龍神《喰ウ者》

7


 瀬上達は床に身体を這い蹲らせ、忌々しげにレリックを憑依させた教祖を睨み付けていた。
 教祖は10メートル近く離れた壇場に居る。電撃の届かない距離でもないが、真っ当な攻撃が通用するとは全く思えない。それ以上に身体を動かす力が一切出てこない。
 仮に体を動かせたところで、レリックを倒すことも菜奈美を救い出す手立ても思い付かない。

『勘違いしてはいけません。アレはレリックそのものではありません』

 突然、クーガーの声が頭に届いた。

『そのまま話を聞いて下さい。相手に気づかれたらこの声も喰われてしまいます』

 瀬上は何も返さず、沈黙を持って肯定する。相手がクーガーなら、聴こえていることはちゃんと視えているはずだ。そして、この声は世莉が空間転移の力で直接瀬上に送っているものだ。ならば、このまま聴き続けることが最善策となる。
 そして、クーガーの言った言葉の意味も瀬上なりに思うところがあった。

『そうです。今コウさんが考えたように、アレはレリックの意識と喰ウ者の力を憑依させた器にしか過ぎません。本体は今も佛のお二人が戦っているギドラにあります。そして、教祖の本来の力は降神であり、信仰対象の存在の声を聴き、その存在の意思との合意があれば、その意思疎通と自らに降すこと、そして力を自らの手で使うことができる非常に制限の多い限定的な憑依系能力になります。しかし、喰ウ力をあのように使いこなすのは困難と言えます。教祖は神器を持っています。神器とは「教団」が作り出した喰ウ力専用の中継増幅装置です』

 瀬上は「教団」のケムール人が使っていた喰ウ力を思い出す。その神器なるものがあると喰ウ力を使うことができるということらしい。

『それは例え降神の力を持つ教祖であっても変わりません。神器は基本的に直接接触などをして操作をする必要があります。そして、教祖の力は非接触で対象の操作を可能とするものではありません』

 つまり、神器を教祖の手から取り上げることで少なくともこの圧倒的な脅威といえる喰ウ力はなくなる。更に、朗報がクーガーからもたらされる。

『神器は教祖の胸元にペンダントの様に下げられています。神器自体は10センチ程度の高さの七角柱で、エメラルドに似た透明な緑色の結晶体です。……そして、私がそれを視ることができています』

 それは神器そのものに喰ウ力が備わっているのではなく、所有者が接触して発動しないとならず、その効果も万能ではなく、指定が必要であるということだ。
 それならば、勝機はある。神器を盗むのだ。己を奮起させる。自分は誰だと。かつて地球で名を馳せた大泥棒。「G」ハンターはまだ引退していない。
 瀬上の目に闘志が宿った。
 そして、背後と横からも同じ志をもつ仲間の気配が伝わる。
 視線を向けると、ガラテアと視線が交錯した。振り向く訳にはいかないので、確認はできないが、後ろの世莉も同じだろう。
 どうやら、瀬上以外の二人もクーガーの声を聴いていたらしい。

【まずはお前から。……そして、他の者達は桧垣菜奈美の目の前で嬲り殺しにしよう】
「ぐっ!」

 レリックの声の直後、世莉が呻いた。レリックは、復讐を果たすこと、そしてその上で障害となる空間の世莉を排除すること、二つの目的の為に真っ先に彼女を喰ウことにしたのだ。
 世莉は教祖から床をぬるぬるとうねりながら伸びた影に包まれる。そして、その影の中に身体が沈んでいく。

【クハハハッ! 意識を持ちながら肉体を失っていく苦しみを味わうが良い! この恐怖、苦痛、絶望をっ!】
「ううっ! ……頼んだぞっ!」

 涙をダラダラと流して苦痛に喘ぎながら、世莉は渾身の力を瀬上に使った。
 瀬上の体が消える。

【雑魚に希望を託すか。ならば、その希望を打ち砕き、貴様の手向けとしてやろう】
「どう……かな? アイツは……しぶとい……ぞっ!」

 その直後、礼拝堂の床と壁がガタガタと揺れ始め、パイプや床が剥がれ、教祖へ向かって飛んでいく。
 しかし、教祖の体に触れる前にそれらは彼の体から伸びる影に取り込まれ、消滅する。

