爾落転換
落ち着いた一同。今はギャラクトロンから日本丸を離し、着陸している。いつ元の能力に戻れるかも分からない中無闇に攻撃することもできず、コロニー側にも監視だけの対応に留めるように依頼した。
日本丸では、各々が能力の調整を行っていた。時空を一樹とパレッタが持っている以上、他の皆がしっかりしなければならないのは口にしなくても一同は理解している。
ちなみに瀬上は念力の制御には辛うじて成功しているようだ。だがもしものために小道具類は撤去された。
気分が落ち着いた世莉も八重樫から捕捉についての指導を受けていた。
「もう慣れたが、常に誰かに見られているようで酔いそうになる。いつもこうなのか?」
「あぁ。だが慣れれば背後に目があるように立ち回れて、死角はなくなる」
「…それだけか?」
「それだけだ」
「……」
不満そうな世莉。
「人の能力をハズレのように言うもんじゃない」
「何も言ってない」
「表情に出ているぞ」
「うっ…」
「まぁ、戦いたければ捕捉よりも武器を教えないとな」
「あぁ、頼む」
その近くではクーガーと菜奈美。菜奈美は先程から目を閉じたままだ。
「気を抜いたら情報量に溺れそう…」
「知りたい情報だけを抽出するには取捨選択に慣れなければいけませんよ」
そう言うクーガーは爪の長さと硬度を自在に操り、炎まで纏わせていた。普段から使い方を視解していたらしく、飲み込みは早い。
「じゃあ、しばらくはクーガーに前線に立ってもらおうかなぁ」
一樹が嫌味ったらしく、しかし今までにない超絶笑顔で提案した。
「いえいえ、私は接近戦での立ち回りなんていざ知らず。精々火炎放射か冷凍攻撃の援護が関の山でしょう。それよりも一樹さん、空間のあなたが主力になるんですよ」
クーガーはいつもの通り、躱す。見る見る笑顔が失われる一樹。
「うん一樹殿。私もこうなってしまった今、頼りになるのは一樹殿なんだ」
一樹から笑顔が消える。並べられた機材の前に座るガラテア。彼女に振られた電脳の制御を諦めているのか、隣には八重樫が使用していたメーザーブレードが立てかけてある。
「そんな…ねぇ。電磁の八重樫さんもいるんだし、オレばかりじゃなくたって…」
「ダイス殿は元から前線に立っているだろう」
「う…」
『早く電脳取り戻してよね。私だけタスクが倍になっちゃうんだから』
「分かってるよ!オレだって戻りたいよ!」
一樹の仕事はムツキが引き受けることになったらしい。これで、電脳持ちの一樹の存在意義がなくなった。
「転移と結界だけでも習得お願いね」
「はい…」
菜奈美に言われれば仕方ない。一樹は肩を落としながら世莉の元へ歩き出した。少し離れた場所では凌がハイダを指南している。
「ハイダさん、光弾を出す時は人差し指と中指を真っ直ぐに固定しないと誤射の元になってしまいます」
「こう、ですね」
「はい。慣れれば弾種を撃ち分けられますから後で外で練習しましょう」
「光刃はどうです?」
「初めは出しっ放しでも体力を消耗するかも。使う瞬間だけ展開して節約しないと持たないですよ。斬撃波は…もう少し慣れてから」
凌はまさかハイダに教える側になるとは思ってもおらず戸惑っていた。しかしハイダも光刃の扱いの飲み込みは早く、戦争に参加していた時の経験も活きているという。身のこなしも元から平均以上であり、馴染むのには時間はかからなさそうだ。
「そうだパレッタ!時間を遡れないの?一日前に遡って日本丸をここから離れさせるんだ」
一樹が閃いたような明るい笑顔で言う。しかし一樹が口にした途端、皆が口篭った。
「もう試したけどダメだったのよ。そもそも成功してたらこんなことにはなってないでしょ?」
「それも…そうすね」
菜奈美の前に、一樹はとぼとぼ外へ出て行った。