‐Grasper‐ 捕らえしモノ達





「・・・へぇ、お前ってただのシスコンじゃないんだな?」




と、ここで沈黙を保っていた瀬上が緊張感の無い茶々を加える。
ダイモンと言う危機が去った事により、すっかり正常運転の瀬上節だ。




「おい・・・電磁バカってのは、空気を読めねぇのか?風神様の俺が、教えてやろうか・・・?」
「『電磁バカ』呼びだけはやめろ。何かむず痒くなるんだよ。」
「もう、いちいち怒っちゃ駄目だよお兄ちゃん。瀬上さんは何だかんだ言って、お兄ちゃんを認めてくれてるんだから。」
「あのな、穂野香。お前がそうやってあいつを庇うのもいけねぇんだぞ?」
『瀬上殿、隼薙はただのシスコンでは無い・・・超が付くシスコンだ。』
「んで、お前はそうやって俺をコケにしねぇとオチが付けられねぇのか!アーク!」
「お前ら、ほんとトリオ漫才みたいだな?まぁ、その仲の良さが強さに繋がってるのと、妹の無茶をキチンと叱れるのはいい兄貴だって事、それと妹を無茶させた原因の一つが俺なのも認める・・・悪かったな。」
「いえ、そこは気にしないで下さい。それより私達の絆の力を認めてくれて、ありがとうございます!」
『少し許し難い所はあるが・・・穂野香様への信頼の証、としておく。しかし、我らの個性や関係性を一時間も経たぬ内に把握するとは、これが約二千年の人生経験の成せる技か。』
「お、俺はお前なんかに褒められようが謝られようが、嬉しくねぇんだよ!いいから今度こそ決着付けようじゃねぇか!」
「血気盛んな事で。ついさっきまでのいいお兄ちゃんっぷりはどうした?ちょっと新技使えるようになったり、バケモノ退治したからって調子に乗んなよ?」
「調子に乗ってんのは、てめぇだろうがぁ!俺をアゲてんのかサゲてんのか、はっきりしやがれぇ!」




隼薙は全身に風を纏い、怒りの勢いのまま瀬上へ突撃する。
だが、瀬上は自分と目と鼻の先まで隼薙を引き付けると、必要最小限の横移動で隼薙を回避し・・・




「ちっ・・・!」
「はっきりしてんのは、今のお前じゃ俺には絶対勝てないって事だな?せめてさっきの超加速と嵐を使いこなせるようにする事と、周囲に意識を配る事を忘れないようにするんだな?」
「うるせえんだ・・・あっ!」




プラスとマイナスの磁力を使って、隼薙の左手から緋色真珠を引き寄せ、奪い取った。




「おいこら!それ返せ!それは四神関係者の俺達が持っとくんだ!」
「んな事したら、また妹諸共狙われんぞ?それにこれは間違い無く危険物だ、俺が壊す!」
「待って下さい!瀬上さん!緋色真珠は壊さないで下さい!」
「いや、お前もこいつがどれだけ危険な物なのかは、その身を持って分かってんだろ!こんなの置いといたら・・・」
「だからこそ、です!さっき私達を狙っていたアネモスって人、貴方がどうにか出来ないくらいの『何か』の一員なんですよね?そんな『何か』がいるとしたら、いつか必ず大きな戦いを起こして、必ずアンバーが・・・四神が再び目覚める日が来ます!その時の為に、誰にも取られない秘密の場所とかに隠しておいて下さい!お願いします!
・・・それに、『怪盗』なら隠すのも得意、ですよね?」




最後の緋色真珠を守る為、深々と頭を下げながらも最後に隠蔽を薦める時だけ少し頭を上げ、上目遣いで悪戯っぽくウィンクをする穂野香。
たかだか一時間程度で、彼女が自分の思考回路をある程度把握していると察した瀬上は、両手をへの字に曲げて降参のポーズを取った。




