旧「組織」代表者だったアルマの力を宿す、蛾雷夜の次なる尖兵・新メカゴジラと・・・
『リンク確認!
ガイガン・・・起動ぉぉぉぉぉぉぉっ!!』
『!』
「やはり、ガイガン!」
『今回の一件で予算捻出ができてやっと直せた俺の自信作だ!腕は初期設計のカマを流用することになったけど、まぁこっちのが好きだったからいいか!』
「日本の財政を趣味に使いやがったな?」
『いやいや、結果を出せば問題ないぜ?』
玄奘が駆る、関口の次なる対抗策・・・人工の「殺ス者」ガイガンの復活と、2012年のアルマVSレリックの戦いを彷彿とさせる、二体の激しい闘争。
「もう一つ、来るぞ・・・一人だが、まるでキャシャーンのようだ。爾落人だが、人間ではない。」
「新手の敵か?」
「もう勘弁してくれよ・・・」
『安心しろ。味方だ!』
「味方?しかし、誰が?」
『忘れたか?ここにもう1人、本当だったらいてもおかしくない奴がいるだろう? 「時空」の爾落人をここで生み出すならば、当然関わるべき人物の1人・・・偶々これまで関わる手段がなかっただけでな?』
「え?」
『・・・こちら、ムツキ!これより皆さんを援護します!』
「ムツキですって!」
『よぉ!ちゃんとお別れは言ってきたか?』
『えぇ。最後の最後に「彼」との夢を果たせましたし、もう哀しみは過ぎました・・・「彼」と私の愛は、永遠に不滅です!だから・・・この「ちせ」で皆さんにご恩返しをします!』
「電送」の爾落人・ムツキが、千早と同じく関口が造り出した機械の身体・・・愛玩用兼人型自律防衛・護身用女性アンドロイド、商品名「T-123」に宿りし最強の援軍・・・商品名を鏡読みした愛称「T-ISE(ちせ)」の名を冠し、関口によりMOGERAに匹敵するオーバースペックを与えられた、麗しき機械天使の加勢。
『我が身を、本気で捕えられると思っているのか?ガハハハハハハッ!笑止!!』
「「「「「「「「「!」」」」」」」」」
『我がこの姿になるのは、「殺ス者」以来だ!だが、この「組織者」オルガの前に貴様らなど蚊ほどの脅威もないわ!!』
『・・・形勢は、決して不利になってはいない。それに、人間の底力ってのを見せてやるぜ・・・!』
全てを光に変える陽電子砲の一撃を受け、第二某大学丸を失ってもなお、理不尽なまでの「反転」によって障害を捩じ伏せながら実験室へと迫る明日香と、2042年にニューヨークを壊滅させた巨大「G」・「破壊者」ことクローバーをも越える蛾雷夜最強の姿・オルガの降臨。
この「絶望」を目の当たりにしてもなお立ち向かう、黄と「黄昏」・・・天の龍王「魏怒羅(ギドラ)」と、人間達。
「・・・もう時間はない。パレッタさん、桐生さん!始めるぞ!」
一方、実験室では「時空」の爾落人の誕生まで約10分を切っていたが、それよりも早く明日香が世莉の張る結界を突き破り、侵入して来る算段となっていた。
この防衛戦最大の目的を果たす為、護衛役の綾を連れて実験室に来ていた関口は装置の最終調整をするパレッタ・江司に発破を掛け、綾もまた「念撃」の力を培養槽内の草体に込めて細胞分裂を促し、さながら鶏卵を温めるかのように一秒でも早く誕生を早めようとしていた。
「そうだ、パレッタさん。コンドウ君の件、お悔やみ申し上げます。」
『ありがとう、関口君。』
そんな中、関口は白衣の裏ポケットから煙草の箱を取り出し、培養槽の中を何処か悲しみを湛えた目で見つめながら、箱に入った最後の一本にライターで火を付け、口に咥えて紫煙を吐きながら箱を握って潰し、おもむろにパレッタに話しかける。
「蛾雷夜を『知り過ぎた』から殺された・・・まるで、7年前の五井さんと同じだ。まかりなりにも人類を造ったお人の癖に、壊してばかりだな?」
『当たり前だよ。造ったモノへの「愛」が無いのは、あのブリキの玩具みたいなメカゴジラを見たら分かる・・・同じ「造る」事なら、可愛げは無いけどアルマ君の方がまだマシだったし、あれがアルマ君の「G」から生まれたなんて、あたしは認めたくない。』
