‐Grasper‐ 捕らえしモノ達






ーー・・・イノウ、ユルセン・・・!
イノウ、ケス!




兄妹が無事を確認し合う間も無く、立ち上がったダイモンは憤怒の形相で即座に魔笏を振り翳(かざ)し、分身を生み出そうとする。




「おいおい、だから俺はアウトオブ眼中かっての!」




だが、そんなダイモンの後方・・・博物館の方向に移動していた瀬上が、いつの間にか拾っていた「麒麟送子の剣」に多量の電磁力を注ぎ込み、電磁浮遊をさせている所であった。




「ハズレかと思ったが、よく考えたらこいつはプラズマ・・・電磁力を貯められるんだよな!だったら今、存分に活用させて・・・貰うぜ!」




「電磁」の光を瞬きながら浮遊する剣の柄を、瀬上が勢い良く蹴り上げたかと思うと、剣はパチンコ玉の代わりにレールガンの弾丸と化してマッハでダイモンへと飛んで行き、翳された魔笏に直撃。
魔笏は剣の刀身と共に派手に爆発し、周囲に剣から溢れ出た電流が迸った。




ーーナッ・・・!?



「今だ、受け取れシスコン!」




得物を失ったダイモンが狼狽えている隙に、瀬上は緋色真珠を隼薙へ投げ、隼薙は困惑しながらも緋色真珠を左手でキャッチする。




「おっ、と・・・って、これどう言う事だ!」
「それを使えば、四大元素・・・お前の風も強くなるんだろ?トドメは譲ってやる、だから一発で決めてやれ!隼薙!」
「・・・お前に言われなくってもな、これで決めるに決まってんだろうが!!」
『強化された風は私が制御する!全力で行け!隼薙!』
「よっしゃあ!任せたぜ、アーク!」
『更に、瀬上殿の余電流を借りて・・・!』




隼薙の右手には、瀬上が残した雷と溶け合って雷鳴轟く嵐と化した猛風と、彼に嵐を掌握させる為に風車を壊れんばかりに高速回転させるアークが。
隼薙の左手には、紅い閃光を放ちながら隼薙の「風」を倍々ゲームで強化して行く、緋色真珠が。
その両手を固く握り締め、隼薙は右手の嵐を振り上げ・・・




「いっけえぇぇぇぇぇっ!!
お兄ちゃあぁぁぁぁぁぁんっ!!」




何よりも自分の背中を押してくれる、世界で一番の妹の激励を力に変えて・・・




「これが、俺達の力・・・『風雷神拳』だぁ!!
くたばりやがれええええええええええええええええええッ!!」




嵐を拳に乗せた、隼薙の最大最強の右ストレート「風雷神拳」が、条件反射で同じく右ストレートを決めようとするダイモンよりも迅く、その顔面を穿ち・・・貫いた。




ーー・・・イノウ、ユルセン・・・!
「アオイイシ」サエ・・・アレバ・・・!!




最後の最後まで「G」への憎しみを吐き出し、禁断の「殺ス」力たるブルーストーンを求めながら、ダイモンは嵐の中で粉微塵となり、跡形も無く消え去った。




「やっ、た~っ!!」
「おおっ、思ってた以上の荒れっぷりだなぁ?」


ーーそういや、あいつ最後に「青い石」って言ってたな・・・
何だ?「青い石」って?


『想定の約3倍もの、エネルギーゲイン・・・やはり、「雷」は四大元素を増大させる作用があるのかもしれない。だが、確かな事はこの勝利は我々の力と心を合わせての勝利である、と言う事だ。瀬上殿、穂野香様。尽力誠に感謝致します!』
「ううん、私は無理してサポートしただけ・・・でも、瀬上さんは終始かっこ良く活躍してたし、お兄ちゃんの風だけじゃなくて、瀬上さんの電気までガッチャンコしちゃうアーク、やっぱりナイスね♪」
「新入りを支えてやるのが、ベテランってもんだからな?まぁでも、兄妹揃ってやるじゃねぇか!正直、お前で倒しきれるか半々って所だったから身構えてはいたんだが、まさかそのまま倒しちまうなんてびっくりしたぜ、風神?」
「何より凄いのは、お兄ちゃんよ!アークと瀬上さんの協力もあったけど、あいつは間違い無くお兄ちゃんの風が倒した!お兄ちゃんがこの町を、世界を守ったのよ!」
「・・・そうだな。気に食わねぇが瀬上がいなかったら絶対負けてたし、アークのサポートはほんと心強いし、お前が頑張ってあいつのバックルを壊したから、俺達は勝てた。お前も『あいつ』の風で守られて、無事だった・・・」
「お兄ちゃん・・・?」




