‐Grasper‐ 捕らえしモノ達
2027年・2月。
ここは徳島県・三好市、旧山城町。
大渓谷「大歩危(おおぼけ)・小歩危(こぼけ)」が有名な景勝地である「日本三大秘境のまち」にして、児啼爺(こなきじじい)を始めとした様々な妖怪伝説が残る事から、世界妖怪協会から「後世に残すべき怪遺産」に認定されている、正しく「妖怪の里」であるこの町に妖怪の仕業とは全く関係の無い、世界中から注目が集まる一つの情報が入った。
2027年 2月23日 0時
徳島県・三好市の「待紋博物館」にある「麒麟送子の剣」を、頂きに参ります。
「G」ハンター
そう、世界中の「G」に関する品物を盗み出す正体不明の泥棒「「G」ハンター」による予告状だ。
殺人は一切行わずに如何なる防衛網も華麗に潜り抜け、高確率でターゲットを盗む事から固定のファンすら存在する「G」ハンターが来る・・・その一報を警察だけで無く、日本中の「G」ハンターファンも聞き付けた結果、犯行前日の2月22日は翌日が天皇誕生日なのもあって、町中の宿泊施設が予約で埋まり、車中泊を覚悟でやって来る者達まで現れる始末であり、例年の約十倍にも近しい人が押し寄せた町はさながら「ありがた迷惑」な状況となっていた。
そして、「G」ハンターの襲撃を待つ覆面警察官達がたむろする、ターゲットとなったいかなる怪異を祓うとの伝承のある霊験あらたかな長刀「麒麟送子(きりんそうし)の剣」と、弥生時代に海外から持ち込まれたらしい「古代バビロニアの青銅大魔人像」が主な人気の展示品である、体育館程の面積の小規模な博物館「待紋(だいもん)博物館」を、ある兄妹も訪れていた。
「「G」ハンター、絶対捕まえるわよ!お兄ちゃん!」
『勿論です、穂野香様。』
「お、おう・・・」
元「白虎」の巫子にして「火炎」の能力者・初之穂野香。
もの言う風車型人口「G」・アーク。
そして、「疾風」の爾落人・初之隼薙。
かつて四神関連の騒動に関わり、「風使い一行」として四国中の人々の話題を浚った事もある、初之兄妹だ。
今回彼らは「G」ハンターが狙う「麒麟送子の剣」の見学・・・ではなく、穂野香たっての希望で「G」ハンターを捕まえる為に来たのだった。
「もう、お兄ちゃんったらまだやる気じゃないの!?こそこそお宝を盗んで喜んでる、『こそ泥』の「G」ハンターなんか前々から許せない、って言ってたじゃない!」
「いや、そいつのニュースが流れる度にプリプリしてたから知ってるけどよ、こそ泥の逮捕なんて俺らがやる事か?」
『隼薙の分際で、穂野香様に逆らう気か?四神大戦以降は持て余しがちなお前の「G」を、また人助けに生かせる機会なのだぞ?』
「じゃあお前は俺にくっついてる風車の分際で、俺に逆らう気か!つうか、別に持て余してていいじゃねぇか!あんなデカい戦いが終わって、平和にやれてる証拠だろ!」
『風車の分際、だと?「RuRi」の従業員に収まってからすっかり腑抜けたお前に、今も機能のアップデートを欠かしていない私と、同じ従業員でも平和の為に日々精進している穂野香様に、意見出来ると思っているのか?』
「だから、別に平和なんだからいいだろって・・・」
「もう、お兄ちゃんもアークも人前で喧嘩しないのっ!これ以上喧嘩するなら、全部燃やしちゃうわよ・・・!」
相変わらず、パートナー同士にも関わず場所を選ばずに激しい舌戦を繰り広げる隼薙とアークに見かねた穂野香は、両手を即座に体温以上の高熱を放つ、車で言う所のアイドリングモードの状態にし、そのまま2人に突き付ける。