「まぁ、創造物に愛を込め過ぎるのも時に問題ですが・・・俺もその意見、分かる気がします。それにしても、俺はもしかしたらパレッタさんは来てくれないかと思っていたので、大変助かりました。13年前のエリクシア事件は偶然エリクシアが貴女の親友だったから関わったのだと思いますし、今回も言っちゃ悪いですがコンドウ君の件があったから、弔い合戦と言う理由が出来ましたからね?」
『うーん・・・それもそうだけど、関口君もあたしにとってマブダチだから助けになりたい、それじゃダメかな?』
「いえ、有難い限りで。」
『・・・それに、マブダチが危ない事をしようとしているなら止めないとね?エリちゃんやコンちゃんみたいに、何もしてあげられないままいなくなっちゃうのは、もう嫌だから。』
「俺、そんなに死亡フラグ立ててました?」
『死ぬと言うかいなくなる、会えなくなるのが嫌なの。「時空」の子がキミ自身の集大成なのなら、もうこの世間に未練は無いと思うし・・・タバコ大好きなキミが籠城戦なのにタバコを切らすなんて、あり得ないもん。』
「・・・流石は爾落人、1000年生きると自然と勘も鋭くなるわけですか。ですが、今の所死ぬ気は絶対ありませんので安心して下さい。少なくともあと2000年は生きないといけないし、それくらいの寿命の猶予は『あの日』貰ってますから。」
『そう・・・じゃあさ、例えば指名手配犯みたいな超お尋ね者にはならないって、約束して?もし約束破ったら・・・ハリセンボン飲ませるよ?』
監視装置のコンソールを右手片手間に叩きながら、パレッタは小指だけを立てた指切りのポーズを組んだ左手を、関口へと向けた。
関口もまた、右手で指切りをしようとするが・・・その手を途中で止める。
「・・・すみません、時と場合によっては約束は守れないかもしれません。ですが・・・必ずまた貴女に会いに行く。それは約束します。」
再び培養槽に目をやり、誕生が迫る「時空」を見て穏やかな表情を浮かべた関口は最後の煙草を吸い殻入れに仕舞い、止めようとした指切りのポーズを組み、パレッタの小指と小指を結んで指切りげんまんを交わす。
パレッタはなおも画面を見つめていたが、その口元には笑みが見えた。
「海から無数のレーダー?・・・まさか!」
『陸・海・空の自衛隊が応援に来ただと?旧裾野市にいた陸自だけならまだしも・・・』
『・・・友軍に告ぐ!国防の為、防衛相及び陸・海・空全幕は、警戒区域内で敵と戦うあなた方の援護に協力することを決定しました!』
「ははは、マジかよ。本当に戦争状態になったのかよ?」
『コウ殿。風向きが変わった。一気に殲滅するぞ!』
「おぅ!」
第三防衛線では、亨平の「無理を道理で押し通した」結果として、ようやく陸・海・空の自衛隊が参戦。
ミサイルがキャシャーン軍団を焼き払って行き、ようやく事態は好転に向かった。
「蛾雷夜は黄に任せて、私達はお前の相手だ。」
「!」
「勿論、その厄介な能力なしでな?」
本部前では、ムツキ(ちせ)の犠牲と黄の奇策を持ってようやく明日香の動きを止め、翔子が「G」封じの枷・封力手錠を明日香の両手首へ転移する事に成功。
あとは、オルガをどうにかするだけ・・・
「・・・なっ!」
かと思われたが、明日香は無加減で両手を地面に叩き付け、両手首の骨ごと手錠を砕くと言う文字通り「肉を切らせて骨を断つ」、自らの犠牲を厭わない無謀な策で拘束を打破。
「反転」による反重力で翔子達を超高速で嵐の中に吹き飛ばし、菜奈美の時間停止と翔子の転移で致命傷は避けたが全員に身動きが取れなくなる程のダメージを与えると、明日香は自らに「反転」を課しての超高速移動で本部旧体育館の壁を破壊。
静かに佇むMOGERAのボディ前に着地し、一瞥するや更に「反転」の衝撃で床を破壊し、遂に本丸・・・最深部の実験室への侵入を果たした。
「遂に来たか・・・だが、僅かに遅かったな。タイムリミットだ。」
培養槽の前には、明日香に背を向ける形で綾を傍らに置いた関口が佇んでおり、関口の言葉と共に江司が明日香への恐怖心と目的達成への緊張感に震える手で、監視装置の「Awaking」ボタンをタップ。
それと同時に、培養槽内の培養液の排水が始まった。
ーーあっ!
