爾落転換
ギャラクトロンの胸部から音が鳴った。安らぎを与えるかのような鐘の音。どれだけ距離があろうと、脳に直截響くような不思議な音色だ。
「なんだ?」
その鐘の音で、異界林に潜む等身大の「G」や動物たちが一斉に逃げて行く。連合の無人偵察機も制御不能に陥り墜落、爆発炎上した。一方で日本丸勢は人員と船体合わせて異常はない。やがて、鐘の音は止まる。
「なんだったんだ今の?」
「皆さん、これは大変なことになりましたよ」
「あぁ、そのようだ」
異変を感じたクーガーと八重樫、世莉と菜奈美。他の一同は何の違和感を感じなかったがこの四人は異常事態を感じることができていた。
「私は視解が使えません」
「俺もだ。ここにいる皆すら捕捉できなくなっている」
「待って…私…これって視解かしら」
「なんだこれは…」
菜奈美は目に流れてくる情報量に思わず目を覆い、世莉は身体に突き刺さる情報に戸惑いうずくまっていた。
「どういうこった。能力の喪失だなんてバカな話…」
瀬上は試しに手持ちのパチンコ玉を電磁石で浮かそうとするが、失敗して床に落としてしまう。それを見た一同が各々自分の能力を試そうと確認するが、誰一人として本来の能力を発現することはできなかった。
「なんで視解と捕捉だけが移動しているんだ?」
「この二つだけとは限りません。他の能力も移動したと考えた方がいいかもしれません」
「これは誰がどの能力になったのか確認する必要が…」
凌がそう言った矢先、クーガーの爪が伸びた。しかし長さが調整できず伸ばしすぎて隣にいた凌は咄嗟に避けた。ハイダも一瞬だけ光刃を展開するが、驚いてすぐに引っ込める。ガラテアと凌は力んでみて能力を発現させようとするが不発だ。
「おいおい…」
八重樫は瀬上の落としたパチンコ玉を電磁石で拾い上げてみせる。それを見た瀬上は頭を抱えた。その際に発現した念力でコップを弾き飛ばしてしまう。
「ちょっと…席を外す」
世莉は制御しきれない捕捉で気分が悪いと席を外した。
「ムツキ殿は無事なんだな?」
『うん』
「なら生身の爾落人だけの影響なのか」
「問題は時間と空間だ!どこいった?誰が持ってる!?」
軽くパニックになった一同。そして、掌サイズの結界を出現させた一樹に沈黙する一同。だが一番唖然としていたのは一樹本人だ。なんとも言えない表情のまま固まる一樹。微動だにしなくなってしまう。
「これって…」
それが時間停止だと気付いた菜奈美と瀬上が皆を見渡すと、自慢げなパレッタが目に入った。
「どぉかしら☆」
「早速使いこなしてんじゃねえよ…」
瀬上のツッコミに、制御しきれない念力が壊れた蛇口のように溢れ出し、飾ってあるインテリアが揺らぎ始めた。今にも飛び出してきそうな骨董品が直撃すれば、皆怪我は免れない。ハイダが瀬上にアドバイスする。
「気分を落ち着かせて!無になるんです!」
「座禅かよ!」
瀬上の暴走は止まる気配はない。
「興奮しないで落ち着きなさい!」
「止めろ瀬上!」
「そうですよ瀬上さん。平常心です」
「お前らなぁ!」
「任せて♪」
まくし立てる菜奈美、八重樫、凌。だが収まらない念力の前に、パレッタのファインプレー。瀬上を時間停止させることによって事なきを得たのだった。