爾落転換
就寝前。凌はガラテアと甲板に出て夜風にあたっていた。なんと呼び出したのは凌の方だ。誘い出した現場を見ていたムツキが浮ついた感じでたきつけてきたが適当にあしらってきた。
「凌殿、稽古ならいくらでも付き合うが…どうしたのだ?」
「これからも俺にもっと色んな技術を刻んでほしいんです。そのお願いです」
「技術ならある程度育っていると思うぞ」
ガラテアは微笑んだ。その言葉に世辞は混じってはいない、純粋な笑顔だ。
「そんなことは…ありませんよ」
いつもなら気圧されてはにかんでしまう凌。だが今日は違った。何かの焦燥感に駆られている。それを肌で感じ取ったガラテアは目つきが変わる。
「…本当の強さとは、清純な心と鍛えられた身体のことを言う」
「……」
「今の凌殿に足りないのは心だ。何かあるのだろう?」
凌は口をつぐんだままだ。しかしガラテアは追求することはない。
「話したくなければ今はいい。だがいずれ、自分で乗り越えなければその先はないと思った方がいい」
突き放すように言ったガラテア。船内へ戻ろうとサンダルを翻して歩きだしていた。
「…瀬上さんは」
やっとの思いで絞り出した声。掠れた声でも、ガラテアは立ち止まって振り返る。
「瀬上さんは、強いと思いますか」
今度はしっかりと言えた。真剣な態度の凌にガラテアは、
「うん。コウ殿は強いぞ。私よりも、な」
再び微笑んだ。先程までの真剣な雰囲気はどこへやら。
「おやすみ、凌殿」
「…おやすみなさい。ガラテアさん」
ガラテアは再び歩き出すと船内へ戻って行った。甲板に残された凌は、今にも降り出しそうな曇り空を仰いだ。その顔は暗い。
「…俺は、このままではダメなんです」