やっぱり、ギャオス事件の時に平司君と一緒に高みの見物をしてた、許すまじ奴認定女!
「させない!」
「・・・」
「っ!!ま・・・だ!」
「愚かな女。」
「それでも、何もせずにいるのは嫌よっ!」
ーーあーやちゃん・・・!!
そうだよ、何もせずにいるなんて無理・・・!
「せめて、道連れに・・・!!」
「無理。」
ーーこれ以上、コンちゃんみたいな犠牲者は出させない・・・
その為なら、あたしだって・・・!
表情も無駄な声も出さない、能面を彷彿とさせる顔付きと機械のような冷徹さ・・・そう形容出来る無機質さを纏いながら、何としても関口と培養槽を守らんと「念撃」を放つ綾の攻撃を「反転」させ、彼女の全身の骨が折れる程のカウンターアタックを与えて軽々と返り討ちにする明日香に対し、パレッタは杖を持つ手を固く握り締め、守る為に戦う決意を固める。
それが自殺行為にも等しい無謀な行為だと、分かっていながら。
ーー・・・ごめん、コンちゃん。約束、守れないかも・・・
でも、あたしだって・・・!それにキミの仇を・・・
〈無駄死にする位なら、一秒でも早く「私」を取り上げなさい?〉
・・・と、その時。
パレッタの脳裏に、唐突に女の声が聴こえて来た。
ーー・・・えっ?あの子から、声?
・・・でも、悔しいけど言う通りだ・・・あたし達が本当に守るべきモノは・・・この子なんだから!
パレッタは「声」に導かれるまま、培養液が尽きた培養槽の草体の中から、小さな赤子を取り上げた。
「二階堂さん、もう十分だ・・・彼女は、生まれた!」
「・・・よかった・・・
ごめん、ね・・・
しの、ぐ・・・」
その関口の言葉と共に、室内に響く赤子の・・・「時空」の爾落人の産声。
その身を懸けて使命を果たした綾は、安堵の表情でゆっくりと瞳を閉じ、「彼」の面影を頭に浮かべながら・・・ぴくりとも動かなくなった。
一つの命が生まれ、一つの命が終わった瞬間だった。
「まだ終わりではない!」
「それはどうかな?」
なおも明日香は関口に襲撃を仕掛けるも、意地の悪い笑顔と共に関口は白衣を脱ぎ捨てながら明日香に飛びかかり、白衣に隠されていた金属製の拘束具と自らを持って、明日香を拘束した。
「封力手錠の拘束具版だ!二階堂さんのお望み通り道連れにしてやる!」
「巫師風情が!」
「何とでも言えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
関口は絶叫し、拘束具と共に全身に付けていた爆弾を起動。
爆発と同時に関口は明日香諸共、光の中へと消えた。
「せ、関口くん!!」
爆破による黒煙が実験室を覆い、江司が動揺の声を上げる中、パレッタは無言で赤子を抱えながら煙の先を見つめる。
「・・・」
『そんな・・・』
数秒後、僅かに晴れた煙の中からパレッタ達の視界に見えたのは、無傷の明日香。
『・・・「反転」。蛾雷夜も面白いものを作るわね・・・でも、私を殺すにはぬるい能力と言わざるを得ないわ。』
そして、先刻パレッタが赤子越しに聞いた声の主・・・4年前に関口の元に現れた紫の髪の美女と、明日香同様に五体無事の関口であった。
「邪魔をするな!」
明日香は即座に女性へ向かうも、彼女に指一本も触れる事は敵わず、まるで先程の綾の如く無常にも床に叩きつけられる。
明日香の優位性は、一瞬で逆転した。
「ぐっ!」
『やっぱりぬるいわね。跪いて私の足でも舐めるのがお似合いよ?』
女性はサディスティックな眼差しで明日香を見下しながら、これ見よがしに足を彼女の顔の前に差し出し、これまで明日香が生きた34年間で一度も感じた事の無い程の、この上無い屈辱を味あわせる。
その様子はまるで、気紛れに奴隷に罰を与える女王様そのものだ。
「貴様、こんな屈辱・・・!何者だ!」
『私?私はレイア。あなたが殺そうとしていた「時空」の爾落人ですよ?』
「なに?」
『いい表情ねぇ・・・でも、もっといい表情をさせてあげますね?』
女性の正体は、今まさに生まれた筈の赤子と同じ「時空」の力を持つ爾落人・レイアであり、彼女の目の前で明日香は全く抵抗出来ないままぶらりと宙に浮き、そのままレイアが生成した時空の穴の中へ吸い込まれ、生まれて初めての動揺の表情を浮かべながら、松田明日香はこの世界から消えた。
『虚無の世界に消えなさい。永久に・・・家畜の如く。フフフ・・・』
永遠に終わらない、文字通りの終身刑を明日香に与えたレイアは恍惚とした愉悦の表情でほくそ笑み、振り返って背後に立つ関口とパレッタを見る。
