ホーリーライトニング伝説

《プロローグ》
 

「ひぃぃぃいいいいーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 そよそよと流れる風に花びらが舞う。一面に花の咲き誇る野原とせせらぐ小川が流れる長閑な景色にポツンと建つ家屋は、唯一の人工物でありながら絵画の中にあるコテージを抜き出したかの様に周囲に溶け込んでいた。
 そんな情景をぶち破る女々しい男の叫び声が家屋から轟いた。

 バタンッ! と扉を開け放ち、手紙を持った半ベソ顔の男が飛び出した。
 瀬上浩介だ。

「ひぃぃぃぃぃいいいいいいいいいーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!」

 瀬上は玄関前に立ち、空に向かって叫んだ。
 拳をふるふると震わせて膝を折る彼の背後で、妻の菜奈美は嘆息しながらヤレヤレと肩をすくめて首を振った。

「あなた、ひぃが家出したの、それ、のせいでしょうが」
「んなぁっ! 菜奈美、お前は平気なのかっ! 家出だぞっ!」

 カッ! と目を見開き瀬上が菜奈美に振り向く。
 対して菜奈美はキョトンとした顔をし、少し間をあけて思案する。
 
「…………まぁ、家出ちゃあ、家出だけど。うーん、ひぃだし。………それに東條のおじちゃんと一緒なんでしょ?」

 最後の一言で、瀬上は石化。そして、ヒビ割れて砕けた。勿論、比喩である。
 
 次の瞬間、立ち上がって瀬上は菜奈美へと詰め寄る。

「だぁーっから、心配なんだってぇぇぇーのっ!」
 
「………ただの嫉妬でしょ?」
「うっ! ………だ、だが、アイツと一緒ってことはアイツの仕事に付いてってるってことだぞ? そんな危険に」
「危険って……本気で言ってるの? あのひぃよ? 私達の娘よ?」
「た、確かに。……ひぃだもんな。ひぃがいたらアイツの出る幕もないかもなぁ。何せ、ひぃは俺たちの娘だもんな!」

 態度をコロコロ変える瀬上に菜奈美が再び嘆息していると、懐かしい声が何処からともなく聞こえた。
 
「全くこれじゃ、電磁バカじゃなくて、ただの親バカだな」
「この声…………」

 菜奈美が呟くと、家の前に空間の爾落人の世莉が転移した。

「世莉!」
「そろそろ顔を見せようと遊びに来たんだけど。……このまま狼狽している瀬上を見下ろすのも一興かと思ったが、どうせなら菜奈美と一緒に見ようかと思って」

 orzの格好のままでいる瀬上を無視して世莉は菜奈美に伝える。
 菜奈美は世莉の意図が汲めずに首を傾げた。
 それを確認した世莉は、口角を上げて小型のホログラム投影用の端末を何もない空間から取り出した。
 ご丁寧にもじゃじゃ〜んというSEを転移させた上で世莉渾身の声真似をする。
 
「尋ね人ク〜ガぁ〜!」
『そんな便利な道具みたいに私を出さないで下さいっ!』

 惑星クーガーからホログラム投影されたクーガーが現れるなり怒る。
 それを世莉は無視して空中に55インチ大の平面映像を出現させた。今は宇宙空間に浮かぶ地球が表示されている。

「ここに今の景色を転移させているわ。……で、クーガーならひぃちゃんの居場所もすぐにわかる。そして、ここに映すことも当然できる!」
「つまり……」
「んぁ?」

 目を輝かせる菜奈美と醜く崩れた瀬上が自信満面の世莉を見た。

「観るんだよ! ひぃちゃんのはじめての冒険を! リアルタイム中継で、しかもクーガーがいるから解説付きかつ、本当に危ない時は転移で救出可能!」
「流石、世莉!」
「てめぇ、人の娘を娯楽に使うんじゃねぇっ!」
「そう言ってる瀬上が特等席を陣取ってるのがなんかムカつくな………」
『まぁまぁ落ち着いて。それでは、はじめましょう。座標は…………』



 
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―――これは遥か遠い未来。地球が争いから離れて久しい頃の物語。


 


ホーリーライトニング伝説
〜はじめての冒険〜
「G」chronicle 15周年作品






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