爾落転換


八重樫の指揮の下に、コロニーでは急ピッチで作戦の展開が進められていた。


場所に選ばれたのは正規軍の軍事演習場。コロニーの外壁が一番近い場所に罠を張る。罠という程でもないが、菜奈美とパレッタを設置したステージに置いて、ブルードが寄ってくるのをひたすら叩くだけだ。可能なら時間停止の援護があれば完璧とも言える。
演習場の周りは農業施設だけで、人払いを済ませており何かあっても被害は最小限になる見込みだ。


演習場には塹壕とメーザーライフルを装備した大隊規模の歩兵と、支援火器のメーザー殺獣光線車を待機させる。数体だけはモンスターキャッチャーと呼ばれる特殊マーカー弾で撃ち、グローラーのところまで泳がせて追跡する算段だ。ブルードが異界林まで出たところで八重樫と世莉、一樹が追跡にまわり、誘き出したグローラーに爆撃のレーザー誘導を行うのだ。


「ムツキ、1500に作戦を開始するとナナミとパレッタに伝えろ」
『1500?』
「昼の3時だ」


時間が迫り、完全武装でメーザーライフルを携行した歩兵をステージの周りに配置。射角を確保した位置取りで死角をなくす。同時に菜奈美とパレッタが一樹と共に指揮所に転移してくる。しかし八重樫の想定と違ったのは、ムツキ以外の皆も一緒に来たということ。


「どういうことだ?」
「いや、結局皆で行こうということになって」
「そこのクーガーは不本意そうだが?」
「…そんなことはありませんよ」
「皆来てしまったら戦力を小出しにした意味がないだろう…」


八重樫は追求をやめた。全てが理屈通りに動ける集団などいない。ましてや日本丸の連中は。少しだけ菜奈美の苦労が分かった気がした。


「菜奈美」
「え?」


今までにないくらい真剣な瀬上。いつもとは全く違う瀬上に、挙動不審になってしまう菜奈美。


「何かあっても、今の俺にお前を守りきれるかわからねぇ…。ましてやお前自身も自分を守れない状況だ」
「…本当に心配してくれてるのね」


菜奈美には視解で瀬上の心情は筒抜けのようだ。それを瀬上も分かっているはずだが、臆することはない。


「このまま電磁が戻らなければ俺は…」
「心配してくれてるのは分かったから。今は作戦に専念しましょう?失敗はしないみたいだから」
「そ…そうか」


それを微笑ましそうに見守るガラテアと、複雑そうな凌とハイダ。自由な日本丸一行を気に留めず一人カウントを始めていたオペレーターだけが、浮いて見えている。


「コマンダー・ヤエガシ。時間です」
「全部隊作戦を開始。宮代、二人を転移させろ」
「はい!」


一樹は囮用のステージに二人を転移させた。
35/53ページ
スキ