『関口さん。お久しぶりです、と言えばよろしいですか?』
「ついさっきまで一緒にいたかのような口振りだな?」
『えぇ、まぁ。』
「・・・とりあえず、誕生おめでとう!悪いが今は、これくらいしか思い浮かばない・・・この子、お前自身に託して良いんだな?」
『はい。過去へ連れて行きます。パレッタさん、「私」を下さいな?』
『は、はいっ!』
レイアの天衣無縫さとドSっぷりに圧倒されたパレッタはつい何百年振りかの敬語で返し、赤子を彼女に渡した。
「レイアだったな?一つ聞いていいか?『4010年』で合ってるか?」
『・・・それは関口さん、貴方自身でお確かめ下さい。』
「分かった・・・じゃあ、ここから離れた場所へ転移させてくれ。お前の生み方を知っている俺がここで生き延びている事実を作るのは、何かと面倒だ。」
『分かりました。アメリカ大陸の砂漠にでも飛ばしますね?』
「わかってるじゃねぇか?
・・・パレッタさん、桐生さん。俺は先の爆発で死んだ。そういうことで頼む。後の根回しは全部終わってる。」
「・・・やっぱり、お別れなんだね。」
『・・・約束は守ってね?関口君?』
「はい。それじゃあ、死人はさっさと去らないとなんで・・・あと、お2人に出会えたのは俺の人生にとって、間違いなく良かった。それは確かです・・・さようなら。」
関口・パレッタ・江司は頷き合い、江司にとっては今生の、パレッタにとっては約2000年先までの別れを済ませると、関口はレイア・赤子と共に実験室から消えた。
そして、この瞬間を持って関口側の敗北は無くなり・・・
「生きていたのか?」
「あぁ。辛うじてであったが・・・体を再生させるのに時間を要した。この結界、お前ならば引き継げよう。」
「あぁ。それは大丈夫だが、お前は?」
「ふっ・・・己の「因果」を断ち切る。創造主であり、同じ能力である奴を完全に倒すことは不可能かもしれない。だが、これまでに出会った四ノ宮世莉、桧垣菜奈美、後藤銀河、鳳朱夏、四神と能登沢憐太郎・・・そしてレリックと蛾雷夜。「時空」、「真理」、「万物」の三佛は私が完全に「複製」できるものではないが、その力の一端は僅かずつ得ている・・・我が命と鳳がもたらした「因果」をかければ、蛾雷夜を封じることくらいは可能なはずだ!」
「・・・つまり、死ぬ気か?」
「あぁ。後は任せたぞ・・・そして、円藤桐哉と幸せになれ。四ノ宮世莉。」
『生きていたのか、失敗作?』
「左様。我が命、お前との「因果」を残したままでは地獄も行けぬ。」
『失敗作が創造主を道連れにするつもりか?愚かな!身の程を知れ!貴様には天国も地獄もない!その身に写した力と共に我が肉体に還り、無に帰するがいい!』
「元よりそのつもりだ・・・ただし、この身はくれてやるが、この魂と力は永久に封じる!お前は「時空」の一切の力と真理の一部を永久に複製できない!その力を「殺ス」!蛾雷夜、お前の心は我と共に無に還る!」
『・・・まさか!貴様ぁぁぁっ!!』
「蛾雷夜!お前は我を解放できない!再び一つになり・・・この「因果」に終わりを告げろぉぉぉぉぉっ!!」
『おのれ、失敗作がぁぁぁっ!』
「玄奘ぉぉぉぉぉおおおおっ!」
『ぐぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!』
玄奘の総てを捧げた、オルガ・・・蛾雷夜の「封印」と、キャシャーン軍団の全滅を経て、「沼津防衛戦」は終結した。
「ひとまず、敗北は免れた・・・だけど、払った犠牲が多過ぎる。ムツキさんは破壊され、加島さんは蛾雷夜封印の生贄となって消え、関口君は表の世界を歩けなくなり、陸自を初めとして数多くの人が死に・・・」
『・・・また、守れなかった。』
実験室では、江司とパレッタが綾の死体を見つめながら、悲しみに打ち震えていた。
『あややちゃんに、どう報告すれば良いんだろう・・・コンちゃんが死んで、関口君はいなくなって、ムツキって子とカシマシ君とあーやちゃんが死んだ・・・
死んだかとか、いなくなっただけだとか、そんなの関係ない・・・いきなりお別れなんて、もう会えないなんて・・・やっぱり嫌だよ・・・!』
「パレッタさん・・・ある意味僕は普通の人間だから、いつか死んで忘れられるけど・・・爾落人は生きている限り、このサバイバーズギルトをずっと抱えていかないといけないのか・・・」
『・・・あたし達にこんな目に遇わせた、関口君・・・ほんっと、覚えてなさい!
