ホーリーライトニング伝説
第一幕
浮遊感と眩い閃光で五感が全身から一瞬、失われたかと思う何とも気持ちが悪い感覚が襲う。最初に戻った感覚は聴覚。耳元に風の音がゴォーゴォーと聞こえた。直後、冷たい風が耳、顔、そして手と露出している肌に触れる。
そして、視力が戻る。眩しい陽射しと白い雲。雲に飛び込んで視界が白くなり、再び青空と緑の大地が見えた時、自身が空高い宙を自由落下していることを理解した。
髪を結っていたが、いつの間にか解けていた。バサバサと舞広がる腰高の長髪は凶器も同然であった。
着慣れた鎧もこの状況では身動きを奪う。
「女神めっ! これは多少の誤差と言わぬぞっ!」
出発前に涼しい顔で「安心安全正確無比」と言い切った女神の顔を浮かべ、彼女は思わず声に出した。
そして、周囲を見回す。地上は森林らしく緑色の木々が広がっている。左右には大小様々な浮島が雲に混ざって浮かんでいる。
両手を広げ、唇を微かに動かす。
異音。口笛や声とは異なる。確かに彼女の口から漏れ出た音であるが、凡そ人の声とは思えない機械的な作動音。
『キューブォォォーン』
定命の只人とは異なる理に介する言語、詠唱が口から漏れ出し、彼女の鎧が青白く光る。光は渦巻き、球体となって全身を包み込んだ。
「変身っ!」
彼女の掛け声と同時に青白い光の中で、彼女の足、腕、肩、腰、胸、額に太陽のエンブレムを宿した兜が現れ、青白い光は白銀の鎧になる。
そして、最後に背中から円状に孔雀の様に羽が広がる。
「お日様に変わって悪を断つ! 我は勇者の鎧を纏いし者!」
空中に浮いた彼女は腰から抜いた剣を掲げてポーズを取って名乗りをあげる。ここまでを含めて、勇者の鎧への変身魔法である。
その鎧は真理の佛が召喚する宇宙戦神に似ていた。かつて地球で「聖地」を守った聖光鎧と同じようにその力が鎧となって彼女の身に纏われていた。
しかし、外見と本質は逆であった。その力は模倣でなく、本物。本物の宇宙戦神の力が顕現していた。
空中を浮遊した彼女はそのまま周囲の浮島を見回し、空を移動した。
まもなく周囲の浮島と比べて大きな浮島の上に着地した。
浮島の上は草木が生え、地面には人工物の石畳が敷かれている。周囲には人工的な柱や壁があるが、いずれも草木に飲まれている。それに対して足元の石畳は一目でわかるのは石畳を誰かが整備している証拠だ。
彼女は全身を包む白銀の鎧をカシャンカシャンと鳴らしながら周囲を見まわし、鎧が光ると宇宙戦神の鎧は消え失せ、元の鎧へと戻っていた。
「!」
気配に気づいた彼女は驚いた表情で振り向き、何も無い空間に伸ばした手から青く光る柄と刃が現れる。
金属の物質として存在するものではなく、魔法の力で剣の形を成した魔法剣。それは魔法が物質を形造る分子構造を擬似的に作り上げ、あたかもそこに存在するかのようにして固定をしている「G」でもそうそう再現できる者がいないようなまさしく魔法の力の成せるものであ……(略)
「………驚きました。全く私の知らない、魔法とは全く異なる感知できない力で動いている。それにも関わらず、まるで血の気の通った生きる人間そのものの外見とは。これが異世界ということか」
魔法剣の切先を向けて構える彼女の視線の先には、大柄で筋骨隆々とした肉体を持つ中年の白人男性が仁王立ちで立っていた。そして、頭に巻いたバンダナとワイシャツ、長ズボンは兎も角。その着ているベストは、荒廃した近未来の悪人を彷彿させる肩パッドがついていた。
一見すると場違いなその外見であるが、対峙する彼女にはその本質を捉えて、彼を警戒していた。
彼は人間ではない。生命ですらもない。
つまり、アンドロイド。機械である。
彼は、敵意のないことを示すように口角を上げて笑顔を浮かべると同時に、両手も上げた。
「Oh! 驚かせてごめんなさいねっ! いきなり空から女の子が落ちてきてんの見えたんで、こりゃ親方ぁーっ! って言わなアカンかなぁって考えて見に来たんやけど。まかさ、こんな凛々しい戦士さんだったと私も驚きでしたよっ! ………あ、申し遅れました。私、アンドロイドのM11です。気軽にロバートと呼んで下さい! なんでロバートってのは気にせんで下さい。そういうお約束なんですわ!」