【確か電磁を使う男だったか。間接的な力に対してならば喰ウ事がでないと思ったか? 愚かな! 私は結果を喰ウ事もできる!】
「私もいるぞっ!」

 ガラテアが体を震えさせながら立ち上がり、周囲の床を粉砕し、手の中に火球を作り出すとアンダースローで教祖に向けて投げ放った。

【笑止!】

 教祖の前に黒い影が現れ、火球は一瞬にして消滅し、そのまま影は龍の頭の姿になり彼女を喰おうと襲う。ギリギリのところで急所を避けたものの影はガラテアの右腕を肩まで抉り取り、喰ウ。
 噴水の様に鮮血を飛ばし、そのままガラテアは意識を失って倒れる。

「ガラテアっ!」

 既に体の左半分以上を床の影に取り込まれた世莉は叫んだ。

【如何に「G」といえ、そこまでの負傷となれば死ぬな。まぁいい。肉体の死ならば、その事実を喰えば良いだけのこと】

 レリックは再び世莉を影にじっくりと取り込む。
 世莉の悲鳴が広い礼拝堂に響く。

「やめろっ!」

 教祖の後ろから瀬上の声が聞こえる。
 刹那、その背後にいる気配を喰ウ。

【ッ! ブラフとは……】

 喰った相手は瀬上でなく、瀬上の人型をした床板とパイプの塊であった。

「こっちだよ!」

 レリックが教祖の頭を上げさせる。教祖の体は操り人形の様にダラリと首を傾けてガラテアの側に立つ瀬上を見た。
 瀬上は不敵な笑みを浮かべてそこに立っていた。

「悪いが、ここまでだ。お前の大切な喰ウ力は盗ませて貰ったぜ! さっさと本体に戻りなっ!」

 そう言う瀬上の手には七角柱の緑色の水晶体があった。

【いつの間に!】
「「G」ハンターを舐めるな!」

 レリックは教祖の胸元のマントを剥ぎ、神器を確認する。そこには確かに神器が首から下げられていた。
 そして、その瞬間にレリックは理解した。これこそが瀬上のブラフだと。

「遅いっ!」
【愚かなっ!】

 瀬上は手刀を振り、そこから光刃を放つ。
 レリックはそれを喰おうとする。
 しかし、その力は発動せず、光刃は教祖の首にかけられた神器を繋ぐ紐を斬った。
 床を転がる神器の表面に鉄のコーティングがされていた。

【これは……。あの時の!】
「そうさ。ガラテアの繋いだバトンだよ」

 ガラテアが渾身の力で行ったのは火球を出したことではなかった。床を周囲に漂う粒子にまで粉砕し、撒き散らすことだった。
 あとはかつて瀬上が殺ス力を宿した「G」ストーンを盗んだ時と同じだ。粒子を神器の周りに集めてコーティングし、教祖から接触ができないようにしたのだ。
 電磁力で神器を引き寄せて改めて本当に手中へ納めた瀬上は世莉に視線を向けて神器に念じる。世莉の体が影から解放され、床に全身が戻った。
 更にガラテアの体に触れて念じると消滅した右腕が復元された。

「チートだな。事実すら喰ウ力ってのは」

 完全に形勢は逆転した。





 


 教祖に憑依したレリックは苛立った。
 教祖の体に喰ウ力を降神させることもできない訳ではないが、それ自体は間接的な行為となり、神器を持つ瀬上に相殺される可能性が高い上にその力の性質そのものはかつての殺ス者と似たものである為、教祖自体が喰われて自滅する可能性も高い。
 神器を奪われた時点で意識だけを憑依しているのとほとんど変わらない状況となってしまったのだ。
 しかし、本体は優位である事実が覆ったわけではない。復讐に際しての余興は諦めるしかないが、それでも佛達の時間稼ぎを妨害するという第一次的な目的は果たせたといえる。

