最後の遊戯











ケェ~ラ、ケラケラケラケラ!!



ケェ~ラ、ケラケラケラケラケラ!!



ケェ~ラ、ケラケラケラケラケラケラ!!










『・・・ところで彼、脚が無いようだが?』
「あんなの飾りです、偉い人にはそれが分からんので・・・」
『カズく~ん?それ以上言うと、あたしキミの頭をシューティングしちゃうぞ~?』





「日本丸」。
今より約千年程前に存在した、「海の貴婦人」「太平洋の白鳥」の異名を持つ航海練習用帆船・・・と外見は酷似しているが明らかに内部機構が非なる、自称・世直しの為に造られた、恐らくは宇宙戦艦。
この船には現在、つい先日起こった「天弓」の巨大「G」・ニジカガチ復活事件を機に正式にチームを組む事となった、選ばれし・・・と言うより千年単位で見慣れた顔ぶれである、10人の爾落人が乗船していた。





「脚以前より、そもそもどうするかが問題じゃない?直して戦力にするのか、それとも処分しちゃうのか・・・」




船長、桧垣菜奈美。
役割分担決めになった際、満場一致と言う抗えない流れで真っ先にリーダーとなってしまった、「時間」の爾落人。





「処分するにしちゃ、勿体無い気がするけどな?こんなふざけた形(なり)で、あのニジカガチと互角に渡り合ったんだからよ。」




副船長、瀬上浩介。
世直しチーム結成の一件を凌と共に唐突に知らされながら、菜奈美が船長なら・・・と自ら立候補した、意外と責任感のある「電磁」の爾落人。




「人、と言うか見た目に寄らないって、まさにこいつの事だな・・・」




操舵士、四ノ宮世莉。
特になりたい役職も無かったので、自分の「G」ありきでなし崩し的に起用された、「空間」の爾落人。




『「想造」物の出来は、具現化した際の想像力に左右されます。近年稀に見る逸品である事は、視て解りますね。』




航海士、クーガー。
菜奈美・瀬上に次いで満場一致でこのポジションに収まった、「視解」の爾落人。




『・・・ダイス、貴方はあのようなモノを見た記憶は?』




主計長、ハイダ。
なんとなく向いていそう、そんな曖昧な本人評がそのまま採用された形となった、「思念」の爾落人。




「俺も常に日本に留まっていた訳では無いのだが・・・江戸時代頃によく見掛けた、それは確かだ。」




砲術手、八重樫大輔。
明らかに飾りのポジション以上に戦術指南・立案役が本来の役割である、「捕捉」の爾落人。




「戦闘力の高さを生かすなら、このまま砲台代わりに甲板に置いとくのはどうですか?」




戦闘員、東條凌。
瀬上と共に何も知らないまま世直しチームの一員にされ、瀬上の副船長役に唯一反対してみたものの、結局ぐうの音の出ない程に論破された末に実質何でも役を担わされた、「光撃」の爾落人。




「いやいや、あんなケラケラ笑いをいつも聞かないといけないなんてオレは嫌だけどな?絶対安眠妨害案件だろ。」




通信士、宮代一樹。
一番自分に向いているとして自ら立候補したが、実は一番楽チンだからと思った真意を隠し・・・通せたと思い込んでいる、「電脳」の爾落人。




『って言うか、みんな分かってなさ過ぎっ!あたしはムサシちゃんを元通りにしたいの!処分なんかぜ~ったい、させないから!!』




機関整備長、パレッタ。
「日本丸」と彼らの前に鎮座する「彼」を造った者にして、収まるべくして収まったとしか言いようの無い立ち位置にいる、「想造」の爾落人。




『ミス・パレッタの言う通り。MVPの一人を機械仕掛けと言うだけで始末を一方的に決めるなんて、正義の味方のやるコトじゃあ無いと思うねぇ?』




司厨、ジャック・オ・レンジ。
ニジカガチ事件及び世直しチーム結成の因を作った全ての元凶で、ジャック・オー・ランタンの如く燃える頭を生かしてスルリと自らをコック役に仕立て上げた、自称「屍操」の爾落人。
そして、彼らの今の議論対象。それは・・・






ケェ~ラ、ケラケラケラケラ!!