次会ったら絶対、ハリセンボン飲ませてやるーーーーーーーッ!!』
両目を涙で覆いながら、パレッタは沸き上がる悲しみを振り払うかのように、責任を果たす為に無責任に何処へと消えた関口へ向けて、力一杯叫ぶのだった。
「二階堂を運び出した・・・今は、東條と2人にしている。」
「綾さん、加島さん、ムツキに関口先輩、そして自衛隊を始めとした多くの人。決して少ない犠牲ではないわ。四ノ宮さんも手当てをして貰って下さい。自衛隊と三島さんが治療を行っているわ。」
「あぁ・・・なぁ、私達は勝ったのか?」
「・・・負けなかった。運命は予定通り、未来へと託せたわ。私達に、この戦いで得られたものがあるとするなら・・・未来への希望と、暫くの間の安息よ。」
「蛾雷夜は死んでない。玄奘の言葉通りになったなら・・・」
「・・・そうね。」
「恐らく、その通りだろう。」
『はい。蛾雷夜は生きています・・・今も、そこにいます。』
「「!!」」
「どういう意味だ!」
「いるとは?」
『言葉のままです。ここからは目視しずらいですが、オルガがいた地点に蛾雷夜は今もいますよ?』
「何・・・!」
「し、四ノ宮さん!?
・・・汐見さんをすぐに!」
外では皆が勝利の余韻とはとても言えない「結果」を噛み締める中、クーガーが不意に告げた衝撃の情報。
世莉は即座に先程までオルガが佇んでいた地へと「転移」、そこには1人の青年がいた。
「蛾雷夜!?」
『あなたは?私を知っているのですか?我は、何者なのでしょうか?・・・そして、ここはどこなのですか?』
「なっ!
・・・お前の名前は、蛾雷夜。「複製」の爾落人で、ここは日本の旧沼津市内で・・・お前が破壊した跡だ!!」
『えっ?』
距離を取り、最大限の警戒と憎悪にも近い感情を剥き出しにする世莉に対し、ただただ周囲を見渡しながら動揺するだけの青年。
そこへ、翔子が元紀・クーガー・八重樫・菜奈美・瀬上を連れて転移してきた。
「クーガー、どういうことだ?」
『見たままです。この方は紛れもなく蛾雷夜ですよ。尤も、玄奘さんによって過去の記憶と人格、そして「時空」の一切と「真理」のほとんどを失っています。恐らく、今後「時空」に関しては「複製」も使用も出来ないでしょう。まぁ下位能力ならば、他の系統の能力を組み合わせる事で模すことは可能でしょうが。』
「つまり、玄奘のやったことは成功したんだな?」
『はい、世莉さん。この男は蛾雷夜であって蛾雷夜でない。能力と肉体だけが同じでありますが、もはや別人となったと認識して構わないでしょうね。』
玄奘が自らを以て叶えた、最後の願望が形となったモノ・・・それこそが、果てなき野望も何万年掛けて蓄えた力も「組織者」としての存在も奪われ、「複製」の力と罪だけが残された、哀れなただの爾落人・・・「蛾雷夜」であった。
「・・・はじめまして、蒲生元紀よ。蛾雷夜さん、よろしくね。」
『蒲生さん?はじめまして・・・あなたも、私のことを知っているのですか?』
「えぇ。でも、今のあなたは昔のあなたではないわ・・・だから『はじめまして』よ。」
『は、はい・・・』
そんな蛾雷夜を見た元紀は彼に歩み寄ると、何の躊躇も無く彼に手を差し出し、蛾雷夜は不安げな表情のまま彼女の手を握った。
「おい、そいつをどうするつもりだ?」
「保護するに決まっているでしょ?彼は記憶がなくて、こんな荒れ地に嵐の中で1人でいたのよ?いくら爾落人でも疲れている筈よ?」
「だけどこいつは!!」