WAHAHAHAHAと豪快に笑うロバートに圧倒されつつも、敵意がないことはすぐに彼女も理解する。その手に構えた魔法剣は手を開くと、風化するように光の粉となり消え失せる。
「無礼な挨拶をして申し訳ありません。私はユウ………」
「ユウ?」
「そう。ユウと申します」
彼女の世界では幼名や真名は存在するが、魔法がある世界であれば呪いもある為、名前を人に明かさないのが常識であった。その為、職業や称号、屋号等を組み合わせて個人を指す呼び名とするのが一般的であった。つまり、花火師玉屋の次男坊という具合である。
そして、彼女の場合は稀な称号であり、職業であり、役割である為、それを指すただ一名詞で呼ばれていた。
即ち、異世界の「勇者」である。
今この時も彼女は勇者を口にしようとした。しかし、女神から勇者の名を出すことを控えるように忠告を受けていたことを思い出した。
故に、咄嗟に自らをユウと名乗った。
「ユウさんですね! OK! どうぞよろしくお願いします。いやぁ、最近お客さんが増えてこの浮島も賑やかになって嬉しいですよ! 大歓迎です!」
ロバートが笑顔で拍手して勇者を歓迎する。
一方、彼女は彼の言葉をすぐに確認する。
「ロバートさん、他にも最近来た者がいるのですか?」
「そぅ……あ、じゃなくて。YES、ユウ」
「なんで言い直したんですか?」
「そういうプログラムなんですわ。ただ、ちょっと暮らしが長くなってくると段々忘れてしまって」
「はぁ」
関西暮らしが長くなって染まってしまった外国人のようなことを言いつつも勇者の質問にロバートは答える。
「機動魔法少女戦士ホーリーライトニングさん」
「はい?」
「機動魔法少女戦士ホーリーライトニングさんですよ」
「よくわからないのですが、なんとなく子どもが好きそうな名前を組み合わせたそれは本名ですか?」
「偽名だって言ってましたよ! でも本名から考えたとも言ってましたけどね。WAHAHAHAHA!」
その場合、聖なる稲妻となってしまいますが、それを本人は気づいていないし、思いつきで何となくカッコいいからという理由で付けた偽名なので気にしてはいけません。
「それで、その機動魔法少女戦士ホーリーライトニングさんはどちらに?」
「貴方は運が良かったんですよ。この界隈の宙域は怪竜の縄張りで私含めて浮島を出入りすることが容易ではないんです」
そう言い、ロバートが指を上空に向けてさし示すと、巨大な龍が空を飛んでいく。全長20メートルの巨龍の姿は東洋の龍。それはかつての青龍に似た姿でもある。
怪竜は咆哮を上げ、空中をうねらせて泳ぐ。それはまさに龍の舞。
「どうやら一緒にいた仲間とはぐれてしまった迷子らしくて。……んで、動けなかった私を助けたお礼に道先案内人を引き受けたんだけども、あの怪竜がいることを伝えたら………」
ロバートが説明をしている途中で、上空に閃光が迸り、光の中心から光線が放たれる。同時に甲高い少女の声が響き渡る。
「ライトニングビィィィィームッ!」
怪竜は光線を回避する。光線はそのまま別の浮島に命中。刹那、その浮島は跡形もなく消滅した。
「ぇ………」
勇者がその威力に絶句している間にも、光の玉は怪竜が放つ炎をかわして再び光線を放つ。
「ハイパァァァーミラクルゥゥゥー量子ぃぃぃビィィィームッ!」
先程のライトニングビームと全く同じ光線であるが、気が変わったのか別の技名が空に響く。洒落にならない威力の量子光線は怪竜に命中せず、空を貫く。空は赤く染まり、やがて元に戻る。
「なんとかぁぁぁビイィィィームッ!」
思い付きの技名を叫んでいたものの定まらず、結局面倒くさいなったらしい。
何とかビームという光線は怪竜に命中し、怪竜の全身は砂が舞い散るように消滅した。
光の玉が浮島に着地。光が消え、そこには昨年のハロウィンで着ていた魔女っ子衣装を着た少女が現れた。
セミロングの髪にリボンを付けたその少女こそ、ひぃちゃんもとい、機動魔法少女戦士ホーリーライトニングであった。
「ホーリーライトニングさん、ありがとうございました! 助けてくれてばっかりです」