ケェ~ラ、ケラケラケラケラ!!




帆を背に船の甲板に鎮座し、奇っ怪な笑いをひたすらに響かせる、巨大な絡繰魂(カラクリ)人形・・・メカムサシンの処遇だ。
元はニジカガチの足止め役として造られたが、クーガーの言葉の通り近年稀に見る程に冴え渡ったパレッタの「想造」により、本来の役割以上の仕事を果たす程の性能を得た結果、脚部を破壊された程度の破損に留まった。
だが、生みの親のパレッタ以外は相手の強大さもあって、良くて両者共倒れ・・・つまりは使い捨て要員だとしていた分、上半身は満足な状態で帰還する想定は全く考えておらず、完全にその処遇を持て余していた。




「いや、そもそも自分の欲望を優先したせいでニジカガチ復活のきっかけを作った、貴方には言う権利は無いですよ!」
「これに限っては、俺も東條と同じ意見だな?お前が言うな!」
『まぁまぁ、そうトサカを立てなさんな。この時代だ、いずれ俺達はチームを組む事になっていたさ。どっかのお偉いさんに言われて無理矢理組まされるか、ニジカガチと言う「始まりの怪獣」をきっかけに自発的に結成するのか・・・どっちがいい?』
「そう言われたら、後者の方がいいですけど・・・」
「騙されんな、東條。それっぽい二択を突き付けて自分の責任から逃げてるだけだぞ、こいつは。」
「そうね。その始まりの始まり、と言うかやらかしたのが結局あんたって事は、どう言い訳しても変わりは無いんだからね?」
「犯人は「幻視」だが、腕輪を盗まれたのは間違いなくこいつのミスだからな。」
『おいおい、みんなして心外だな?俺に邪は心があるのは否定しないが、だからと言ってニジカガチを復活させようなんてこれっぽっちも考えなかったぞ?文明そのものを洗い流されたりしたら、俺は退屈過ぎてまた死んじゃうね・・・ミスタークーガーも言ってやってくれ?』
『そうですね・・・世莉さんの発言と少し重複しますが、ニジカガチ復活の「原因」を作ったのはジャックさん、ですがニジカガチ復活と言う「結果」を作ったのは「幻視」です。この場合、ジャックさんが腕輪を入手しなくとも「幻視」が自力で腕輪を入手していた因果は、無きにしもありきですからね。』
『その通り!流石は千里眼の男だ。それに諸君は勘違いしているが、今はこのカラクリをどうするかのが問題だろう?そう思わないか?ミスター八重樫?』
「確かに、それは事実だな。ジャックの責任の有無以上に、メカムサシンの処遇を決める方が先だ。」
『ほぅら。彼もこう言っている事だし、この問題の話はここまでとして、そろそろミス・パレッタのターンにしようじゃないか?』



ーーまた上手い事話を丸め込みやがったな、こいつ・・・


ーーこのタイミングでクーガーさんや八重樫さんに話を振れば、こう答えると分かった上でやってる・・・



『ジャッ君の言う通り!そしてあたしは、元通り一択よ!脚を付けて元通り!大事な事だから三回言ったわ!』
「でも脚を付けてパーフェクトメカムサシンにした所で、置き場所はどうするんです?処分しないなら脚なんか無い方が置物としては勝手に動かないし、今の時点で帆の邪魔になってるし・・・」
『あ~っ!カズくん、今ムサシちゃんをモノ扱いしたわね!?あたしの想造したモノは全部あたしの子供みたいなものだって、何度言ったら分かるのよ~っ!!』
「いや、ちょっ待って下さいって!オレはあくまで客観的な意見を・・・」
『・・・ちなみにですが、メカムサシンから僅かに思念を感じます。AIとは違う、何処かあたたかさを感じる思念・・・これは生物と同じ、自意識によるものです。』




と、パレッタが一樹の服の胸ぐらを掴んで抗議の形として激しく揺らす中、只1人会話に入らずにいたハイダはメカムサシンの腹部に左手を添えながら、そう呟く。
それは彼女の「思念」によるサイコメトリー能力を駆使した、メカムサシンがただの巨大な操り人形では無い、特異点を越えて一つの自我を宿す「命ある者」になりつつある証拠であった。