【ここは退いてやろう。だが、もう間に合いはしない。そこで、お前達の大切な地球、そして宇宙の最期を見届けろ】

 そして、レリックの意識が教祖から離れる。
 残された教祖は静かに笑う。既に彼の教祖としての役割は十分に果たされている。神は本来の場所へ還り、現世に残された自分は最後の試練を与えられた。ここに残された時間、既に神の使者として、生への固執はない。彼は一人の信仰者としてそこにおり、既に果たすべき献身を終え、目の前にいる敵と対峙するだけで良いのだ。それは代行者であり、洗礼を終えた戦士の聖戦である。

「神は御身に還られました。ここからは私が直接お相手致しましょう。皆様を共に救済の地へとお連れ致しますっ!」
「へんっ! ただの負け犬の遠吠えに聞こえるぜ」

 瀬上は余裕の笑みを見せて言う。
 しかし、不利な筈の教祖は平然としている。

「神器を奪い、勝った気になっているようですが、貴方はこの短時間に二回も事実を喰い、上書きを行った。神を宿さずにその様な神事を二度も行って、何も代償がないとお思いですか?」
「何?」

 言葉の意味を瀬上はすぐに察した。身体ではない。精神が反動を受けていた。胸を掻きむしりたくなる様な気持ち悪さが瀬上を襲う。

「うっ」
「事実を喰ったのです。喰われた事実そのものは高次元の龍神様の御許へ捧げられます。が、それを実行した貴方の精神もその事実を喰っているのですよ。故にあまりに大きな事実の上書きであったり、連続して行使すればその精神は取り込みすぎた反動で蝕まれます」

 瀬上は思わず膝をついて、その場で嘔吐した。胃の中の物をどれだけ吐き出しても胸中を蝕む苦しさは変わらない。
 そして、教祖は体の周りに青白い光を宿らせる。周囲の空気が凍り出す。

「確かに龍神様程の力を行使することは私に叶いませんが、別に降神はその活用に制約が多いというだけで、龍神様専用で用いる訳ではありません。私の教祖という立場はその点、非常にこの力と相性が良いのです。我が「教団」には柱神という神格を与えられた御使がいます。私が定め、私が決めた者達ですよ。この意味、お分かりですね? 柱神達は「教団」において、信仰を集める神の一人なのですっ! 勿論、私の許で誓いを立てた敬虔なる使徒です。当然、私の降神で彼らの力は使える。これは氷結の柱の神格を与えられたペギラの力ですっ!」

 瀬上達を凍てつく氷が襲う。
 瀬上は咄嗟に教祖との間に高電圧の壁を作り、凍結を阻む。

「なるほど。電気的な力は貴方の支配下ですか。熱エネルギーの変換はお手の物と。宜しい。なら、酸の柱、ミトラの力を」

 教祖は右手に強酸の液体を球体状に集めて出現させた。そして、その強酸を野球ボールの様に投げつける。
 瀬上は間一髪で回避するが、酸の当たった壁は瞬時に煙を上げて溶解する。

「飛翔の柱、ボスタング!」

 教祖の足元にエイの形をした幻影が現れ、彼を乗せて飛翔する。そして、上空から再び酸の雨を瀬上に向けて放つ。
 瀬上は電撃を放ち、対空防衛をするが、分解された酸はガスとなり、瀬上の喉を傷つける。血の混ざった咳をしながらも頭上の教祖、そしてその先にあるキューブを見上げる。