「気にしなくていいよ。ロバートのおじさん、美味しいご飯を作ってくれたし。それより、私、私ね。強かったでしょ?」
ロバートにホーリーライトニングはVサインをする。
一方、勇者は今も呆けていた。想像以上であった。少なくとも人違いを疑う心配はなくなった。
「ん? うわーっ! すっごい、鎧カッコいいっ!」
「あ、はい! ありがとうございます。貴女もとてもお強いのですね」
「ふふんっ! まぁ、ね!」
嬉しそうに鼻を鳴らすホーリーライトニングに微笑し、勇者は彼女に膝をついた。
驚くホーリーライトニングとロバートを他所に勇者は言った。
「今、私のいた世界は存亡の危機に瀕しています。私はその危機を救う為にこの世界に来ました。そして、まずその鍵となる協力者を探すつもりでしたが、まさか早速出会えるとは思っていませんでした。貴女が私の探していた協力者です。量子の爾落人様」
「え、どうして? お姉さん」
「詳しい事情は説明させていただきます。しかし、できましたら道中とさせて下さい。貴女様にお会いできた以上、先を急ぎたいのです」
「うん、いいよ。私も早く東じょ……じゃなくて、悪を狩ル者、その名はマスク⭐︎ド⭐︎シノグを探さないといけないから」
「なんでしょうか? その方は?」
「何って……マスクをしてて、悪者を倒すんだけど、お父さんには勝てなくて、だけどいつもこんな感じのカッコいい剣を出して、ズバッ! とお外を歩いているお父さんに襲いかかる近所のおじさん」
ホーリーライトニングが片手に光刃を再現してズバッ! と斬り込む動きを真似る。
ちなみに、マスク⭐︎ド⭐︎シノグというのは前に一度目撃したプレデターとしての姿の東條凌をカッコいいと思った彼女に対して父親が勝手に名付けた名前である。
「それは貴女様と会っても大丈夫な方なのですか?」
勇者が若干引き気味に不安な表情を浮かべて確認するが、彼女は「うん、大丈夫だよ」と答える。
その言葉を信じきれないという曖昧な表情をしつつも、ロバートの案内で3人は浮島から地上を目指すことになった。
浮遊感と眩い閃光で五感が全身から一瞬、失われたかと思う何とも気持ちが悪い感覚が襲う。最初に戻った感覚は聴覚。耳元に風の音がゴォーゴォーと聞こえた。直後、冷たい風が耳、顔、そして手と露出している肌に触れる。
そして、視力が戻る。眩しい陽射しと白い雲。雲に飛び込んで視界が白くなり、再び青空と緑の大地が見えた時、自身が空高い宙を自由落下していることを理解した。
髪を結っていたが、いつの間にか解けていた。バサバサと舞広がる腰高の長髪は凶器も同然であった。
着慣れた鎧もこの状況では身動きを奪う。
「女神めっ! これは多少の誤差と言わぬぞっ!」
出発前に涼しい顔で「安心安全正確無比」と言い切った女神の顔を浮かべ、彼女は思わず声に出した。
そして、周囲を見回す。地上は森林らしく緑色の木々が広がっている。左右には大小様々な浮島が雲に混ざって浮かんでいる。
両手を広げ、唇を微かに動かす。
異音。口笛や声とは異なる。確かに彼女の口から漏れ出た音であるが、凡そ人の声とは思えない機械的な作動音。
『キューブォォォーン』
定命の只人とは異なる理に介する言語、詠唱が口から漏れ出し、彼女の鎧が青白く光る。光は渦巻き、球体となって全身を包み込んだ。
「変身っ!」
彼女の掛け声と同時に青白い光の中で、彼女の足、腕、肩、腰、胸、額に太陽のエンブレムを宿した兜が現れ、青白い光は白銀の鎧になる。
そして、最後に背中から円状に孔雀の様に羽が広がる。
「お日様に変わって悪を断つ! 我は勇者の鎧を纏いし者!」
空中に浮いた彼女は腰から抜いた剣を掲げてポーズを取って名乗りをあげる。ここまでを含めて、勇者の鎧への変身魔法である。
その鎧は真理の佛が召喚する宇宙戦神に似ていた。かつて地球で「聖地」を守った聖光鎧と同じようにその力が鎧となって彼女の身に纏われていた。
しかし、外見と本質は逆であった。その力は模倣でなく、本物。本物の宇宙戦神の力が顕現していた。
空中を浮遊した彼女はそのまま周囲の浮島を見回し、空を移動した。
