Hurt Locker
早朝。起床した八重樫は、いつも通り甲板で胡座をかいて目を瞑っていた。側から見れば坐禅を組んでいる様子だが、彼にとっては捕捉という自分の能力を伸ばす日課。これ以上捕捉の何を応用できるか悩んできた答えが、個人の特定だ。
そもそも八重樫大輔における捕捉についてだが、八重樫自身がパッシブソナーのように対象の生体電位を測定するものだ。
生体電位とは、動物の生命活動に伴って生じる微弱な電気信号の事を指す。分かりやすい例だと脳波や心電図、筋電図。人間から選り分ける際にこれらを参考にすると、能力者と爾落人を区別できるらしい。能力を使う際や無意識に出す仕草に、普通の人間には縁のない電気信号を発するからだ。また、死んだ者に電位はないから生死の判定は視認しただけで済む。
これら以外にも「G」と虫や動物に至るまで、種別ごとに同じような電位のパターンがあるために特定が容易い。八重樫の中では全てが、立体的なPPIスコープとして整理される。
その捕捉範囲は八重樫の全天周を網羅し、地中もカバー。最大測定距離も数十km以上まで及ぶ。これらは八重樫の意思に関係なく常時受信している。世莉が一時的に捕捉を得た際に気分を害したのは、その情報が視界ではなく身体を駆け巡ってきたからだ。八重樫もまた、クーガーとは異なる情報の海に絶えず晒されていたのだ。
これだけで捕捉という能力の限界を悟っていた八重樫にとって、パイロキネシスを習得していたハイダは衝撃的だった。武器の扱いだけでく、まだ自分も能力を伸ばす余地がある。レリックを倒して十年あまり、試行錯誤を凝らして捕捉に向き合っていていたのだ。
その成果の一つとして、ハイダとの合わせ技で個人の特定を可能とした。それは八重樫自身がアクティブソナーのように思念を乗せて発信し、対象者のエコーを捉えて居場所を特定するもの。
これはハイダのサポートありきではあるのと、遠距離であるほど精度が劣る、背後が死角など欠点が多いが特定は堅い。
それだけに留まらず、個人でできることを模索した結果。近距離であれば単独でも個人を特定できそうなところまで鍛えた。これは21世紀に発明された壁透過レーダーを参考に、対象の身体の筋肉や皮下脂肪に含まれる水分、脂肪から反射してこない水分量の微分さから特定を試みる。
これの欠点は水分量を観察した対象でなければならないのと、それを年単位で憶えなければ特定には繋がらないことだ。つまり会ったばかりの人物の特定は不可能。それでも日本丸メンバーが相手でも特定は難しい。
「……」
改良の余地ありだ。だがレリックや月ノ民亡き、この平和な期間に日本丸で移動しながら鍛錬できるのはありがたい。例え日本丸が解散しようが、一人になろうが捕捉の探究は続けていかねば。
「!」
その捕捉の最大距離に空白地帯が発生した。日本丸の進行方向、今日立ち寄る予定のコロニーの隣。住民や動物、全てを捕捉できない。八重樫は艦内に戻り、クーガーを尋ねた。
今回の物語の幕開けだ。