穂野香・アーク・瀬上が勝利の余韻を噛み締める中、4人の中で最も激情的だった筈の隼薙だけが、異様なまでに冷静であった。
穂野香に駆け寄る事さえせず、俯いてダイモンがつい先程までいた抉れた地面を、隼薙は見つめ続ける。




『隼薙?』
「どうした?泣いてんのか?俺は見ないフリしといてやるぞ?」
「どうしたの、お兄・・・」
「この・・・大馬鹿妹がよ!!」




隼薙の身を案じた穂野香が、彼の顔を覗き込もうとした・・・その瞬間。
穂野香の右頬に、音が出る程に強い隼薙からの平手打ちが直撃した。




『なっ・・・!?』
「えっ?」
「・・・い、たああいっ!なにすんのよお兄ちゃん!何で私ぶたれないと・・・」
「痛いか、穂野香・・・でもな、お前があいつに焼かれた時の俺の心の痛みは、これの何十倍・・・いや、何百倍だったんだよ!」
「お兄ちゃ・・・」
「何で、俺の言う事を聞いてくれなかったんだ!何で、死にに行くような事をしたんだ!『あいつ』が助けてくれたからどうにかなったけどな、そうじゃなきゃお前は今頃死んでたんだぞ!」
「で、でもお兄ちゃんもアークも瀬上さんも苦戦してて、私はそれをただ見ているだけなんて嫌だったの!私が行かないと、お兄ちゃんとアークと瀬上さんがやられてたかもしれないのに!目の前で大好きなお兄ちゃんが死ぬなんて、耐えられ・・・」
「だから、それは俺も同じに決まってんだろうが!!お前が死んでまであいつを倒して、誰が喜ぶんだ!!」
「っ・・・!」
「俺はそんなの、絶対嫌だ!アークも絶対嫌だ!瀬上だって絶対喜びやしねぇ・・・それなら俺とアークが神風を吹かせてでも、俺が土下座して頼んででも瀬上が、あいつを倒す!だってあいつは「G」ハンターで、俺はお前のお兄ちゃんなんだよ!」
「・・・」
「お前がそう言う無茶をしてでも誰かを守る妹なのは知ってるし、誰かの為に動けるお前がほんと大好きだし、俺の次にお前を知ってて力貸した『あいつ』にも、勿論お前にも感謝してる・・・だから、頼むからこうやって直接お前の顔を見てありがとう、って言わせてくれよ・・・死んだからありがとうが言えませんでした、なんて絶対止めてくれよ・・・!俺はお前を、二度と失いたくねぇんだよ・・・!!」




穂野香をぶつ前の冷静さから一転し、両手で彼女の両肩を掴みながら心の中の本音を穂野香へぶつける隼薙の両目が、少しずつ涙で濡れて行き・・・兄の涙を見た妹の瞳もまた、溢れる多様な感情から来る涙でみるみると満ちて行く。




「・・・ごめん、なさい・・・!ごめんなさい・・・!
瀬上さんと、アークと・・・アンバーが背中を押してくれたから・・・私、お兄ちゃんが一番嫌なのが私が傷付く事なの、忘れてた・・・!お兄ちゃんは私を世界一愛してくれて、世界一優しくしてくれる・・・私だって世界一大好きな、お兄ちゃんなのにっ・・・!!」
「・・・俺もごめんな。また見せてくれ、って思ってた筈の可愛いお前の顔をぶって、お前の最高に良い所の筈の心の強さを、否定しちまって・・・だからさ、これからは無茶する前にせめて俺とアークに言ってくれよ。俺もこいつも付き合うし、兄妹の絆は不滅の真理・・・最強なんだからよ!
・・・それと、ありがとな。穂野香。」
「・・・お兄ちゃぁんっ!!」




先に涙を落とし、目の前の兄妹に抱き付いたのは穂野香の方だった。
止まらない感情の心の雫で兄の服を濡らし、嗚咽を出しながら子供のように体に縋る妹を、兄は黙って抱き寄せる。




「私も、ありがとう・・・っ!私も、大好きっ・・・大好きだよ!お兄ちゃん・・・!!」
「・・・ほんと、お前はいつまで経っても昔の、世界一可愛いお前のままだな・・・」






『・・・私が人間であったなら、共に涙を流していたのだろうな・・・』




2人に聞こえるか聞こえない程に小さく、少し震えた声でアークは一言、羨望と歓喜の言葉を呟くのだった。
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