爾落転換


『ゲートナンバーB5、解放。通過後は速やかに遮蔽せよ。監視を怠るな。繰り返す…』


軍は電磁防壁をピンポイントで解放し、ブルードを異界林へ通した。その後を八重樫らがブルードを追跡する。予定通りこのままグローラーの居場所へ泳がせる算段。なお、異界林は上空から見通しが悪く無人偵察機の援護は見込めないため正規軍は待機させた。


「お前まで来る必要はないだろう」


八重樫の隣をくっついて走る瀬上。各々が武器を手に取りながら皆がついてくる本末転倒な展開であった。


「お前に電磁を持ち逃げされたまま死なれると困るからな」
「持ち主のお前が死んでしまっては元も子もないだろうが」
「まぁまぁ、皆いれば恐くないですから」
「女子かよ」
「四ノ宮、何か捕捉したらなんでもいいから報告しろ」


上空には指令した爆撃機隊が旋回して待機している。八重樫の指示待ちだ。


「何か来る!下からだ!」


電磁防壁から少し離れた雑木林。そこで世莉の警告と共に地面を割って現れたのは数十本の管状の舌だ。固まって移動していた一同を囲むように出現した。ブルードはこちらを気に留めず奥まで歩いていく。


「あれはグローラーの舌ね。捕まったらそのまま地中に引きずり込まれて食べられちゃうわよ」
「なんか他人事っぽさがクーガーに似てきてないか?」
「そ…そうかしら?」


自分だけ転移で離れる一樹。少し離れたところに出ると木の陰に隠れ、顔だけをこちらに覗かせた。


「おい!」
「すんません!やっぱ前線には無理があります!」
「うん。一樹殿は度胸を鍛えねばなるまい」
「ガラテアさん、それは能力を元に戻すより難しいことかもしれませんよ」
「来るぞ!」


一同を値踏みするかのようにグローラーの舌が周りを這いずる。年齢を重ねた爾落人集団から見ても気持ちの悪い光景だ。


「私たち、久々に活きのいい獲物らしいから気をつけてね」
「パレッタ、時間停止は!?」
「気持ち悪ぅい…」


舌による精神的ダメージを負ったのはパレッタだった。時間停止の援護は見込めなさそうだ。


「各自身を守れ。宮代はせめて菜奈美とパレッタを回収しろ!」
「八重樫さん、ここは逃げて軍に爆撃させましょう!」
「この状況では誘導できない!」
「アホか!俺らまで巻き添えだぞ!」


一樹は菜奈美とパレッタを自分の元へ転移させる。それを合図に八重樫、瀬上、凌、ガラテア、ハイダ、クーガー、世莉は戦闘を始めた。
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