爾落転換


夜遅く。女性陣が就寝し始めた頃、甲板はまだ騒々しかった。凌による武器の銃声が轟いているのだが、防音は整っているので迷惑ではない。八重樫は瀬上が使用している攻撃技のテストを行いつつ、凌の射撃を指導している。


今日の事を受け急遽八重樫に武器の指南を乞うた凌。メーザーライフル、ブレード、プラズマライフル、ブラスター各種、スマートガン、パルスライフル。
今まで最低限の指導を受けていたが、ここにきて仕上げをしなくてはならなくなった。元から完成しているのだからそんなに急ぐ必要はない、そう八重樫は言ってくれたが戦力外になることは凌にとって大問題だった。


「今日はもういいだろう」


青白い閃光が夜空へ駆け抜けた。マイクロ波シェルを習得した八重樫。今晩はそろそろが引き際か。


「もう少し…」
「やる気があるなら付き合うが、何をそんなに駆り立てるんだ」
「……」


黙ってしまった凌から、八重樫は電磁石でライフルを取り上げ、安全装置をかけた。悲痛な表情の凌。


「ハッキリ言って最近のお前はおかしい。日常生活じゃ目立たないがな」
「……」


凌は答えないが、八重樫には心当たりがあった。


「瀬上だろ」
「……あの人は能力、経験、年月。全てにおいて俺の先を行っているんです」
「年齢なんて覆しようがないだろうが。気にし始めたらキリがないぞ」
「……」
「…今のお前は昔の俺と同じ問題に当たっている」
「…え?」


ここで、凌は素の表情になった。


「能力以外で差を埋めろ。技術を増やす事に専念するんだ。能力によってはじゃんけんのように相性が悪いものもあるし、比べるのは酷だが汎用性込みで電磁が優れているだろう」
「……」
「能力に置いては、そういうものだと割り切るんだ。このままでは、お前は壊れる」


凌は納得している様子ではない。むしろ八重樫の言葉は耳に入っているのか疑わしい。俯いたまま顔を上げない。


「…間違っても、瀬上本人に決闘なんて真似をするな。爾落人同士が本気でぶつかればどうなるか分かってるだろう」


爾落人同士による衝突。その結果がどうなるかは歴史が物語っていた。


「大丈夫です。俺は伸び代がある分、鍛えれば瀬上に勝てます」


今日初めての笑顔の凌。八重樫はその言葉とと共に戦慄した。ここまで拗らせているのかと。


「勝ち負けの問題なんかじゃない!これは、お前のために言っているんだ!戦争でもないのに死人を出すつもりか!」
「……」
「分かったら今日は寝ろ。瀬上についても、突っかかるのはやめるんだ。この非常事態にこれ以上問題を増やすな」
「…はい」


強引だが八重樫はこの場を解散とした。何が最善なのかは分からない。だが長年の仲間として、いつかは解決してやらねばならない問題だ。この非常事態が終われば、必ず。
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