『ええっ!!それ、ほんと!?』
「げふっ!」
『さっすがあたしの子のムサシちゃん!アークちゃんみたいに、シンギュラポイントを突破しそうなんだね・・・!ありがと~!リリーちゃ~ん♪』
『い、いえ。あくまでも可能性の話ですので・・・あまり、過信しないようにお願いします・・・』




先程まで一樹に激情を向けていたのとは一転し、ハイダからの福音を聞いたパレッタは歓喜の感情のまま一樹を放り投げ、ハイダへの深い抱擁と言う形で彼女に礼を伝える。
ハイダもまた普段と変わらないクールな態度を示しながら、何度かの筈のパレッタからの抱擁に白肌を少し薄紅に染め、彼女と古き仲である菜奈美・クーガー、そして八重樫さえもその様子を見ながら笑みを浮かべている事から、満更でも無いようだ。



ーー・・・南極で最初にあいつを見た時、何だか人形っぽいとしか思わなかったけど、数百年も付き合うと印象も変わるものだな。
同じ初見で、凛々しくて白百合みたいに見えたからって「リリーちゃん」呼びし始めたパレッタも大概だが・・・



『ちなみに諸君、明日が何の日なのかは覚えているかな?』
「何って、クリスマスでしょ?」
「そう言えばそうっすね。恋人なんかいないオレには終始無縁のイベントなんで、忘れてたわ~。」
「一言余計だぞ、一樹。」
「と言うか今の世だろうと世界中がずっと前からクリスマスの準備してんだろ。絶対嫌味だな?」
「それはともかく、クリスマスがどうしたんだ?」
『クリスマス・・・聖なる夜、サンタクロースが仕事をする日、イエス・キリスト生誕日、色々ある。しかしその中で、一番有名な行事と言えば?』
『・・・何でしょう?』
「行事って言っても、あらかたジャックが言ったよな?」
「え?クリスマスプレゼントだろ?」
『正解だ、ミスター一樹。クリスマスにはサンタクロースに限らず、プレゼントを贈るものだろう?我が子しかり、恋人しかり、自分しかり。そして俺達は、この世界に平和と言う名のギフトを贈る世直しチームだ。と、言う事は俺達が正義の味方である事を世界中に教えてやる必要がある。これこそ、俺達からの世界中の人々へのクリスマスプレゼントにはならないか?だが、それには分かりやすいやり方がいる・・・そこで、「彼」の出番ってワケだ。』
『・・・つまり、メカムサシンをさながらサンタクロース、宣伝役にすると言うわけですね?我々の存在をアピールする為の。』
『それ、いいっ!メカムサンタちゃんって事ね☆』
「じゃあオレら、他人の家に合法で不法侵入していいってコト?おあつらえ向きの能力持ちの四ノ宮いるし。」
「おい、私を不法侵入者の常習犯みたいに言うな。」
「一樹、いい加減俺も怒るぞ?」
「一時期は刑事だった者とは思えん発言だな・・・」
「それはともかく、平和利用なら全く問題無いんじゃない?いざと言う時は戦力にもなる・・・遊園地の入り口とかにある歓迎用の大きな人形、みたいな?」
「あのなぁ、もう少しマシな例えしろよ・・・まぁ、処遇を決めるのはサンタ興行が終わってからでいいだろ。もしかしたらどっかの連中が譲ってくれって言ってくるかもしれないし、パレッタとしてもこの扱いなら不満は無いよな?」
『うんうん!あたしは賛成よ♪』
「他のみんなはどう?私と副船長、それと言い出しっぺのジャックは賛成だけど。」
『私は良いと思いますよ?』
「俺も特に問題は無い。」
『私も賛成します。』
「俺も大丈夫です。」
「オレはどっちでもいいで~す。」
『よし、実質全員賛成と言う事で・・・明日になったその瞬間から、ナイトメアー・ビフォア・クリスマスとシャレこもうじゃないか?』
『みんな、やるぞ~~~!!
じんぐるべぇー☆じんぐるべぇー♪すっずっがぁーなるぅー、へいっ!』
『・・・へ、へいっ!』
「いや、ナイトメアーって悪夢じゃん。それを言うならナイト・ビフォア・クリスマスじゃね?」











