爾落転換


「ここだ」


予想よりも早く目的地に到着した一同。何回か転移を繰り返すと思われたが、出発から数十秒も経っていない。
そしてここは鉄鋼工場のようだ。整備は行き届いており最近まで稼働していたようで、今は作業している様子ではない。むしろ静けさが目立つのが違和感を放っていた。


「行くぞ!」
「早く行きましょう!」
「待て」


早速突入しようとする凌と瀬上を八重樫が止めた。


「まずは四ノ宮が一人で入れ」
「皆で行かないのか?」


瀬上がイラつきを隠せない。すぐ近くに菜奈美とパレッタがいるというのは、瀬上でも気配から分かっていた。


「今はダメだ。ここに来て捕捉できたが、中に二十体は何かがいる。人間ではないのは確かだが、一々相手にしていたら二人の身柄が危なくなる。敵が「G」で捕食が目的だった場合なら尚更だ」
「それもそうだが…」
「四ノ宮。不必要な交戦はするな。二人を回収したらすぐに戻れ」
「分かっている」


世莉は転移で中に突入した。事の成り行きを捕捉で見守る八重樫。


「八重樫さんも行った方がよかったのでは?」
「ここまで来れば四ノ宮でも二人の気配を辿れるだろう。俺まで着いて行ったら足手まといになる」
「やっぱり俺も…」
「コウ殿。ここは強襲してでも救出が先決だ。そして機動力のある世莉殿が適任だと思う」


世莉は一分もしない内に二人を回収して戻って来た。衣服は泥で汚れているが、二人とも無事なようだ。真っ先に瀬上が菜奈美に駆け寄った。続いてハイダがパレッタを診る。


「おい!起きろ!起きてくれ!」
「意識ありません」
「なんだこれ?少しだけど甘い匂いがする」


瀬上が食い気味に世莉へ問いかけた。


「敵を見たか?」


世莉は頷く。


「どんなやつだ?」
「虫が…」
「虫?」


瀬上と凌がもっと聞き出そうとするが、八重樫がホルスターからブラスターピストルを抜いてノールックで発砲したことにより中断を余儀なくされる。皆が視線を向ける先には胸部を撃たれたブルードがいた。しかし、健在だ。


「囲まれるぞ」


他のブルードはまもなく一同の視界に捉えられた。通路や工場の中からジリジリと歩いてきている。
外見はさしずめ昆虫人間というところか。体表はクチクラで保護され、身体を覆う甲羅も中々の防御力を誇りそうなのは見て分かる。生理的な嫌悪を誘う姿だ。


『き、気持ち悪い!』
「早く逃げましょう!」


ビビる一樹。気配が全然ない連中に、一同も警戒している。世莉は腕に結界を展開し、ハイダもブルード相手に身構えた。


「宮代とムツキを日本丸に戻せ。四ノ宮もハイダと二人でクーガーに視解させて適切な処置をしろ。必要なら日本丸を離れて構わない。四ノ宮は処置が終わったらすぐに戻ってこい」
「分かりました」
「了解した」
「クーガーは待機しておけ」
『はい』
「…で、いいな?副船長」
「あぁ。みんな、頼む」


ガラテアはムツキが入っている端末を一樹に託し、世莉が日本丸に転移させる。さらにハイダとパレッタ、菜奈美を連れて離脱した。ブルードの軍団に囲まれていく瀬上、八重樫、ガラテア、凌。


「敵は…服を着ているのもいますね。人間に擬態しているつもりなのでしょうか」
「捕獲要員だろう。俺の捕捉でも探知し辛い細工をしているらしいし、この分では当局の街頭スキャナーもスルーできているのかもな」
「これだけでも充分な擬態になるということか」
「見逃せば一般人に被害が及ぶかもしれない。ここで叩きましょう」
「そうだ!コイツらこのまま帰さねぇ!」


前に出る瀬上。その腕に電気が帯びていく。臨戦態勢だ。それをガラテアと八重樫が一瞥した。


「今のコウ殿を宥めるよりもこいつらを始末する方が簡単かもしれないな」
「そうだな」


4対20。単純に物量では決まらない戦闘が、始まる。
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