「ガハッガハッ! 守りきれない」

 しかし、周囲に充満していた毒ガスが消え、呼吸が楽になる。
 気配に気づき、横を見るとガラテアが脂汗を滲ませながら身体を起こしていた。

「コウ殿一人で戦わせはしない」
「チッ。ガスも分解してしまいましたか。しかし、変化の者もまだ満身創痍。何人集まろうと私の試練としては、生温いっ!」

 教祖は両手を広げて高らかに叫んだ。そして、ヘルメットに眼下の二人の姿を映す。そして、その背後に倒れていた世莉に注目した。

「あの者まで目覚めると面倒なことになりますね。よろしい。最も神に近い力を持つ使徒、吸収の柱、バルンガ!」
「「吸収!」」

 教祖の左手から触手が素早く伸び、カメレオンの舌のように世莉に巻きつくと、その身体を引き寄せる。

「うぐっ……!」
「四ノ宮!」

 触手に縛り上げられた世莉は呻き声を上げ、見る見るうちに衰弱する。

「ククク、まだ吸いたりませんね」

 教祖は苦しむ世莉の顔をヘルメットにうつし、悦びの声を上げる。

「この変態めぇ!」

 瀬上が怒りを込めて鉄を固め、それをレールガンにして放つ。
 しかし、それは瞬時に教祖の前で見えない壁に塞がれた。空間の壁、結界だ。既に教祖は空間の力を自らのモノへと吸収していた。
 同時に世莉を縛る触手は更に彼女の体を締め上げる。

「流石は佛の片割れ。神に恨まれるだけのことはありますねっ! 実に甘美! 私の信仰を試す欲望を掻き立てるまさに試練っ! 快感に呑まれてしまいそうですっ!」
「黙れ変態教祖ぉぉぉっ!」

 瀬上が叫ぶ。
 その瞬間、教祖がヘルメット越しに睨んできたことを感じた。

「うるさい!」

 刹那、教祖の眼前に槍状の圧縮空間が現れ、瀬上に放たれた。空間断絶の槍。

「!」

 しかし、瀬上に痛みはなかった。
 代わりに、自身を庇って盾になったガラテアの顔が目の前にあった。

「コウ殿。……地球を、皆を頼んだ」
「お、おいっ!」

 刹那、ガラテアの身体は光の粒子になって消滅し、瀬上を護る様に包んだ。
 その瞬間、瀬上の中で何かが爆ぜた。








「チッ! 仕損じましたか。しかし、変化がいない今、ただの電磁男など試練にもなりません。……消えなさい」

 教祖は眼下の瀬上に向けて、特大の球体にした酸の液体を撃ち落とした。
 瀬上はまだ立ち尽くしたままでいる。
 しかし、液体は彼にかかる瞬間、霧散した。
 今度はガスにもならず、完全に消滅していた。

「ん?」

 教祖は瀬上の違和感に気がついた。
 瀬上の周囲に赤いオーラの様な光が漂っている。それは彼を護る様に近づく全てを分解していた。

「おい、変態教祖。量子って知ってるか? ……原子を作ってるモノのことだ。その量子って、お前は何か知ってるか?」
「ふっ。地球人がキール星人相手に科学の講釈ですか? それは中性子と陽子が荷電子で……! まさか!」

 教祖は気がついた。しかし、もう遅い。
 彼を睨み上げた瀬上は既に爆発していた。その怒りを顕現させたかの如く、彼の髪は真っ赤に染まり、逆立っていた。怒髪天とはこのことであった。そして、それはまさにかつてエジプト神話にガラテアがセクメトとして名を残した人類抹殺時の怒りの描写と同じく、荒ぶる獣のそれであった。
 教祖は咄嗟に背後へと飛ぶ。
 刹那、跳躍した瀬上の拳がボスタングの幻影に触れる。そして、赤い光にその幻影は染まり、消滅した。
 床に着地した瀬上は、3メートル程離れた場所に着地した教祖と対峙する。
 教祖はヘルメットで表情こそ見えないが、息遣いが荒くなり、動揺していることがわかる。

「く、来るな! この娘はまだ私の手中にあるのですよ!」

 既に圧倒的な力を見せられた教祖に先程の余裕はない。この期に及んで世莉を人質にするという悪手をした。むしろ瀬上にとっては好都合だった。ここまでわかりやすい悪党を興じる相手ならば手を汚すことに抵抗はない。
 瀬上の目が怒りを象徴した紅蓮の炎の様に真っ赤に染まる。

