龍神《喰ウ者》
11
宇宙空間に戻るとゾグは二人の佛に向いた。
『これでこの世界の危機は去りましたよ。後は私が帰っていなくなれば元の歴史に戻ります』
『五月ちゃん……いや、レイアは戻るのかい?』
『えぇ。それが運命です。それを捻じ曲げるつもりもありません。……お母さんのことを頼めるのは銀河さんだけですし』
『ん?』
『いいえ。なんでもありません』
そして、レイアは和夜にも声をかけた。
『これからも頼みますね』
『当然だ。……もう一度、会えて良かった』
『ふふん。これは今生の最後にいいお土産を頂きました。ありがとうございます』
『………』
最後にゾグの中にいる菜奈美と世莉にレイアは話しかけた。
「ちゃんとお礼を言う機会ができて良かったわ。お二人がいたから私はこの世に生まれて来れた。ありがとうございます」
「そんなただ私達はレリックに勝つ為にやっただけのことだし」
「そうだ。お礼を云われるほどのことはない」
「それでも結果的には私は二人が再現した時空の「G」があったから生まれてこれたのは事実。そういう意味ではレリックにも私は感謝しているのよ」
レイアはしみじみと言った。レリックを消すだけならばわざわざ異次元の空間を作る必要などなかった。あれはレイアなりの手向けだった。
そして、最後に菜奈美にレイアは耳打ちした。
「あと今回のことでほんの少し歴史に修正不可能な歪みが生まれてしまいました。瀬上さんが過ぎた力を得てしまったので、世界はバランスを取り戻す為に秩序をつくります。宜しくお願いしますね、お母さん」
「えっ!」
「じゃあ、さようなら」
驚く菜奈美を尻目に笑顔でレイアは去ってしまった。
同時にゾクも消え、宇宙空間に残された。
『俺達も元に戻るな?』
『僕達はずっとこの宇宙を見守っている』
「えぇ。もう流石に懲り懲りよ」
「私もだ」
『あ、世莉さんに最後にお礼を』
「ん?」
キョトンとする世莉に銀河は真理を使った。
『あなたの大切な思い出や記憶は決して忘れない! いつまでも色褪せず、ともに生きていける!』
「! ……ありがとう」
世莉の目から溢れ出た涙は宇宙空間を漂った。
そして、二人の佛も姿を消し、世莉と菜奈美も地球へ転移した。
――――――――――――――――――
――――――――――――――
数世紀後。
地球は今尚、宇宙全体から見ると過疎化した田舎の辺境惑星だった。
かつての様な繁栄をもう一度迎えることは恐らくないだろう。
しかし、世界有数の危険な惑星ではなくなり、「G」も多く生息するものの自然豊かな長閑な星へと変わっていた。
細々とではあるが、地球産の作物などを輸出し、貿易も行われている。
人口は10万人に満たないが、争いもなく穏やかに暮らしている。
一番人口が集中しているのは、かつての地球の守護神が祀られている遺跡がある旧厚木市の地域だ。
街になっているものの、自然の方が多く、道も舗装されていない。
そして、街の外れに小さなロッジがあった。
花々が咲く広場の中にポツンと立つそのロッジの側にはチロチロと小川の清流が流れ、小魚も泳いでいる。
そして、ロッジへと向かう白人男性がいた。指には「G」の能力封じが施された指輪が嵌められている。
「クーガー、もう少し早く歩けないのか?」
恐る恐る歩く為歩みが兎に角遅いクーガーにロッジの前で待っていた世莉が呆れた声をかける。
「視え過ぎるのも考えものですが、視えないとそれはそれでかなり怖いんですよ」
「それはもう何度も聞いた。だけど、仕方がないだろ? 指輪をつけたまま転移は使えないんだから」
「わかっています。そもそも久しぶりの生身ってだけでかなり大変なんですよ。もう少しお待ち下さい!」
生まれたての子羊のような足取りのクーガーに世莉は嘆息した。このままでは日が暮れるかもしれない。
世莉はクーガーにもう一度声をかける。
「クーガー、先に入ってるからゆっくり来いよー!」
「見捨てるおつもりですか!」
背中にクーガーの非難する声が浴びせられているが、世莉は気にせずにロッジのドアにある鐘を鳴らした。
中からパタパタと元気な足音が聞こえ、ドアが開かれた。
そして、元気な少女の声が周囲に響いた。
「ママ、パパ! 世莉ちゃん来たよー!」
