爾落転換
「じゃあこの辺りでいいかしら♪」
消去法で想造が割り振られたと推測された凌。パレッタと随伴の瀬上、ハイダに連れられ、異界海の浜辺までやって来た。今度は凌が教わる番だ。瀬上は少し離れてハイダと念力の練習に励む。
「さぁ、これを持って」
凌はパレッタから金色の杖を受け取った。パレッタの身長とほぼ同じ長さの杖の名前はン・マ・フリエ。凌はパレッタの指示通り、先端の鳥の装飾を外し、毛筆部分を露出させる。
「壊さないでよぉ」
「分かってます」
「じゃあ、船を出してみよう!」
凌は予め書いてもらったメモを注視しながら地面に陣を描いていく。本人は一生懸命だが、その光景は似合わない。やがて完成した陣からは、巨大な想造物が浮かび上がり、異界海に着水した。大きな水しぶきに反応したハイダと瀬上もそれを注視する。
「…なに、あれ?」
パレッタが、唖然としていた。その光景に唖然とする瀬上。さらにその瀬上を見て唖然となる凌。その場を微妙な空気が支配する。
それは客船、タンカー、戦艦、クルーザー。様々な船舶が合体したかのような歪な幽霊船というべき代物……バラックシップだった。
「…きっとアドバイスがあれば違ったんだろうな」
「何かイメージしながら陣を描いたりしないのですか?」
ハイダはともかく、瀬上のフォローが今の凌には辛い。
「そうそう!コツはいかにイメージを強く持つか、エネルギーを叩き込むかなのよねぇ」
「それなら、なんとか」
またメモを見ながら陣を描いていく凌。今度着水したのは、軍艦のようなもの。各種砲塔が多数積載された、かの大戦期における戦艦というべき船……アイアンロックスが出てきた。
「まぁ、多少はマシになったんじゃないか?」
「これ思っていたより体力を使いますね」
「こんな巨大なものを連続で想造することなんて早々ないだろうけどね。そこまで気にすることなんてないんじゃないかしら」
「しかし、こんな物騒ものを置いてたら連合を刺激するのでは?」
ハイダの疑問は至極まともだった。ギャラクトロンに続き、こんなものが突如出現したとなれば連合側は大騒ぎになりそうだ。
「コロニーへの寄贈品てことにしましょう」
真顔で言い放つ凌。
「お前…本気で言ってるの?」
「……」
瀬上のツッコミに、ハイダのフォローはない。辺りは再び沈黙に包まれた。