『よ~~~し!じゃあ、日本丸ちゃんにメカムサンタちゃん!初めての任務に出発よ~!!』
『任サレヨォ!!イザッ、ハジマリハジマリィ~~~~ッ!!』





その夜、日付変更線が変わって丁度0時・・・12月24日・クリスマスイブになった、旧日本・横浜。
かつてオリジナルの日本丸が寄港していた地から飛び立った新たな日本丸は、パレッタの希望と「想造」によってサンタクロースの衣装に似た装いが施されたメカムサシンを甲板に配した、さながらトナカイのいないソリのような風体で、24時間世界一周の航海へと出発した。






『イヨッ、ウ~キ~ヨ~エ~ッ!!』




メカムサシンは「富岳三十六景」の浮世絵を象った巨大なホログラフ「ウキヨ防壁」を広げ、日本丸はまず日本大陸縦断へと向かって行く。




『ではミスター一樹、頼んだぞ?』
「・・・本当にオレがやらないとダメ?凌でもいいから、半分こしない?」
「お前、一番楽チンな通信士なんだろ?俺は各所の点検とか非常時の戦闘対策とか、その他諸々で忙しいから手伝いは無理かもな。頼むから責任を持ってやれよ?」
「いやいや、その他諸々って何だよ!それ明らかに言い訳だろ!じゃあさ、ジャックは・・・」
『俺はコック、そして今日はクリスマスイブ。つまりこれから今日を祝う豪華な料理を作りまくって忙しくなる予定だ、お分かり?』
「うわっ、そう来たか・・・なら、時間出来そうな主計長のハイダさんは・・・」
『私はダイスから依頼されて、共に索敵をする予定ですが?』
「なんじゃそりゃあ!八重樫さんの癖に、お先にクリスマスデートのご予定かよぉ!!」
『デート・・・?』
「もう、つべこべ言わずに早くやりなさい宮代!これは船長命令よ!」
「はいはい、分かってますよぉ・・・!」










『え~、マイクチェック、マイクチェック・・・
メリークリスマス、メリークリスマス。
我々は「日本丸」。怪しいものでも、政府の道具でもありません。一言で言えば、弱きを助け悪を挫く通りすがりのヒーローズです。我々が望むのはラブアンドピース、平和です。平和を乱す悪を倒す為ならば、我々は何処へでも行きます。悪人の皆様は今から覚悟して頂き、罪無き皆様はどうか我々をご贔屓に宜しくお願いします。ひとまず今日くらいは争いを止め、平和に過ごしませんか?我々の存在そのものが、この世界へのクリスマスプレゼントです。
ベリーメリークリスマス、アンドハッピーニューイヤー。』









このジャック考案のメッセージは、パレッタが造った一樹の「電脳」によるハッキング技能を生かして、日本丸が通った半径約10kmにある居住地全ての通信機器に、各国毎の使用言語に自動翻訳された音声を流せる特殊なスピーカーを通じて、世界各地に響き渡る事となった。
居住地の位置はクーガーの「視解」によって把握し、世莉の「転移」によって居住地が集中した場所に的確に移動。
船へと攻撃を加えられた場合には、八重樫・ハイダ・凌が対応。
パレッタが日本丸の各機関部及びメカムサシンのメンテナンスを担い、ジャックが中々に美味な料理を定期的に振る舞う事で各員の空腹・モチベーション低下問題を解消。
最終的な判断は菜奈美が判断し、瀬上が各員に伝達しつつ逐次サポートに入る・・・初任務ながら、各員が極力無駄の無い最大限の働きが出来ていたのは、全員が結成以前より寄せ集めながら長い関係・・・「いつものメンバー」だった事は、疑いようが無い事実であった。








『・・・あれが、噂の日本丸だな。私はまだこの地を離れられないが、もしいつか銀河殿が帰還したら・・・共に旅をしてみたいものだ。』




日本縦断の道中、J.G.R.C.旧沼津支社跡地の上空を通過した日本丸を見るのは、「変化」の爾落人であるガラテア・ステア。
彼女のこの言葉が有言実行されるのは、今より約1000年もの時を経ての事となる。