【おわり】
宇宙空間に戻るとゾグは二人の佛に向いた。
『これでこの世界の危機は去りましたよ。後は私が帰っていなくなれば元の歴史に戻ります』
『五月ちゃん……いや、レイアは戻るのかい?』
『えぇ。それが運命です。それを捻じ曲げるつもりもありません。……お母さんのことを頼めるのは銀河さんだけですし』
『ん?』
『いいえ。なんでもありません』
そして、レイアは和夜にも声をかけた。
『これからも頼みますね』
『当然だ。……もう一度、会えて良かった』
『ふふん。これは今生の最後にいいお土産を頂きました。ありがとうございます』
『………』
最後にゾグの中にいる菜奈美と世莉にレイアは話しかけた。
「ちゃんとお礼を言う機会ができて良かったわ。お二人がいたから私はこの世に生まれて来れた。ありがとうございます」
「そんなただ私達はレリックに勝つ為にやっただけのことだし」
「そうだ。お礼を云われるほどのことはない」
「それでも結果的には私は二人が再現した時空の「G」があったから生まれてこれたのは事実。そういう意味ではレリックにも私は感謝しているのよ」
レイアはしみじみと言った。レリックを消すだけならばわざわざ異次元の空間を作る必要などなかった。あれはレイアなりの手向けだった。
そして、最後に菜奈美にレイアは耳打ちした。
「あと今回のことでほんの少し歴史に修正不可能な歪みが生まれてしまいました。瀬上さんが過ぎた力を得てしまったので、世界はバランスを取り戻す為に秩序をつくります。宜しくお願いしますね、お母さん」
「えっ!」
「じゃあ、さようなら」
驚く菜奈美を尻目に笑顔でレイアは去ってしまった。
同時にゾクも消え、宇宙空間に残された。
『俺達も元に戻るな?』
『僕達はずっとこの宇宙を見守っている』
「えぇ。もう流石に懲り懲りよ」
「私もだ」
『あ、世莉さんに最後にお礼を』
「ん?」
キョトンとする世莉に銀河は真理を使った。
『あなたの大切な思い出や記憶は決して忘れない! いつまでも色褪せず、ともに生きていける!』
「! ……ありがとう」
世莉の目から溢れ出た涙は宇宙空間を漂った。
そして、二人の佛も姿を消し、世莉と菜奈美も地球へ転移した。
――――――――――――――――――
――――――――――――――
数世紀後。
地球は今尚、宇宙全体から見ると過疎化した田舎の辺境惑星だった。
かつての様な繁栄をもう一度迎えることは恐らくないだろう。
しかし、世界有数の危険な惑星ではなくなり、「G」も多く生息するものの自然豊かな長閑な星へと変わっていた。
細々とではあるが、地球産の作物などを輸出し、貿易も行われている。
人口は10万人に満たないが、争いもなく穏やかに暮らしている。
一番人口が集中しているのは、かつての地球の守護神が祀られている遺跡がある旧厚木市の地域だ。
街になっているものの、自然の方が多く、道も舗装されていない。
そして、街の外れに小さなロッジがあった。
花々が咲く広場の中にポツンと立つそのロッジの側にはチロチロと小川の清流が流れ、小魚も泳いでいる。
そして、ロッジへと向かう白人男性がいた。指には「G」の能力封じが施された指輪が嵌められている。
「クーガー、もう少し早く歩けないのか?」
恐る恐る歩く為歩みが兎に角遅いクーガーにロッジの前で待っていた世莉が呆れた声をかける。
「視え過ぎるのも考えものですが、視えないとそれはそれでかなり怖いんですよ」
「それはもう何度も聞いた。だけど、仕方がないだろ? 指輪をつけたまま転移は使えないんだから」
「わかっています。そもそも久しぶりの生身ってだけでかなり大変なんですよ。もう少しお待ち下さい!」
生まれたての子羊のような足取りのクーガーに世莉は嘆息した。このままでは日が暮れるかもしれない。
世莉はクーガーにもう一度声をかける。
「クーガー、先に入ってるからゆっくり来いよー!」
「見捨てるおつもりですか!」
背中にクーガーの非難する声が浴びせられているが、世莉は気にせずにロッジのドアにある鐘を鳴らした。
中からパタパタと元気な足音が聞こえ、ドアが開かれた。
そして、元気な少女の声が周囲に響いた。
「ママ、パパ! 世莉ちゃん来たよー!」
【おわり】