今の自分を見せ付ければ、2人が必ず喧嘩を止めると分かっているからだ。
「ま、待て穂野香!?わかった、わかったからその爆熱ゴッドフィンガーを仕舞え!今のお前の方が色々物騒だぞ!」
『ここで「火炎」を使えば、スプリンクラー等が作動して「G」ハンター逮捕どころでは無くなってしまいます!どうか冷静になって下さい、穂野香様!』
「じゃあ・・・何か言う事は?」
「『・・・申し訳ありませんでした・・・』」
「・・・なら、よしっ!」
案の定の反応と、反省の意を示した隼薙とアークを見て、穂野香は両手を常温に戻すと悪戯っぽくウィンクをする。
周囲の客と覆面警察官は唖然とした様子で見ていたが、これが四神大戦を経て、ここ数年ろくに「疾風」の「G」を使っていない隼薙と、更に強まった「火炎」の「G」の使い方を日々試行錯誤している穂野香・・・今の初之兄妹にとっての「喧嘩両成敗」、いつもの光景であった。
「・・・さぁて、待ってなさい「G」ハンター!私達のいる四国に来たのが運の尽きね!こそ泥家業なんて、今日が最後!私達が絶対、あんたをお縄に付かせてやるんだから!」
少しの微熱と煙が残る両手を固く握り締め、「G」ハンター逮捕を宣言する穂野香と・・・
『・・・今は、穂野香様の言う通りにこそ泥退治をした方が良いと言う啓示だ。寺生まれの者として、徳を詰んでおくのも悪くは無いと私は思うぞ。例えるなら、大谷翔平のようにな。』
「『啓示』だの徳を詰めだの、一応AIが吐く台詞か?しかもその名前出されたら、徳を詰まない訳にはいかねぇって・・・」
そんな穂野香を恐々としながら見守る、隼薙とアーク。
この様相もまた、今の初之兄妹にとっては日常茶飯事である。
「あの~、貴方って『風使い』の初之隼薙さん、ですよね?右手にいるのは『もの言う風車』のアークで、貴女は隼薙さんの妹で『白虎の巫子』の、初之穂野香さん!」
「えっ?」
「そうだけど・・・私の事も知ってる?」
『そなた、妙に私達に詳しいな?』
「あっ、あたし今日「G」ハンターがここに来るって聞いて来たんですけど、まさか「G」界隈で超有名人の初之兄妹と先に出会えるなんて、もうワンダフル!って感じ♪」
「おっ、分かってんじゃねぇかあんた!なぁ、穂野香!アーク!」
『逆上(のぼ)せ上がるな、隼薙。』
ーー・・・多分年下だけど、いかにも「オトナのお姉さん」って感じ。
手足が細長くってスタイル抜群なのに、金髪混じりの長い茶髪がギャルっぽさも出してて・・・
う~ん、悔しいくらい私の理想の体型っ!
「・・・も~、穂野香さんったらそんなにジロジロ見られると、あたし困っちゃう♪でも、そう言う穂野香さんも元気印の中に品を感じるのが、流石巫子!って言うか何より脚、超キレ~イ!生穂野香さん、尊きです!」
「あ、ありがと!何だか照れちゃうな~♪」
「やっぱ、あんた超分かってんなぁ!なんせ、穂野香は世界一可愛いからな!」
『・・・穂野香様への認識については、確かに分かっていると言わざるを得ないな。』
「わぁ~、隼薙さんって噂以上の妹好きで、アークってほんとにペラペラ喋るんだ!コンドウさんのとこで書いてた通り!生隼薙さんに生アーク、超アガる~☆」
『んっ?コンドウ・・・?』
「貴女、コンドウさんを知ってるの?」
「モチロン!「G」が好きな人なら一度は『GALLERIA』、行きますよね?あたし、色々あって「G」好きなんですけど・・・」
その後、初之兄妹は夜になるまでこの女性と話し込む事になるのだった。