爾落転換


「ふぁ~」


欠伸を噛み殺しきれていない瀬上にも今朝は当番があった。それは朝の弱い連中を起こしにいくこと。いい歳なんだから自分で起きろと言いたいところだが当人の性格は変わらないようだ。目的の部屋に着くとインターホンを鳴らす。


「おい宮代!起きろ!」
「…うーん、もうちょっと…」


毎日同じことを言う。こいつは進歩がないのか。年下とはいえ2000歳になったというのに。21世紀の現代っ子を思い出させる男だ。


「警告はしたからな」


瀬上には耳元でフライパンを叩くより手っ取り早く起こす方法があった。一樹の部屋に弱い電流を流した。弱いと言っても激痛は伴う程度だが。


「あだだだだだ!」


悲鳴が聞こえる。後は勝手に起きてくるだろう。だがこれで終わりではない。瀬上の受け持ちは終わりだが、もう一人起こさねばならない。


「よぉ、がんばれよ」


数千年前の骨董品のライフルを持ち出した八重樫を見送る瀬上。八重樫は装弾することで
返事した。険しい表情だ。そして彼女の部屋の前に着いた。


これから、始まる。


「パレッタ、起きろ」


返事はない。だがこれは予想通りであり、起きろと言葉をかけながらも黙々とライフルの使用手順をとっていた。
八重樫はライフルを天井に向けてぶっ放した。あえて発砲音が酷いものを使用したが起きない。


起きない。


「どうした?」


八重樫の元に銃声を聞きつけた世莉がやってきた。状況をこの光景を見て察しがついたようだ。


「…四ノ宮」
「なんだ?」


八重樫が手にしていたのはスタングレネードだった。


「これを部屋の中に転移させろ」
「さすがにやりすぎじゃないか?」
「大丈夫だ。炸裂させずともこれを見れば驚いて起きてくるだろう」
「それは…そうだろうけど」


世莉は転移させた。その九割を。八重樫の手にはグレネードの一割が残っていた。


「ん?それは…」


世莉に八重樫の指に残るものが目に入る。


「俺としたことが、ピンを抜いてしまっていたようだ」
「おい!」


世莉が転移で部屋のグレネードを回収しようとするが、既に炸裂したらしく耳を切り裂くような、音とも形容し難い破裂音が響いた。


「悪かったな、四ノ宮。俺の責任だ」
「謝るなら、パレッタにな」


確信犯の八重樫を置いて、呆れる世莉は皆の元へ戻っていった。間も無くして惨劇の自室から布団に包まったまま飛び出してきたパレッタ。ぶつかりそうになった八重樫が躱すと、慌てて壁際で立ち止まる。


「サイコロ君、ひどいじゃない!」


寝ていたから視覚は無事らしいが、聴覚はやられているらしく声のボリュームが大きい。そしてこの呼ばれ方。名前を訂正しようと一向に直る気配がない。


「悪かった。早く来い。朝飯だ。あと、服を着ろ」


八重樫は使用済みのライフルを自室に返しに去っていく。何分かして、天井の銃痕に気づいたパレッタの悲鳴が響いた。


こうして、日本丸旅団の1日は始まるのだ。
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