爾落転換


翌朝。日本丸はまだ【NF3000】の周囲を飛行していた。コロニー側からの事情聴取が残っているからだ。


「構えろ、バースト射撃だ。連射は弾の無駄だぞ」


留守番が決定している一樹は、八重樫に連れられメーザーライフルの射撃を指導されていた。本人はガラテアに捕まるよりかはマシなのか、素直についてきて指導を受けている。しかしそのガラテアは終わり次第一樹を捕まえようと遠くから二人を眺めているようだ。それを察知していた一樹は切り上げようとする八重樫に何かと食い下がっている。


「狙撃を教えてください!」
「…どういう心境の変化だ?」
「ひどいなぁ。ムツキすよ。最近なんかオレの存在意義が揺らいでるというか…」
「対抗意識ということか」
「まぁそんなとこです」
「お前は狙撃に向いてない」
「え!」


臆病な自分なら敵から離れていられる戦い方を教えてくれると思っていたが、八重樫の予想外の返事に絶望した。


「最低限教えようとは思うが、お前は対象を待ち続ける集中力がないだろう。一概に狙撃とは言うが、長期戦になれば狙撃態勢を維持し続ける忍耐も必要になってくるし、必要なら小便もクソも垂れ流してでも姿勢を維持しないといけない場面もある。何時間もな」
「…なんか聞きたくなかった。こう、狙撃に必要な素質はなんすか?」
「それは才能、努力、臆病さ、運。この四つに集約される」
「運…ですか」


とてもじゃないが実力主義の八重樫の口から出たとは思えないワードだ。運など鼻で笑い飛ばしそうだが。


「前に警視庁に入る前は傭兵をしていたことは話しただろう。その時から運で死を免れた場面はいくつもあった。俺や仲間のような直接戦闘型ではない能力だと特にな」
「じゃあオレは…」
「お前も運がいい。縁で日本丸に合流できた事を喜ぶべきだ」


一樹は今の自分の立場を鑑みる。どうしても八重樫の言葉が疑問になってしょうがない。


「喜ぶべき…なんすかね?まぁ運は別として、才能はあるかもしれないし、努力なんて今からだし、何と言ってもオレは臆病ですよ。向いてると思いませんか!」
「そこで胸を張るな。それにお前は臆病の意味が違う」
「そんなぁ」
「嗜み程度には教えるさ。後でブラスターライフルと実弾のライフルを…待て」


一樹を制した八重樫の視線の先、異界林の異変が起きていた。一樹も息があがったまま目を向ける。
すると見たこともない赤い紋様が空中に複数現れ、周囲を回転している。それに舞台のコーラスのような音楽も周囲に流れていた。まるで映画の場面のようだ。やがてそれは集合し実体化。そこから現れたのは、ロボットだった。
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