爾落転換


「もうこんなことは懲り懲りですね。やはり自分の能力が一番ということです」
「いやクーガー殿は私の能力でノリノリだった気がする」
「いえいえ、やはり前線に立つというのは柄ではありません。ガラテアさんと世莉さんも捕捉電脳と相性が悪かったのでは?」
「そうだな。私に電脳は持ち腐れだったと思う」
「私もだ。捕捉も便利かもしれないが、地力がなければ戦いきれない。空間のない自分がどれだけ無力か実感した。八重樫が鍛錬を怠らない理由が分かったよ」
「なら、世莉殿も今度手合わせ願いたい」
「それはまだ勘弁して…あ、一樹」


世莉は通りすがりの一樹を呼び止めた。ある事から笑いを堪えきれない世莉。


「どうしたの」
「いや、良かったな…その…パレッタと……合体できて」
「合体言うな!」
「皆さんお戯れがお好きなようで」
「そうだ一樹トリニティ殿、グローラーと交戦した時の逃げ腰は問題があるように思う。これからも私と訓練をしよう」
「いやぁ、トリニティは今後お借りすることはないと思うんで…」


出航前、いつもの日本丸。チェリィが帰還したことを知らされた凌は四人に背を向けてムツキと話している。


「ありがとうムツキ。パレッタにメカギラスとキングジョーブラックを見せてくれて」
『貸し三つ分くらいだからね。あのパレッタをあそこまで怒らせるなんて、あんたもやるわねぇ』
「俺はパレッタさんとあの子がトラウマになりそうだよ…」
「リョーくん、あのメカゴジラみたいなロボットはどうしたの?」


凌の傑作群のホログラムを眺めるパレッタ。昨日のことなど何事もなかったかのように振舞っている。それが逆に恐い。表情の引き攣る凌。


「は…はい。強いロボットをイメージしたら蛾雷也のメカゴジラが思い浮かんだからつい…」
「キングジョーはどうしたの?」


ウキウキしながら聞いてくるパレッタ。いつものテンション。


「キングジョーは、全身黒くして銃をつければ強そうかなって…」
「二つともリョーくんらしい独創性があっていい!あのキングジョーは装甲を紅くするのもいいかも!インスピレーションが湧いちゃうわ!」
「ぁりがとうございマす…」


それを遠目から眺める菜奈美と瀬上。


「ったく、レディアの時より怒らせるなんてあいつすげぇよ」
「あの子は定期的にやらかしちゃうからね…まぁ、能力もパレッタも元に戻ったようで何よりだわ」
「これでやっと一件落着だな」
「あんたを丸裸にできないのは残念だけど、私もやっぱり時間が一番よ」
「そりゃそうだろ。誰もが自分の能力がいいに決まってる」
「本当にそうかしらね?」


菜奈美は八重樫とハイダに視線を向ける。


「能力、元に戻ってしまいましたね」
「そうだな」
「あなたは電磁のままの方が良かったのでは?」
「確かにそうだが、電磁のままだと自分がダメになりそうだ。羨ましがった時もあったが使ってみると便利すぎるし性に合わない」
「私もそうです。ヒロイックなものよりは身の丈に合った能力が一番かと」
「違いないな」


「…なるほどね。二人とも考える事は似てると」
「じゃあ元から電磁の俺って、最初からダメになってるの?」
「そうかもしれないわね」
「おい!」


いつもの日常。いつもの光景。紆余曲折ありながらも、変わらない仲間。自然と笑みがこぼれる菜奈美。


「さぁ、出航するわよ!」
「あいさー!」


菜奈美の号令に皆が気持ちを切り替え、各自が持ち場についた。これからもまた旅を続ける。世界を廻り続ける。今までと同じように。


fin
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