爾落転換
一樹と世莉も外に出た。空間の指導は今の日本丸において重要な意味を持つ。だが、一樹と世莉も他愛もない雑談はするが、このような命運を握る行動を二人でするのはあまりない。普段はそんなことないが、少し気まずい。
「まずは転移からかなぁ。使えたら便利だし」
「転移は、頭の中で転移する場所を思い描き、そこに行くと思うんだ」
「う~ん。とりあえずやってみる」
世莉の指示通り。一樹は消え、世莉の後ろに出現する。捕捉の力でさほど驚かない世莉。
「女の背後には転移しないことだ。私はともかく、普通の女の子は驚く」
「あぁ、ごめんごめん」
「じゃあ次は日本丸の自分の部屋に行ってみよう」
「よし。ふんっ」
一樹は力むが、世莉の目の前にいたままだ。
「あれ?なんで…」
「まだ目で見える範囲でしか使えないようだな。この様子じゃ遮蔽物の向こう側や地平線より先は行けないだろう」
「そうかな。じゃあ日本丸の裏側に行ってみる」
一樹はもう一度力むも転移に失敗した。
「確かにそうみたい」
「じゃあ次は結界だ。こう…なんというか…自分の周りに念じるというか…」
「なんか説明が大雑把になった気がする」
「それは気にしないで」
だが、掴みは良かったらしく一樹の周辺にうっすらと膜が張ったようだ。とてもじゃないが耐久性は認められない感じだ。世莉は試しに八重樫から借りていたブレードを振りかぶった。
「ちょっと!」
ブレードが振り下ろされる瞬間、厚みを増した結界に弾かれた。及第点の耐久性だ。
「こ…殺されるかと思った…」
「そんなことする訳ないだろう。できないなら寸止めさしたさ」
「…ほんとに?」
「じゃあ次は結界をあの木に張ってみよう。仲間を守るイメージで」
「説明するの下手なの?逆になんで転移だけ説明上手かったの」
「黙って」
一樹は念じながら対象の木に手をかざす。だが待てど何の変化もない。
「あー」
「この様子だ。断絶はやめておこう」
「いやこれ独学で覚えるしかないような感じでしょ」
「一樹のセンスがないのが悪い」
空間掌握の道のりは長い。