まもなく周囲の浮島と比べて大きな浮島の上に着地した。
浮島の上は草木が生え、地面には人工物の石畳が敷かれている。周囲には人工的な柱や壁があるが、いずれも草木に飲まれている。それに対して足元の石畳は一目でわかるのは石畳を誰かが整備している証拠だ。
彼女は全身を包む白銀の鎧をカシャンカシャンと鳴らしながら周囲を見まわし、鎧が光ると宇宙戦神の鎧は消え失せ、元の鎧へと戻っていた。
「!」
気配に気づいた彼女は驚いた表情で振り向き、何も無い空間に伸ばした手から青く光る柄と刃が現れる。
金属の物質として存在するものではなく、魔法の力で剣の形を成した魔法剣。それは魔法が物質を形造る分子構造を擬似的に作り上げ、あたかもそこに存在するかのようにして固定をしている「G」でもそうそう再現できる者がいないようなまさしく魔法の力の成せるものであ……(略)
「………驚きました。全く私の知らない、魔法とは全く異なる感知できない力で動いている。それにも関わらず、まるで血の気の通った生きる人間そのものの外見とは。これが異世界ということか」
魔法剣の切先を向けて構える彼女の視線の先には、大柄で筋骨隆々とした肉体を持つ中年の白人男性が仁王立ちで立っていた。そして、頭に巻いたバンダナとワイシャツ、長ズボンは兎も角。その着ているベストは、荒廃した近未来の悪人を彷彿させる肩パッドがついていた。
一見すると場違いなその外見であるが、対峙する彼女にはその本質を捉えて、彼を警戒していた。
彼は人間ではない。生命ですらもない。
つまり、アンドロイド。機械である。
彼は、敵意のないことを示すように口角を上げて笑顔を浮かべると同時に、両手も上げた。
「Oh! 驚かせてごめんなさいねっ! いきなり空から女の子が落ちてきてんの見えたんで、こりゃ親方ぁーっ! って言わなアカンかなぁって考えて見に来たんやけど。まかさ、こんな凛々しい戦士さんだったと私も驚きでしたよっ! ………あ、申し遅れました。私、アンドロイドのM11です。気軽にロバートと呼んで下さい! なんでロバートってのは気にせんで下さい。そういうお約束なんですわ!」
WAHAHAHAHAと豪快に笑うロバートに圧倒されつつも、敵意がないことはすぐに彼女も理解する。その手に構えた魔法剣は手を開くと、風化するように光の粉となり消え失せる。
「無礼な挨拶をして申し訳ありません。私はユウ………」
「ユウ?」
「そう。ユウと申します」
彼女の世界では幼名や真名は存在するが、魔法がある世界であれば呪いもある為、名前を人に明かさないのが常識であった。その為、職業や称号、屋号等を組み合わせて個人を指す呼び名とするのが一般的であった。つまり、花火師玉屋の次男坊という具合である。
そして、彼女の場合は稀な称号であり、職業であり、役割である為、それを指すただ一名詞で呼ばれていた。
即ち、異世界の「勇者」である。
今この時も彼女は勇者を口にしようとした。しかし、女神から勇者の名を出すことを控えるように忠告を受けていたことを思い出した。
故に、咄嗟に自らをユウと名乗った。
「ユウさんですね! OK! どうぞよろしくお願いします。いやぁ、最近お客さんが増えてこの浮島も賑やかになって嬉しいですよ! 大歓迎です!」
ロバートが笑顔で拍手して勇者を歓迎する。
一方、彼女は彼の言葉をすぐに確認する。
「ロバートさん、他にも最近来た者がいるのですか?」
「そぅ……あ、じゃなくて。YES、ユウ」
「なんで言い直したんですか?」
「そういうプログラムなんですわ。ただ、ちょっと暮らしが長くなってくると段々忘れてしまって」
「はぁ」
関西暮らしが長くなって染まってしまった外国人のようなことを言いつつも勇者の質問にロバートは答える。
「機動魔法少女戦士ホーリーライトニングさん」
「はい?」
「機動魔法少女戦士ホーリーライトニングさんですよ」
「よくわからないのですが、なんとなく子どもが好きそうな名前を組み合わせたそれは本名ですか?」
「偽名だって言ってましたよ! でも本名から考えたとも言ってましたけどね。WAHAHAHAHA!」
