爾落転換


日本丸に戻った一同。時間は夕食の刻に近かったがブルードの騒ぎでロクに食品を買えず酒しか収穫はなかったため、世莉とハイダ、凌と八重樫が露店の惣菜を買いに行くことになった。四人の帰りを持って夕食を済ませた一同は本日の出来事の会議を行うことになった。


「で、今日の敵はどんなやつだったの?」
「あぁ、見ない方が…」


菜奈美は瀬上が言うが早く、記録したブルードのホログラムを投影させてしまう。パレッタと菜奈美の表情が曇った。


「気持ち悪ぅい…」
「う…それで、こいつについて分かったことは?」
「それは私が。先程「G」の死骸を視解しに行ってきました」


クーガーが立ち上がる。


「名前はバグバズンブルード。人間を捕食する「G」です。飛翔能力はありません」
「一連の失踪事件はコイツの仕業だったんだろうな」
「そうですね。人間に置ける耳のある辺りに気配を殺す共鳴腔があります。それで街頭スキャナーをスルーして人知れず女性を攫っていたようです」
「初手から捕捉するのは難しいということか」
「そうなります。共鳴腔を傷つければスキャナーでも捕捉はできますが」
「倒す方法は?」
「一番手っ取り早いのは物量攻撃です。それと衝撃に弱いみたいですから、ソニックブレードを使ったのは正解のようですね。通常兵器ならば六人以上でメーザーライフルの一斉射撃でなら人間でも仕留める事は可能です」
「六人で一体か。恐ろしくコスパ悪い相手だな」


瀬上が腕を組む。


「他にも情報が。ブルードは眷属になります。つまり、それを生み出す女王にあたるグローラーが地底に潜伏しているのです」
「あれよりヤバいやついるんすね」
「電磁防壁を突破できないグローラーはブルードを生み出し、コロニーに潜入させて自分の代わりに人間を捕食させています。捕食させた個体は引き揚げさせて帰ってきたところをさらに自分が捕食するようです」
「回りくどいんだな」
「ブルードはコロニーに潜入と言っていたが電磁防壁は平気なのか?」


ここだけに限らず、連合全てのコロニーの周囲には電磁防壁が張り巡らされ「G」の侵入を阻止している。


「はい。平気なように進化しているようです」
「仮にマイクロ波シェルを撃ったとしても耐えられたのか」
「出力にもよるだろう」
「街頭スキャナーを誤魔化したり、被害者を昏睡がてらマーキングするあたり随分と知恵が働くようです」
「ちょっと待って、マーキング?」


被害者として聞き捨てならないワードが出てきた。咄嗟に菜奈美が反応する。今のは失言だったか。瀬上が苦虫を噛み潰したかのような表情をしたのを菜奈美は見逃さなかった。


「口から放出するガスにはその役割があります」


クーガーは話を続けた。


「あんたさっき言わなかったわよね?」
「あー、ほら…忘れてた」


本人への配慮で言わなかった瀬上。菜奈美は怒る気力もないのか、覇気がない。


「…私、お風呂に入ってくる」
「私もぉ」


菜奈美は自分とパレッタの時間を巻き戻して買い物前の清らかな身体になる。それだけでは足りなかったのか、フラフラとした足取りで浴場へ消えていった。


同情する女性陣。会議は瀬上の咳払いで再開した。


「んんっ。じゃあ捕捉した地中に潜んでいる「G」はグローラーだろうな。詳しい位置は?」
「正確な座標までは分からない。それに俺達には地底を攻撃する手段がない。グローラーは連合に任せよう」
「まぁ、そうだな。地底攻撃の兵器を連合は持ってるのか?」
「地底貫通弾か追従式ドリルビームが配備されている。座標は地中浅いところまで誘導できれば正規軍のソナーで捉えられるはずだ」
「そうか。宮代、お前バグバズンのデータをまとめて菜奈美の端末に送っとけ。後であいつに連合の代表に連絡させるから」
「はい」


この場はとりあえず纏まった。そろそろ皆、就寝に向けて準備をしたいところ。


「じゃあこの場は解散な。久しぶりに運動したから腹が減ったし、ありもので何か作ってくれ」


ハイダは少し不服そうだ。


「…夜食は太りますよ」
「いいんだよ」
「今のプロポーションを維持しなくていいんすか?」
「お前黙ってろよ!」


この日の菜奈美とパレッタの風呂は長かったという。
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