爾落転換


八重樫は舌を左手からの電撃で牽制した。同時に右腕に光刃を展開すると、ハイダも光刃を展開して八重樫の背後を守る。


「俺はいい。自分の身を守れ。これ以上お前に借りを作るつもりはない」
「貸し借りなんて元からないはずです」


迫る舌を切り落とすハイダ。光刃を振るう身のこなしを横目で見た八重樫は背中を預けた。こちらを伺う舌をレーザーで切断し、肉薄する舌をハイダは斬撃波でまとめて始末する。獲物相手に手こずっているのを察知したのか、他の五人と比べるとこちらに群がる舌の数が多い。八重樫はパチンコ玉を一つ取り出した。


「合図で屈め、舌を引き付けるんだ」
「はい」


舌を目の前まで引き付けるのは、ハイダにとって抵抗があったが八重樫を信じて言う通りにした。電撃と光弾で牽制しながら舌を誘導し、接近するコースを絞らせる。だが目の前まで迫っており、二人とも捕まる寸前だ。


「今だ!」


ハイダは屈んだ。八重樫はパチンコ玉を真上へ向けてレールガンで射出した。巻き起こった衝撃波が多数の舌を吹き飛ばす。


「他に方法があったのでは?」
「これが手っ取り早かった。他の連中ならビビって引き寄せることはできなかっただろうからな」
「…私も人並みの生理的嫌悪を抱くことはあります」
「それは…悪かったな。そこまで考えていなかった」


クーガーは、氷結と火炎放射で舌を寄せ付けない。面制圧の暴力であった。しかしクーガーの変化は強力でありながら本人の立ち回りが棒立ちだ。背後に迫る太い舌。


「クーガー殿!」
「危ない!」


太い舌にガラテアがメーザーブレードで斬りかかった。しかし重心や身体のしなりを駆使しても体重が軽いためか斬り込みが浅く、溶断には至らない。


「そのまま止めていろ!」


世莉は咄嗟にフォローしようと、動きが止められた舌の真正面からブレードを突き立てる。同時に逆手に持ち替え、もう片方の掌で柄頭を押し込む。粘土に尖った鉛筆を突き立てるような感触が世莉に伝わる。腕の力を酷使した結果、ゆっくりと二又に割れた太い舌は痙攣しながら朽ち果てる。


「他愛もありませんねぇ」
「俺たちが背後のやつを迎撃してるの分かってます?」
「はい。感謝してますよ」
「どうだか」


凌は世莉とガラテアの状況を見ながらメーザーライフルの射撃を続けるが、直撃でも威力が足りず撃退には至らない。ブレードの世莉とガラテアはこちらから仕掛けることはせずクーガーの死守に徹している。


「クーガー殿、頼む!」
「はい」


クーガーの氷結が舌を襲った。一瞬にして動けなくなった舌を凌のライフル射撃で砕いていく。


「無理をなさらず。私が焼き払いますよ」
「いつにも増して嫌味だな」
「そうですか?心外ですねぇ」
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