爾落転換


「な…なんすかあれ」


姿は二足歩行の龍神を彷彿とさせる。装甲は高貴な白を纏っており、所々に金色と黒で彩られている。迷路のように刻まれたモールドが、高潔さ、潔癖を表していた。
関節はゲル状のバネになっており未知のテクノロジーであるのは素人目でも分かる。さらに紅く輝く瞳と胸、頭部からポニーテールのように伸びた巨大アーム、左腕に一体化している回転式のブレード。多少の戦闘を想定している設計なのだろうか。ただのロボットと違うのは、纏う雰囲気だ。この世の全ての争いを忌み嫌うようなシルエットが、異常なまでの存在感を放っている。


救世主…ギャラクトロン。それが、このロボットに相応しい表現であった。
それは跪いた状態で静止しており、稼働はしていないようだ。


「クーガー、早く来てくれ。所属不明のロボットが出現した」


突如出現したギャラクトロンに、日本丸とコロニー側も慌ただしくなった。だが今思えばこの時一番慌てたのはクーガーだったのかもしれない。


「これは…連合との事情聴取は後ね。非常事態よ!」
「クーガー、あれは何だ?」
「分かりませんね」
「分からないだと?」


クーガーは至って冷静を装っていたが、一同は漠然とした不安を抱く。こんなことは今まで一度もなかったからだ。


「名前、メーカー、目的、スペック。その全てが抜け落ちてしまっています。分かっているのは今が待機状態であるということだけです」
「視解ができないなんて…」
「思念を読み取れました。この世界を守るという強い意志を感じます」
「一樹はどう?」


一樹はネットワークからギャラクトロンの掌握を試みていた。


「アルマのギガバーサークと同じっすよ。操れない。完全にスタンドアローンなシステムになってます」
「じゃあアルマのような爾落人が生み出した可能性もあると。情報が少なすぎる」
「もしかしたら帝国の新兵器なのかも」
「それはありません。帝国産なら視解できるはずです」


一同にムツキからさらなる一報がもたらされる。


『ちょっと…連合側からあのロボットとの関係性の問い合わせがきてるんだけど…』
「んなもん関係ないに決まってるだろ」
「ということは連合も把握できていない存在ということか」


無理もなかった。未知のロボットがコロニーの近くに現れ、周辺に日本丸が航行しているのに関連性を疑わない方がおかしい。既にコロニーは無人偵察機を飛ばし、日本丸とギャラクトロンの周辺を飛行していた。


「否定しておいて。丁重にね」
「こちらも監視されているのか。少し気分が悪いな」
「当たり前だ」
「世界を守ると言っても詳細が分からないとな…」
「日本丸で接近して、直接触って電脳で吸い出せないのか?」
「そうだな。時間拘束で止めてる間に転移で送り込んですぐに回収すればいい」


瀬上と世莉が恐ろしいことを言う。一樹の手元には端末と、安全第一の黄色いヘルメットが転移されてきた。


「ちょ…そんな!」


渋る一樹に世莉はヘルメットを頭に転移させた。しかもあご紐を装着済みという徹底ぶり。


「時間を止めたわ」
「よし、行ってこい」
「待って待っ…」


一樹は日本丸から消える。残ったのは言いかけた台詞だけ。日本丸はギャラクトロンの足元に一樹が見える程度に接近した。十秒ほどで回収された一樹。同時にギャラクトロンの時間拘束も解かれる。


「収穫は?」
「…ないっすよ…」


やはり、運がいいとは思えない。一樹は泣き出しそうなのを堪えながら大の字に寝転んだ。その時だった。
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