「今、クーガーが言ったはずよ?もう彼はかつての彼じゃない。なら、彼にもう何も罪は無いわ。」
「・・・はぁ、流石だな。考え方が五井さんそっくりだ。」
「・・・たとえお前が別人になったとしても、私は認めない。いつ元のお前に戻るかわからないからな。」
蛾雷夜と言う存在そのものの罪を許せない・・・いや、許す訳にはいかなかった世莉は最後まで蛾雷夜に怒りの矛先を向けたまま、桐哉の待つ沼津支社へと転移して行った。
「まぁ、世莉もしばらくは気持ちの整理がつかないんでしょ。それに、1人くらいはそういう人がいてもいいと思うわ。」
「そうね・・・でもあの子には、嫌な役をさせちゃったわね。」
「あいつの事は、上司である私に任せてくれ。だが、世莉の言ったことも一理ある・・・蛾雷夜。折角失った自分の忌まわしい過去を無理に知る必要はないが、過ぎ去った事を無かった事には出来ない奴もいる、それを決して忘れないことだ。」
『・・・はい。』
その頃、第三防衛線では一帯を埋め尽くすキャシャーンの死屍累々と、首の無い新メカゴジラ2号機が横たわる戦場の跡地を、隼薙と弦義が歩いていた。
「・・・これ、どう後始末するんだろうな。」
「・・・」
『「G」の死体処理専門の会社を総動員する、それしか無いだろう。ただ、政府が回収して研究に使う可能性はあるが・・・』
『・・・こちらです。』
『隼薙殿に弦義殿、ここにいたか。』
と、新メカゴジラ2号機の首の陰からハイダと、彼女の「思念」で2人の場所を割り出したガラテアが現れた。
ちなみに験司は事態の後処理の為に防衛省へ、千早はオルガに敗北した黄を回収しに行き、既に不在である。
「あぁ、あんたらか。」
『ガラテア殿、ハイダ殿。まずはこうして無事に合流出来た事と、共に戦い抜いた事への感謝を。』
『はい。貴方達も無事で良かったです。』
「しっかし、俺はまだまだ駄目だな・・・これじゃあ、瀬上には全然敵わねぇ。あいつはガラテアさんと2人だけで、このデカブツを倒したんだぞ・・・!」
「エリクシア、バルゴン、そしてキャシャーンにオルガ・・・いくら研鑽と経験を積もうとも、自分はまだまだ未熟なのだと思い知らされるな。」
『それでも、生き残った事もまた大きな収穫の一つ。私はそう思います。』
『他の人々を「組織」から守れた事こそが、この戦いで負けなかった意義の一つなのだろう。』
『そう、「負けた訳」では無いのだ。この戦いは・・・勝利とは言えないかもしれないが、元紀殿が言った通り敗北しなかった、生き残った事を誇れば良い。だからあまり気を落とすな、隼薙。』
「・・・だな。すまねぇ、アーク。俺は穂野香にこの戦いの全部を伝えて、必ず仲直りする。」
『そうだ。どうか穂野香殿にも語り継いでくれ、隼薙殿。』
「俺も早く、不安の中で待つ華の元に戻らなければ・・・初之。四神の巫師として、そして防人(さきもり)として、俺達は必ず更に強くなるぞ。」
「当たり前だ、弦義。もっともっと強くなって、2000年後のリターンマッチで絶対リベンジしてやる・・・!覚えてやがれよ!」
『私は、これからも爾落人として誰かを守って行きます。この「思念」は、その為にもたらされたと信じて・・・』
『・・・ならば私は、「G」動力炉と共に凱吾殿が旅立ち、必ずや銀河殿が帰ってくる2000年後までMOGERAを・・・この地を守って行くと誓おう。』
各々が誓いと決意を課して沼津を去って行き、蛾雷夜は元紀が引き取る事となり、代表と中枢勢力を失った「組織」は急激な失墜を強いられ、表舞台から「一旦」姿を消したのだった。