爾落転換
鎧を収め、帰還した一樹とパレッタ。それを出迎えた一同。
「二人ともよくやったな」
「でも元に戻る方法が…」
「それは後から考えよう。今は休め」
ギャラクトロンを撃破したものの、素直には喜べない。能力を元に戻す希望がなくなったのだから。それともう一つ。パレッタの様子がおかしいことも異常事態だ。
「パレッタ、どうかしたのかしら?」
「きっと疲れたんだろう。私達のゾグビーストの時も酷かったからな」
パレッタは無の表情で凌の想造したギャラクトロンを見上げている。パーツやモールド一つ一つを、目に焼けつけるように。
「あそこに転がっている残骸は何かしら?」
パレッタの声に抑揚はない。普段からすると不気味だ。
『凌が想造したそっくりなロボットの左腕だよ!オリジナルと比較してみる?』
「馬鹿やめろ!」
瀬上の制止は遅い。ムツキは記録していたギャラクトロンと凌機を並べてホログラムとして投影した。それをじっくりと吟味するパレッタ。ホログラムの3D全身図を手で上下左右360度回転させる。パレッタをこっそり視解した菜奈美。
「嘘…」
「パレッタ殿、どうしてしまったのだ?」
「…ガチギレしてる…」
「がちぎれ?」
「凌が敵だったロボットをパクって想造したから怒ってるみたい。嫌な能力の使われ方をしたから逆鱗に触れたのよ」
ホログラムを消したパレッタは凌の元へ歩み寄る。いつもの歩き方ではない、アサシンのような隙のない歩行。ハイダと八重樫は目を見張る。
「どうしました?」
「…パレッタは人を殺めたことがあったのか?」
「はい?」
「いや、今のは忘れてくれ」
今までに見せたことのないパレッタの雰囲気にたじろぐ凌。
「あの敵と瓜二つなロボットはどうしたの?」
いつもの明るいテンションとは対照的に、淡々と凄みのある喋り方なパレッタ。彼女は凌のギャラクトロンを顎で指すと、据わったままの目で凌の目を見る。まばたきはない。さらにたじろぐ凌。
「あぁいう表情をする人間を俺は見たことがある」
「というと?」
「まるで呼吸するかのように人を殺せるやつだ」
「違いありませんね」
『あんなパレッタ、みたことないデス…』
「見ない方がいいかもね。こっち行こうね」
凌の近くに立っていたクーガーと瀬上、それとなく距離を取った。一樹もチェリィの目を手で覆い、この光景を隠しながら離れる。
『ちょっと…その絵面危ないわよ。元々それっぽいけど、○リコンの変態みたい』
「いや、避難させてるだけだから!」
『そうねぇ。私もちょっと隠れてよ…』
ムツキは自身のホログラムを消して身を潜めた。ハイダは初めての事態に見守るだけだ。八重樫は連合側の責任者と通信で最後のやり取りをしている。世莉とガラテアだけが今のパレッタを気にせず、今後の日本丸の心配をしていた。凌はしどろもどろで答える。
「アイデアが枯渇しちゃってつい…」
「凌」
初めて名前で呼ぶパレッタ。だが一番冷酷な声のトーン。
「…はい」
「モノに心ってあるかしら?」
「え?」
「そんなの分からないわよね。あったとしても目に見えるものでもないし」
「あの…何の話しを…」
パレッタは凌の胸を手でなぞる。妖しい手つき。凌の全身に冷や汗が流れる。
「考えてみれば私ね、人の心を見たことないの」
「え…」
パレッタは冷たく微笑む。
「心はどんな形をしているの?大きさは?神経はどんな風にどこに繋がっているの?色は?動くの?触った感触は?匂いは?血は通っているの?さらにその中はどうなっているの?」
パレッタが怖い。
「あの…」
「知りたいの。実際に見て経験すれば、もっといい作品を想造できるかもしれない。そう思わない?」
パレッタは凌の左胸を人差し指で小突いた。意味を分かり青ざめる凌。後ずさろうとする凌を時間拘束で捕まえるパレッタ。余程頭に来たのだろう。恐らく人生初。
「ちょ…パレッタ、それくらいにして元に戻る方法を考えましょう?元に戻らないことにはあなたも想造できないし」
意を決した菜奈美が間に割って入った。安堵する凌。
「…そのことだけど能力が元に戻るかもしれないわ」
「え?」
「だから今後のためにあともう少し…」
パレッタは再び凌の左胸に手を伸ばす。
「凌、超逃げてぇ!」