『現れたか、新たなる歴史の1ページ・・・運命(さだめ)に導かれし者達よ。これより、「G」の物語は加速する・・・楽しみだな。』




旧淡路島地区・沼島。
日本原初の地、と伝える「くにうみ神話」の舞台にて、無機質なホワイトパールの眼で日本丸を見つめる男・・・名を「東斗」。
「白夜」なる神を宿す、全てを「識る」彼にとってこれから始まる日本丸とメカムサシンによる世界を股に掛けた行脚も、そこから果てしなく続く「日本丸」の航海も、全ては既知の事であったのだ。










『サァ・・・サァ、サァ、サァッ!!』






ーー・・・ハワード、「船」とは海を渡る為の乗物筈だが、あれは一体何だ?


ーー・・・ノーコメントだ。少なくとも、俺は知らん。


ーーそうか・・・では、あの船に乗っている巨人は何者なのだろうか?


ーー俺に聞くな。こっちが聞きたいくらいだ・・・




日本縦断を終え、日本丸は海を飛び越えユーラシア大陸・アジア圏へ。
旧中国地区では、「飛翔」と「寄生」の爾落人であるハワード・レイセオンと、彼の中に潜む光の巨人「ネクスト」が、空飛ぶ日本丸と桜吹雪を吹かせながら歌舞伎の見栄を切るメカムサシンの姿を見るや、無言の問答を始める。










「日本丸、か。パレッタさんもまた、良い船を今に生まれ変わらせたものだ・・・」




アジア圏を抜け、ヨーロッパ圏内に入った日本丸。
旧ロシア地区の辺境の集落の一角では、メカムサシンを指差す人々に紛れた弦義が、空を行く日本丸を見つめ・・・










『アーサー様、あれは一体?』
『空飛ぶ船に怪奇な巨人、明らかに不審だ・・・!』
『先に打って出ましょう!』
『待て・・・新たなる「旅団」の誕生、そう言う事だ。放っておけ。』




同じく、ヨーロッパ圏某所の「聖地」。
未だこの地球に残されし数少ない秘境の一つであるこの地を支配する、巨大な類人猿の姿をした「王」・アーサーは臣下の者達と共に、日本丸と剣の舞いを披露するメカムサシンを静観する。










『ヨッ、ヨッ、ヨッ!ヒトダマ車輪ッ!!』




次に上陸したアフリカ大陸では、メカムサシンが広げた和傘を回転させながら火炎の輪を転がす曲芸を見せながら、過酷な地に生きる民達に希望を伝え・・・






『おっ、新手のサーカス団か?』
『貴方の耳は節穴ですか?我々は正義の味方です、と先程から一方的に呼び掛けているではありませんか。』
『え、そう?じゃああれって・・・ただの宣伝活動かよっ!大層な事すんな?』
『あの船には、全員爾落人が乗船しています。データベースによれば・・・』




天の神「黄昏」を宿す巫師・黄天、水の神「紺碧」を宿す巫子・三島芙蓉、「記録者」たるアンドロイド・桐生千早が、旧モロッコ地区から三種三様の反応を見せる。









「なんだ、ありゃ?空飛ぶ船と、馬鹿デカいカラクリか?」
『あれは間違いない、パレッタ様の「想造」せしモノ!』
「だよなぁ・・・あんなヘンテコ作るの、あいつしかいねぇもんな?」
『隼薙、我が主の愚弄は許さんと何万回言えば分かる!そもそも私が主の最高傑作の一つであり・・・』
「だぁーっ!!お前こそ何万回もうるせぇんだっての!」





オーストラリア大陸・旧シドニー地区では終始困惑する隼薙と、正反対に水を得た魚のように歓喜するアークが日本丸とメカムサシンを見送るも、結局お決まりの流れである舌戦が始まってしまった。








『・・・今、お前はそこにいるのか。ダイス。』




南アメリカ大陸、旧エクアドル地区のある集落の端に佇む寂れたオープンカフェ。
今にも壊れそうな木製の椅子に腰掛け、スナイパーライフルの手入れをする「必視」の爾落人・ウォードが、アイスブルーの瞳に映る日本丸にかつて共に旅をした旧友の姿を重ねる。










