Hurt Locker


日本丸は次の目的地へ到着した。帝国第一西岸領コロニー。
ここは北米大陸西海岸であり、ピーターやロボコップの東岸領コロニーとは対になる位置で、同時期に建造されたコロニーの一つ。人口は同規模のコロニーと比べると少ない部類に入り、東岸領と比較して約7割程度だ。周りを囲う壁も老朽化と野良「G」の襲撃を受けて満遍なくすすけていた。その広大な敷地内には国の機能そのものが凝縮されており、将棋盤のマス目のように的確に配置された施設や居住区が、コロニーの合理性というコンセプトそのものを体現している。しかし体現されすぎてるが故に、その規則性すぎるレイアウトが逆に不自然さを憶えてしまうのが初期コロニーの特徴だ。


「なんだ?」


しかしそれらは霧に覆われ、上空からコロニー周辺を見渡す事はできなかった。現在の高度ならコロニーの壁沿いに位置する飛行場や港湾施設がもれなく見えるはずなのだが。そこで一樹が衛星を借りて覗いたがそれでも一区画を撮影する事はままならず、甲板に立つ瀬上は街を見下ろした。


「こりゃ人為的なもんか…?」


船長の菜奈美はいうと、内部の港湾施設に連絡を取るよう一樹へ指示を出している。無闇にコロニー領内へ進入すると、迷走中の航空機とニアミスしかねない。


「どうかしら?」
「まだ向こうの港湾局と繋がらないなぁ。でも代わりに…」


中型の輸送艇がコロニー外界から現れた。帝国コロニー間の連絡に使われる軍用のモデルだ。それは日本丸と並行して飛ぶと互いの情報を交換できた。
彼らの話によると昨晩から音信不通が続き、かれこれ半日になるという。最寄りのコロニーから訪れた偵察隊は、無人機を進入させたが誘導電波の不良で機能不全に。仕方なく僚機の輸送艇が直接降りて兵士を送り込んだが、これも応答がないらしい。現状打てる手も少なくてお手上げのようだ。一樹は状況をまとめた。


「霧そのものがセンサー類や通信へのジャミングになっているようですね。だから無人機の類は操作不能。AI搭載機や有人のロボットで潜ろうにもまともに視界も確保できない。オマケに…」


一樹はクーガーの肩を叩く。


「私の視解も役に立ちませんね。視えない」
「え?」
「そんなことがあるの?」
「あるみたいですねぇ。文字通りモヤがかかったみたいに見通せません」


クーガーは肩をすくめるだけで意に介さず、珍しく一樹が解説を続けた。今は誰も異を唱える者はいない。


「あの霧が爾落人に対し、ゲームでいうデバフの効果も発揮してるんだ。これで能力が発現しにくくなってるみたい。全く力を使えないわけじゃないけど弱体化は甚だしいかな。特に能力ゴリ押しの日本丸や帝国にとってはね」
「無人機もだめ。直接人を送り込むも通信できないなら手の打ちようがないな」


瀬上は首を鳴らしながら天を仰いだが、その光景から閃いたのか凌が声をあげた。


「パレッタさん、何か霧を吹き飛ばすようなモノを造ればいいんじゃ?巨大な扇風機みたいな」
「そんなインスタントみたいに手軽に言われてもなぁ。リョー君みたいに早くたくさんロボットを作れても、駆動系や制御システムをおざなりにしすぎちゃったら目的を果たせないし。想造って実は複雑な行程を踏むことは何年か前に説明したけど、それで結果が出なかったら最初からやり直しになっちゃうんだよ?」
「あー…」


蘇るギャラクトロン事件。触れてはならないパレッタの裏人格。凌は口をつぐむしかない。


「しかし悠長に構えている場合でもない。さっき転移で壁際まで行ってきたが、壁内に数体の「G」を捉えた。数メートル級だろうが、コロニー中心部には相当数が入り込んでいるはずだ」
「はず…ね。どの程度の距離まで捕捉できたのかしら?」
「長くて十数メートルだ。領民らしい者はいなかった」
「一応確認だけど、転移や変化で霧の除去は不可能?」
「そうだ。さっきガラテアと試したがあまり上手くいかなかった」
「本当に霧そのものが「G」の力を受けつけにくいようだな」
「ただの物理的干渉なら能力で除去できるはずだから、能力に頼らない機械的なもので吹き飛ばす他ないのでは?」
「…そうね。パレッタ、お願いできるかしら?」
「うーん、やってはみるけど…」