「・・・はぁ、分かったよ。ミニスカ熱血ファイヤーガールの癖に、強かな一面も持ってやがるってか。」
「へっ!やっと穂野香の魅力に気付きやがったか!穂野香は最強ミニスカ美脚レディなんだよ!ただし、あと一秒穂野香の足を見やがったら今すぐぶっ飛ばす!」
『支離滅裂だぞ、隼薙。』
「もう、お兄ちゃんったら話の腰を折らないで!それに足見られたくらいで減るもんじゃないし、見られるとダイエットにもなる、っていつも言ってるじゃない!」
「お前もそこそこ話の腰折ってんぞ、妹?話を戻すが、とりあえずこの真珠の処遇は今は『保留』、って事にしといてやる。だが、俺に預けたって事は俺がやっぱりこいつは置いとけない、と判断して破壊してもとやかく言わない、って事でいいな?」
「はい。私は、瀬上さんを信じます!」
「それに壊したら俺が、お前を地獄送りにしてやるよ!」
「やれるもんならな?いいからさっきの宿題はちゃんとやっとけよ、シスコン風神!」
「黙れ、このスカシ雷神野郎!いいか!十年でも百年でも二万年掛けてでも、お前を絶対降参させてやるからなぁ!」
「それは断る。二万年も待ってられないんでな?さて、そろそろ騒ぎを聞き付けた烏合の衆が来るし・・・先にずらかるとするか。じゃあな!」
「あ、待ちやがれこらぁ!!」
「さよなら~!!瀬上さ~んっ!!」
『瀬上殿、さらば!』




瀬上は全身に光学迷彩を施し、そのまま茂みの中へと駆けて行った。
最後まで瀬上のペースに乗せられ、苛立っていた隼薙とは反対に穂野香はにこやかに両手を振って、アークは冷静に瀬上を見送る。




「ったく、逃げるな卑怯者が!次会った時は絶対吠え面掻かせてやるから、覚えてやがれ!」
「まぁまぁ、落ち着いてお兄ちゃん。私に免じて・・・ねっ?」
「そ、そう言われてもさぁ・・・」
『だが、瀬上殿の言っていた事は事実。お前がまだ、あの超加速と嵐を使いこなせていないのは間違い無いからな。何故なら、魔人に対して一度も使っていないのが・・・』
「だぁぁぁっ!お前までうるさいんだよ!あれは凄い集中力が必要で、あの時は・・・!」
「図星、なんでしょ?だったら早くサクッと使えるようにして、瀬上さんをギャフンと言わせましょ!」
「・・・おう!ここ数年『風使い』としてダラダラしてた分、俺はもっと「疾風」を使いこなせるようにして、瀬上もぶっ飛ばせるくらい強くなってやるぜ!」
『良い心意気だ。今回の一件の収穫と言えるだろう。』
「うんうん!瀬上さんのお陰でやる気になったね、お兄ちゃん!じゃあ、明日から私と一緒に朝のラジオ体操をしてからの、ラピス直伝のガンドコ式トレーニングよっ!」
「げっ!お前、いつの間にあんなえげついの教わってんだ!?」
『この数年、身も心も弛んでいたお前にはあのトレーニングは丁度良い。励む事だ、隼薙。』
「お前、俺にくっついてるだけだからって他人事みたいに言いやがって!あんなのをやる俺の気にも・・・」
「つべこべ言わないの!強くなる、って決めたんでしょ!私も一緒に、も~っと頑張るから!さぁ、打倒瀬上さん目指して・・・やるぞ~っ!!」
「お、お~っ!」
『・・・瀬上殿とは、また近い内に会う気がするな。』










ーー・・・貴方達が無事で、わたくしは心から良かったです。
どうか、これからも末永く最強の兄妹でいて下さいね・・・隼薙。穂野香。









「本部、応答願います!申し訳ありません、「G」ハンターを完全に逃しました・・・!今より、現場に戻ります!」




その頃、町を出た瀬上は光学迷彩を解き、いつものように無線機を使って「G」ハンター捜査本部に一から十まで嘘の報告をした後、今回の戦利品となった緋色真珠をまじまじと見つめる。




「・・・ふう、スランプ解消の軽い仕事のつもりが、歯応えあり過ぎな一件になったな・・・まぁ、あいつらのお陰でスランプ解消は果たせたし、ターゲットより重要なブツを手に入れたから、良しとするか。
とりあえず当面はこいつの一旦の隠し場所と、魔人が言ってた『青い石』について調べないとな。今際の際で求めたくらいだ、この緋色真珠に並ぶ位の力を持った「G」と見て間違い無い筈・・・」


ーー・・・五井さん。
こりゃまだ、俺は「G」ハンターを止める訳にはいかないみたいだ。
けど、もしあんたが生きてる間に目的を果たして、足を洗えたら・・・真っ先に、あんたの所に行く。
だから、もう少し「G」ハンターを続けさせてくれ・・・




瀬上は満天の星々を見上げ、今も平和の為に身を粉にして邁進している五郎の事を思いながら、「G」ハンターとしての矜持と決意を、更に高めるのだった。
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