『はぁ・・・あれこそ正しく、如何にもな 「本物」の爾落人のやる事ってわけ・・・』



北アメリカ大陸・旧ニュージャージー地区。
人々が日本丸とメカムサシンに喝采を浴びせる中、ただ1人溜め息を吐く女・メロゥノ。
「耐熱」と言う、爾落人としてはコンプレックスでしか無い弱小な能力しか与えられなかった彼女にとって、奇っ怪で巨大な人形を載せた空飛ぶ船と共に自らを「正義の味方」だと流布する彼らの存在そのものが、無自覚にだが確実にメロゥノの胸の内で千年以上眠る劣等感と嫉妬心を煽る、迷惑千万な存在でしか無かった。
その約千年後、彼女はその負の感情を宇宙よりの「邪悪」との遭遇を機に爆発させ、日本丸と対峙する事となる・・・










『今の世に「正義の味方」とは、随分大層な文句。だが・・・少なくとも、俺にとっては確かにヒーローズだ。果たしてこれからどうして行くのか、期待させて貰うとしよう。』





同じく北アメリカ大陸・旧カナダ地区の広大な氷河の上空に浮かぶ、半径1kmはある巨大な島・・・日本丸が霞んで見えてしまう程の存在感を誇る、「聖地」と並び立つ爾落人達の集団にして安住の地・「旅団」の天空の城。
「聖地」で言うアーサーと同じく、「旅団」を束ねる「複製」の爾落人・蛾雷夜は新たな「旅団」となる日本丸の船出を、穏やかに見届ける。










「全く、こっちは『ヤツら』を追うのに忙しいってのに、今日がクリスマスイブだからと言って派手に宣伝し過ぎだ・・・アレは間違いなく、パレッタが造ったな?」




太平洋・旧ハワイ地区の砂浜では、「変想」の爾落人・月夜野京平が少々呆れ気味に呟きながら、日本丸とメカムサシンに軽く手を振って見送った。










「・・・フフフ、愉快なものだよ。「彼」がこの世界に帰って来れば全ては無に帰する、仮初めの一時だと言うのに・・・まぁいい、今は静観させて貰おう。また『彼』と共に、君達に会えるその日までね・・・」




南極大陸。
未だまともな居住地すら存在しない僻地に、四六時中吹き荒れる極寒の吹雪に身を隠し、いつ頃なのかは分からないがいつの間にか構えられていた謎の研究所、その最深部の一室に潜む男・・・「機関」の主・ヘッド。
「殺ス者」がこの世界から一時的に追い出されてから約千年の間、復活の日が来るまで息を潜め続けている彼もまた、自らの野望を一旦は挫いた者達が乗る日本丸からの宣戦布告(メッセージ)を密かに聞いていた事を、今はまだ誰も知らない。










「日本丸か・・・二代目の方に乗った事あるけど、あれは良い船だったなぁ。まっ、俺の計画の邪魔にならないよう願ってるよ・・・宮代君やパレッタさんと敵同士の立場で感動の再会、は流石に洒落にならんからな?」




それから、もう1人・・・地球の何処かから、古き記憶を呼び起こしながら日本丸誕生の報せに一喜一憂するのは、かつて「関口亮」と呼ばれていた男。
西暦2046年の沼津防衛戦にて行方不明と言う名の死亡・・・に見せ掛け、その身に残る大切だった女性(ひと)から譲り受けた命の灯火を磨り減らしながら、己の野望と言う名の計画達成の為に名も縁も戸籍も何もかも捨て去り、密かに世界の暗部で生き続ける事を選んで、早千年。
だが、彼は今は未だ待ち続ける。野望を・・・計画を達成し、「仮想敵」を打ち破り、この世の表舞台に再び舞い戻る、その日が来るのを。










『コレニテェ、一件落チャァクッ!!
ケェ~ラ、ケラケラケラケラケラケラ!!』
『たっだいま~~~~~~~~!!』




そして、出発から約23時間後。
日本丸は再び、旧日本・横浜へと舞い戻った。




「おお、帰って来たか。日本丸よ。此度の外遊、誠にご苦労であったぞ。」
『絶対大変だったよな・・・けど、立派だったからなんくるないさー!』




丸一日掛けた世界一周宣伝の旅もあってか、降り立つ日本丸を一目見ようと見物客が続々と船の周囲に集まり、その中に混じって遥か昔にこの国を統治していた「ショーグン」こと「氣導」の爾落人・徳田と、巫師の一族「鬼藤」の者の体を借りる地の神「獄焔」の姿もあった。




