爾落転換
「平和ですね」
日本丸。クーガーの指導のもと梶を握っている凌。転移でコロニーに出かけて行った一行を見送ったここには凌とクーガーだけが残り、コロニーの周囲を旋回している。有名人になってしまっている日本丸旅団が着陸して野次馬が殺到する事態は避けたかったからである。
濃い人間関係から解放されたひと時。
「あなたがそれを言うとね…」
「私は人付き合いの適切な距離が視えているだけです。苦手はいますけどね」
「へぇ、ムツキ辺りとか?」
「ダイスさんですよ」
「あぁ、確かに相性悪そう」
凌は苦笑いした。
「彼は沈着ですが稀に非現実的な行動をとりますね」
「え?」
「レリック戦です。戦闘員で最後の1人になったとはいえ、皆さんとは大分劣る戦闘力で立ち向かう、攻撃においては人間と差がないのに命知らずもいいところですね」
思い出した。皆が倒されていく中ナイフとSMGで立ち向かったと。殺ス者相手に命知らずもいいところだ。
「レリック…か。俺は最初に切り込んじゃったな。あれは映画なら真っ先に殺されてしまうところだし、我ながらよく生還したと思うよ」
「二人とも彼の気まぐれに生かされた形ですね」
「菜奈美さんたちはよく2回も生還できたなぁ」
「組織者や殺ス者に隠れがちですが、規格外な力を彼女達は持っていますから」
クーガーは何故か満足そうだ。
「前から思ってたけど、日本丸は男が女性陣に圧倒されているでしょう」
「能力的に仕方のないことです。時空が女性陣にいる時点で尻に敷かれるのは必然ですよ」
「ガラテアさんは経歴のわりに天然ぽさがあるし、ハイダさんは適度に堅物だし、パレッタさんとムツキは…ねぇ?」
「あなた達が加入したからこそ男性陣の面子は立たせていられるんですよ。頭数的に」
「頭数…ね…」
「あなた達がいなければ男2人だけですから」
「面子って言っても俺も一樹も押されてるし、結局は八重樫さんと瀬上…さんなんだよなぁ」
「ふふ…あなたとコウさんも面白い関係ですね」
また含みのある言い方だった。こちらの考えを見透かされているようだ。実際そうなのだろうが。
「…人生の大先輩として認められるところはあるんだけど、素直に敬えないところがあるから…」
「だからと言って拗らせてはいけませんよ。最近のあなたがガラテアさんの訓練を前向きに受けているのもいつの日か…」
凌はクーガーに掌を見せた。その話は辞めだ、と言う意思表示だ。
それが凌の、クーガーへの精一杯の抵抗だった。