爾落転換
「ご飯は世莉に転移させるから、とにかく自室に隠れてなさい」
「はい…」
能力を取り戻した直後に凌が菜奈美に言われた一言。とりあえず夕食を摂ることになったが、パレッタへの配慮で凌は今晩中は自室に篭ることになった。
それもあって今晩は凌抜きのテーブルだ。その中にはチェリィも混じっている。近寄りがたいパレッタの両側の席を、チェリィと八重樫で挟み場の空気の均衡を保つ。チェリィを凌の分の空席に座らせ、彼女を中心に話を振る。
「すごいね君。能力二個持ちかぁ」
雑談の中チェリィの能力を聞いた一同。チェリィへ一樹が身を乗り出す。
『おじさん…ちかいデス』
「オレは宮代一樹。おじさんじゃないよ。忘れないでね。外見も気持ちもまだ24歳くらいだからおじさんじゃないからね」
「お前のような24歳がいるか」
「チェリィちゃんは歳はいくつかな?」
「聞けよ!」
時たま見せるスルースキルで瀬上の猛攻をスルーした一樹。
『ざっとかぞえて14000さいデス』
「14000歳!?チャックと同じ?!」
『きかれたから「嘘」もなくこたえまシタが、おんなのこに「年齢」をきくなんてしつれいなおじさんデス』
「この方は失礼の塊のような人ですから気になさらないでください」
「ちょっとクーガー!」
「チェリィ殿、こんなことに巻き込んでしまい本当にすまないと思っている」
『きにしないでくださいデス。こまったときはたすけあいデスから』
「ありがとう」
「これからどうするんですか?」
瀬上のおかわりをよそったハイダが尋ねる。
『いまは「日本」を「旅」しているんデス。またもどりマスが』
「君も日本丸に加わればいいのになぁ」
「疑惑が深いお前がいる限りそれは見送られると思う。なぁ一樹トリニティ」
「そんなぁ!」
一樹は頭を抱え、笑いに包まれる。だがチェリィの禁断の一言で空間が凍ってしまう。
『そういえば「想造」だったおじさんはどこデスか?』
「……」
一同沈黙。ガラテア、パレッタ、八重樫だけが箸を進める。
『そ、そんな人いたかなぁ~?』
『?』
ムツキが取り繕いつつ、恐る恐るパレッタの様子を伺うが彼女は怖いくらい冷静な様子だ。とりあえず一息つく。八重樫の隣に座る世莉がぼそりと呟く。
「…早くいつものパレッタに戻らないだろうか」
「今のパレッタの方がいいだろう。騒がしいよりかは全然いい」
「普段よりはあれがいいって、それはどうかと思うけど…」
こうして凌にとって眠れない夜は更けていった。