「・・・思った以上に、人が集まって来たな・・・」
「ぜ、ぜがいじゅうであんだげぜんでんじまわっだら、ぞりゃぞうなるっで・・・」
「一日中のアナウンスお疲れ、一樹。しかし、まさか本当にこいつが宣伝役者になるなんてな・・・いや、サンタクロースか。」
「何にせよ、結果としては成功って言って良いんじゃないか?まぁ分かってたとは言え、何度か攻撃されたけどな。」
「攻撃を受けたのは、いずれも紛争や派閥闘争の激戦区付近だった。仕方の無い事だ。」
『ダイスの「捕捉」と凌の「光撃」があったので多少は楽でしたが・・・弾幕を相手するのは、かなり堪えました。』
『俺達の戦いは少なくともそいつらが矛を収め、そこの子供達に本物のサンタクロースが来るまでは続くってワケか。果たして、俺が極楽浄土に行くまでにその光景が見られるのかね?』
「ここまでやっちゃった以上は、最後まで責任を持って正義の味方を続けるわよ。それで肝心のメカムサシンを今後どうするか、なんだけど・・・」
『それについては、既にパレッタさん・・・と言うよりメカムサシン自身が結論を出したようですよ?』
『そうなの。今から一時間くらい前、もうすぐ日本に帰って来れるって時にね・・・』










ーーお疲れ、ムサシちゃん♪
帰ったらすぐに、ちゃんとした脚を造ってあげるから・・・



ーー・・・待タレヨォ!我ガ主(アルジ)サマァ!



ーーえっ?主様、って・・・あたし?



ーー・・・ヒトツ、オネガイモォス・・・










「・・・えっ?そこから全部プログラムされてない言葉を話したってのか?」
『うん。その後リリーちゃんを呼んでみたら、バグとかじゃなくてしっかりとムサシちゃんの中にある言葉だ、って言ってたし。』
『はい、間違いありません。これはメカムサシンがパレッタに向けて、自らの意志を明確に示したと言う事です。』
『私としても、ハイダさんに同意します。今のメカムサシンからはニジカガチ戦時とは違う、ただの機械からは視えないものが色々と視えますね。』
「なんか、機械が自意識を持つってアニメやドラマでよく見ましたけど、実際に立ち会うと言葉が出ないですね・・・」
『さながら、死体が恩人に感謝を伝える為だけに口を聞いたみたいな美談だ・・・いいんじゃないの?』
「いや、ぞれぶづうにがいだんばなじだっで・・・」
「どちらにせよ、最終的に判断するのは創造主のパレッタだ。俺達では無い。」
「でも、本当にいいの?貴女はあれだけ脚を付けてあげたい、って言ってたのに・・・」
『いいのいいの!子供の好きにさせてあげるのが、親ってもんでしょ?ムサシちゃんがそれで良いなら・・・ね。
だからごめんだけど、クリスマスパーティーの前にもう一回だけひとっ飛びして!』










・・・カンシャ、致シモォス・・・
我ガ、主サマァ!!










「あっ、本当にある!」
「ねぇねぇ、フジヤマみせて~!」
「ぼく、カブキが見たいっ!!」




『任サレヨォ!!イザッ、ハジマリハジマリィ~!!』




翌日、クリスマス当日。
旧日本地区では珍しいホワイトクリスマスとなった、かつて「浅草」と呼ばれた地に、戦う力を失った代わりに人々を喜ばせる千客万来の芸の技を身に付けた、脚の無い大きなからくり人形が突如として現れ、末代まで人々を笑顔にして行ったそうな・・・






ケェ~ラ、ケラケラケラケラ!!


ケェ~ラ、ケラケラケラケラケラ!!


ケェ~ラ、ケラケラケラケラケラ・・・









コレニテェ・・・メデタシ、メデタシィ~!!
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