爾落転換


『私は、コロニーNF3000代表のケイオスと申します。バグバズンの殲滅において、もう一度お力添えをお願いしたく、ご連絡さしあげました』


翌日。日本丸にコロニーから打診が来た。ムツキがメッセージを開封し、皆の前に整った顔立ちのスーツを着た男性のホログラムを提示した。ローシェと同じような、雰囲気を纏う人間だ。


「…どうする?」


瀬上が珍しく悩む。いつもなら加勢に行く流れではあるのだが。


「医療センターでの借りを作ったままにしておくのもね…」
「だが今行って何になる?こんな本領じゃない状況で参戦すれば無事では済まないかもしれないだろ」
「そうね。皆の進捗をもう一度確認しましょう。凌の想造はどうかしら?」


菜奈美の前にパレッタは出た。


「リョーくんは想像力のカケラもないのよねぇ。使いこなしてるとは言えないわ…」
「…と言うことで、俺の戦闘はライフルとブレードになります」
「そう言う私も、時間は止めるのと少し巻き戻すくらいしかできないの。ゴメンね」


パレッタは両手を合わせてごめんなさいのポーズ。


「俺から見てもハイダさんは接近戦はある程度はこなせると思いますが、射撃が不安ですね」
「私もそう思います。…コウの思念についてはアテにしない方が良いかと」


ハイダは瀬上を一瞥した。


「おいおい…八重樫の電磁は及第点ってとこだぜ。ほぼほぼ使いこなせている感じがだからな。俺自身が戦闘となると良くてブレード振り回すくらいだろうな」
「俺から見て四ノ宮の捕捉もある程度はできているだろう。後は個人の識別ができれば上等だ」
「私も戦うとしたらブレードだと思う。ライフルは口径が大きくなるほど射撃が不安定になる。それと一樹の空間はさっぱり使いこなせていないみたいだ。道具の取り寄せは及第点だが転移は目で見える範囲でしか移動できないし、結界も不安定、断絶に至っては教えることもできない」
「ちょっと!誰のせいだと…まぁいいや。オレの電脳はガラテアさんは持て余してるみたいすね。仕方ないけど」
「うん。だから私も戦闘はブレードだけだ。私の変化はクーガー殿へ渡ってしまったが、使いこなせているようで安心した。後は接近戦での立ち回りだけだ」
「…ナナミさんの視解は六割程度と言ったところでしょうか。私は戦闘に置いては道具も扱えませんし、火炎放射と冷凍攻撃くらいでしょう」
「…はぁ…」


まともに戦力になるのは八重樫の電磁とクーガーの変化、ハイダの光撃だけのようだ。後は普通の人間と大差ない。確かにこのまま応援に行けばブルード程度に損害が出そうだ。途方に暮れる一同だが、ここで八重樫。


「瀬上の言うリスクは俺も同意見だ。だから俺が正規軍を指揮して殲滅させればいい。2700歳の爾落人ならあちらの人間は納得して指揮下にはいるだろう」
「あー、確かに…」
「人間だけで、ですか?」
「物量と装備は揃っているんだ。なんとかなる」


今の状況で敵に身を晒すリスクはとりたくない。協力するという体裁をとりつつ貢献できるというのは最善と言えた。一つの問題を除いて。


「だがブルードの索敵はどうする?捕捉でも捉えられないのに」
「それなんだが」


世莉の疑問に八重樫は菜奈美を見た。少し身構えた菜奈美に、意味を悟った瀬上。


「まさか…お前…」
「菜奈美かパレッタを囮に使う。マーキングがついていた頃の時間を巻き戻して、ブルードを待ち構える。やって来たところを圧倒的火力を持ってして一掃するんだ」
「ふざけんな!」


激昂した瀬上が八重樫に掴みかかる。周囲に緊張が走る。一方的にだが一触即発の空気。だが瀬上を止めたのは菜奈美だった。


「いいのよ。私やるから」
「お前…」
「あなたが指揮を執ってくれるんでしょ?それなら信じるわ」
「おい!」
「菜奈美ちゃんがやるなら私もいくわ」


パレッタも名乗りを上げた。


「菜奈美ちゃんだけに危険な事はさせられないわ。私たち、友達でしょ?」
「パレッタ…」
「なにかあっても、あんな虫なんて時間を止めてやるんだから♪」


一人通常運転のパレッタ。彼女の底抜けの明るさは今の日本丸には心強かった。


「決まりだな。俺は向こうの責任者と作戦と装備を打ち合わせてくる。宮代、来い」
「えぇ…オレは…」
「お前も戦力だ。転移の練習がてら俺をコロニーへ送れ」
「はい…」
「おい」


去り際の八重樫の肩を掴む瀬上。先程の緊張感はなかったがまだピリついている。


「その作戦でもしあいつに何かあったら…分かってるな?」
「あぁ。その時は好きにしろ」
「……」


八重樫は瀬上の目を見て答える。自信を汲み取った瀬上は無言で手を離し、衣摺れを整えた八重樫は一樹とコロニーへ。何度か中継して目的地まで転移していく。残された一同と、凌と瀬上。


「…うまくやれば思念で中止させることもできたんじゃないですか?」
「そうかもな。だがあいつの言ってることは確かに合理的なんだ。理屈も通ってる。…だからこそ気に食わない」
「認めてるんじゃないですか。八重樫さんのこと」
「んな訳あるかよ…」
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