その場合、聖なる稲妻となってしまいますが、それを本人は気づいていないし、思いつきで何となくカッコいいからという理由で付けた偽名なので気にしてはいけません。
「それで、その機動魔法少女戦士ホーリーライトニングさんはどちらに?」
「貴方は運が良かったんですよ。この界隈の宙域は怪竜の縄張りで私含めて浮島を出入りすることが容易ではないんです」
そう言い、ロバートが指を上空に向けてさし示すと、巨大な龍が空を飛んでいく。全長20メートルの巨龍の姿は東洋の龍。それはかつての青龍に似た姿でもある。
怪竜は咆哮を上げ、空中をうねらせて泳ぐ。それはまさに龍の舞。
「どうやら一緒にいた仲間とはぐれてしまった迷子らしくて。……んで、動けなかった私を助けたお礼に道先案内人を引き受けたんだけども、あの怪竜がいることを伝えたら………」
ロバートが説明をしている途中で、上空に閃光が迸り、光の中心から光線が放たれる。同時に甲高い少女の声が響き渡る。
「ライトニングビィィィィームッ!」
怪竜は光線を回避する。光線はそのまま別の浮島に命中。刹那、その浮島は跡形もなく消滅した。
「ぇ………」
勇者がその威力に絶句している間にも、光の玉は怪竜が放つ炎をかわして再び光線を放つ。
「ハイパァァァーミラクルゥゥゥー量子ぃぃぃビィィィームッ!」
先程のライトニングビームと全く同じ光線であるが、気が変わったのか別の技名が空に響く。洒落にならない威力の量子光線は怪竜に命中せず、空を貫く。空は赤く染まり、やがて元に戻る。
「なんとかぁぁぁビイィィィームッ!」
思い付きの技名を叫んでいたものの定まらず、結局面倒くさいなったらしい。
何とかビームという光線は怪竜に命中し、怪竜の全身は砂が舞い散るように消滅した。
光の玉が浮島に着地。光が消え、そこには昨年のハロウィンで着ていた魔女っ子衣装を着た少女が現れた。
セミロングの髪にリボンを付けたその少女こそ、ひぃちゃんもとい、機動魔法少女戦士ホーリーライトニングであった。
「ホーリーライトニングさん、ありがとうございました! 助けてくれてばっかりです」
「気にしなくていいよ。ロバートのおじさん、美味しいご飯を作ってくれたし。それより、私、私ね。強かったでしょ?」
ロバートにホーリーライトニングはVサインをする。
一方、勇者は今も呆けていた。想像以上であった。少なくとも人違いを疑う心配はなくなった。
「ん? うわーっ! すっごい、鎧カッコいいっ!」
「あ、はい! ありがとうございます。貴女もとてもお強いのですね」
「ふふんっ! まぁ、ね!」
嬉しそうに鼻を鳴らすホーリーライトニングに微笑し、勇者は彼女に膝をついた。
驚くホーリーライトニングとロバートを他所に勇者は言った。
「今、私のいた世界は存亡の危機に瀕しています。私はその危機を救う為にこの世界に来ました。そして、まずその鍵となる協力者を探すつもりでしたが、まさか早速出会えるとは思っていませんでした。貴女が私の探していた協力者です。量子の爾落人様」
「え、どうして? お姉さん」
「詳しい事情は説明させていただきます。しかし、できましたら道中とさせて下さい。貴女様にお会いできた以上、先を急ぎたいのです」
「うん、いいよ。私も早く東じょ……じゃなくて、悪を狩ル者、その名はマスク⭐︎ド⭐︎シノグを探さないといけないから」
「なんでしょうか? その方は?」
「何って……マスクをしてて、悪者を倒すんだけど、お父さんには勝てなくて、だけどいつもこんな感じのカッコいい剣を出して、ズバッ! とお外を歩いているお父さんに襲いかかる近所のおじさん」
ホーリーライトニングが片手に光刃を再現してズバッ! と斬り込む動きを真似る。
ちなみに、マスク⭐︎ド⭐︎シノグというのは前に一度目撃したプレデターとしての姿の東條凌をカッコいいと思った彼女に対して父親が勝手に名付けた名前である。
「それは貴女様と会っても大丈夫な方なのですか?」
勇者が若干引き気味に不安な表情を浮かべて確認するが、彼女は「うん、大丈夫だよ」と答える。
その言葉を信じきれないという曖昧な表情をしつつも、ロバートの案内で3人は浮島から地上を目指すことになった。