人命がかかっている可能性は分かっているが、急な難しい要求に立ち上がりが遅めだ。こういう時のため、菜奈美はとっておきの一言を知っている。


「状況は聞いてたでしょ?【想造は不可能を可能にする。これはパレッタにしかできないことよ】」
「うんうん、これはパレッタ殿にしかできないぞ」
「パレッタならできます」
「絶対できる」
「パレッタさんが頼りなんです!」
「パレッタならできるだろ?」
「オレらだけじゃない、世界中が君を待っている!」
『パレッタ!』
「そう!そうそうそう!!そう!!!これはッ!私にしかできないこと!まっかせて!!」


パレッタは杖を手に甲板へ飛び出した。障害物の少ないスペースまで来ると、今度は転ぶ勢いで膝を着いてうずくまる。それからというもの、普段の彼女からは見られない光景が繰り広げられる。


「この際制御はAIじゃなくて日本丸からレーザー通信を…それだったら高高度にも浮遊できるように…いっそ台風並みの出力で…前に造ったアークちゃんのも応用が効くはず…その場合…」


パレッタは人差し指を空中でペンのように振っては、知識や思考を計算式に落とし込んだ謎の数字が彼女の脳内を駆け巡る。それらは既存の物理学やらを超越した彼女だけの理論。彼女はあえて言葉に出しながら考えを整理し、想造を捗らせる。パチンコで言う勝ち確定演出に突入したのだ。


「渋りながらもある程度アタリをつけていたようだが…」


自分以外と隔絶された意識、ゾーンに突入しつつあるパレッタとは対照的に、八重樫と瀬上は冷静だ。彼女へ会話が聞こえなくなる距離を見計らい、瀬上は菜奈美に問いかけた。


「で、完成を待つのか?」


パレッタの想造、スピードにはムラがある。キングジョーを即席で造りあげたのが例外的だっただけに、完成期間には振り幅が大きい。造るからには内容も突き詰めるポリシー。皆が彼女の人生観を尊重しているからこそ、本人の時間を早送りして完成を前倒しさせる真似はできなかった。今回の巨大扇風機(仮)は、お題がお題だから比較的早いだろうと踏んでいるが。そこを待てるか待てないか。


「…正直迷ってるわ。危険を承知で偵察を強行して情報を取りに行くか、霧を除去してから一気に原因を取り除くか」


皆の意見は、そう聞く前に各々は議論を続けていた。


「デバフ下とはいえ相当数の爾落人をどうにかできるとなると人為的な破壊工作があったか、帝国戦力を上回る物量の「G」がいるという事ですよね」
「或いはそのどちらも考えられる」
「でも誰一人避難してこないということは全滅だろうか?あの霧自体が吸うだけで死ぬような有毒ガスとか」
『それはないみたい。分析できただけでも人体に有害性がないのは裏が取れている。それよりも問題はコロニーの気象コントロールが稼働してない事ね。正常に動いていれば濃霧なんてありえないし』
「やはり人為的な工作ありきですか」
「霧が有害ではないにしろ領民全滅の可能性は捨てきれないですよね。人質事件だとしたら犯行勢力から要求がないのはおかしいし、内部にいるらしい「G」にやられたのかも」
『みんな敵がいる前提で話してるけど、災害か何かでシェルターに避難してるだけって可能性は?連絡つかないのもトラブルとか』
「…状況をまとめるとこうね」


①気象コントロールの停止も霧の散布も人為的な仕業。住民もその何者かに制圧された。

②霧を散布できる野良「G」が気象コントロール含むシステムを襲撃。同時に住民も制圧された。

③その両方。

④災害による避難とトラブル。


「決めたわ」


やはり個性派集団をまとめ上げるのは骨が折れる。方針を決めあぐねていた菜奈美は顔をあげた。
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