「今更そいつを離せなんて優しい言葉をかける気はねぇよ。……三下がぁっ!」

 瀬上は叫ぶと共にその右手を振りかざし、指を鳴らした。それは彼が長年愛用していたレールガンの弾を弾く行為そのものの挙動であった。
 存在しない幻の弾は彼の指先で爆ぜ、赤い光弾となって放たれる。それはまさに電光石火。教祖が認識できたのは赤い一筋の線として残った軌跡だった。
 そして、ドサリとその左側から音がし、視線を向けると世莉の体が床に倒れており、触手と自身の左腕が落ちていた。その時、初めて教祖は己の左腕が上腕部の途中から消滅していることに気づいた。

「う、腕があぁぁぁぁっ!」
「腕くらいで騒ぐんじゃねぇっ!」

 瀬上は怒声と共に一歩前に踏み出した。その足からは石が投じられた水面に広がる波紋の様に赤い閃光の衝撃波が放たれ、床に落ちた彼の触手と腕が粒子となって消滅する。
 更にもう一歩。その歩みは彼の大きさからは考えられない程の衝撃となり、教祖を背後へと吹き飛ばす。吹き飛ばされた教祖の纏っていたローブは消滅しており、黒地に赤い線が入ったキール星人のほとんど全ての者が着用している保護スーツのみになる。

「お、落ち着きなさい。そ、そうだ。救済を、お前達には神の救済があるように………」
「その神と俺達は戦うんだっ! テメェにその救済はねぇよ。俺が一切のカケラも残さず消してやるからなっ!」

 瀬上は飛び上がり、教祖の胸元に向けて着地、その足で踏み潰す。同時に赤い閃光が教祖の体を包む。
 教祖のヘルメットとスーツが消滅し、両手と両足も同時に消滅していた。
 教祖は地球人そっくりな男の顔をしており、その顔は恐怖で歪んでいた。

「所詮、テメェも俺達と大差ない人間の姿じゃねぇか」
「そ、そうだ。だから、どうだ? こ、この宇宙で数少ない、お、同じ姿の種族だ。ど、同族同士、許したまえ」

 最後の最後に言ったのは命乞いであった。
 その身を犠牲にし、最期も自分よりも他の者を心配したガラテアの方がよっぽど聖職者だ。怒りを通り越して、吐き気すら感じた。もうこの男の顔すら見たくない。
 瀬上ははっきりとした殺意を自覚し、同時にその躊躇は一切なく、トドメを刺す。
 ゆっくりとその頭を右手で鷲掴みにすると、その掌から赤い光が教祖の全身を包んでいく。

「嫌だ! 死にたくない! う、うわぁ! ぎゃぁぁぁぁっ!」

 教祖の身体は赤い光に包まれ、その断末魔と共に完全に消滅した。
 そして、瀬上は深く息を吐き出した。それは体の中に溜まった負の感情をすべて吐き出すように深いものであった。
 憑物が落ちるように逆立った髪は降り、紅蓮の色となっていたその頭髪も黒くなるが、やや深い緑色に変色していた。同時に全身を包んでいた赤い光も消える。
 そして、気持ちを落ち着かせた瀬上は床に倒れている世莉の元へと向かう。教祖は倒したが、時間はあまりない。

「四ノ宮、しっかりしろ」
「あ、あぁ。すまない。……まさか、瀬上に助けられる日がくるなんてな」

 世莉は弱々しい声であったが、命の危険は無さそうだ。

「手当てをしてやりたいが、時間がない。頼めるか?」
「ん。任せろ」

 世莉は瀬上から神器を受け取り、それを握る。
 天井のキューブが消滅し、中から菜奈美が落ちてきた。
 それを瀬上は受け止める。菜奈美はスヤスヤと寝息を立てており、ただ眠っているだけだとわかると、彼は一気に安心してその場に座り込んだ。
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