「行くぞ！」


八重樫からガラテアに斬りかかる。左から薙ぎ払う八重樫を屈んでかわすガラテア。そのまま爪で喉を狙うも八重樫に腕を蹴られて逸れた。 だがガラテアは両手の爪を連撃で繰り出し、八重樫は防戦一方になる。間合いを取ろうとする八重樫に詰めていくガラテア。


しかし八重樫も攻撃に転じる。ガラテアの攻撃パターンを掴んだ頃、敢えて隙を見せて大技を誘う。ガラテア渾身の突きを八重樫は最小限の動きで受け流し、爪は頬を掠めた。ブレードを上空へ放り投げ、超接近した彼女の腕を掴み、大外刈りを敢行する八重樫。能力の差はあれど男と女、その体格差の前にガラテアが投げ飛ばされようとするその時だった。


「！」


発生させた水蒸気で視界を塞ぐガラテア。他の小細工を警戒した八重樫は腕を離して水蒸気漂う空間を離脱。放棄したブレードの落下位置に先回りして、降ってくるブレードの柄を一瞥もくれずキャッチした。その間、八重樫はガラテアのいる方向から目を離さなかった。ガラテアは視界の晴れない水蒸気の中にいる。


「隠れても無駄だぞ！」


牽制しながら水蒸気の周りを歩く八重樫。警戒しながらも捕捉を使ってガラテアの位置を特定した。だが敢えて真正面から突入せず半円状の軌道で走って接近。今度は右上から／状に斬る。


「！」


鍔迫り合いの感覚はなかった。
ガラテアは氷の層を重ねて防御していた。しかも絶妙な加減で刀身が食い込んですぐには抜けそうにない。その隙を狙い八重樫を爪で斬る。八重樫はブレードを再び放棄して爪を躱す。両手が空いた八重樫だが今度はガラテアには掴みかからない。
丸腰に近い八重樫。距離を取られれば接近する手段が限られる。牽制し辛いのだ。八重樫は覚悟を決めて素手で接近戦に持ち込む。ナックルガードの狭い範囲を利用して爪を防御する。少し間違えれば指や手首を持ってかれるが隙を見つけようと粘る。
八重樫は爪を回避しがてら体を回転させる勢いと重心を使って裏拳を叩き込んだ。ガラテアはバックステップで躱しながら氷を発生させ八重樫に飛ばす。


「ぐ！」


八重樫の腹にサッカーボール程の氷の塊が直撃した。吹っ飛ばされながらも首と目を腕で庇う。甲板から落下しないのを見越して受け身をとり、大ダメージは免れた。


「殺す気か！」
「その程度で死なないだろう？それにこちらも危ない場面はあった」
「それもそうだ！」


まだ八重樫は向かってきていた。八重樫はガラテアの死角から隠匿していたナイフを抜くと同時に投擲した。不意を突いて放たれたナイフはガラテアの頭を狙って飛来するが、変化の力の前に蒸発させられてしまう。だがその間に正真正銘丸腰の八重樫は肉薄している。


「ストーーーップ！」


２人の時間が止まった。比喩表現ではなく、実際に止められた。第三者の登場だ。


「朝っぱらに何殺し合い始めてるの！死んじゃったら戻せないんだからね！」


まだ寝起きっぽさのある菜奈美と、寝ぼけた感じの瀬上だ。菜奈美はダーツの件に続いた八重樫に中々ご立腹だ。


「大変だな、船長。代わってやろうか？」
「…」
「うげっ」


瀬上の腹に菜奈美の肘鉄がヒットした。


「一緒に起きてきたのか？公私共に仲がよろしいな」
「もう！」


通りがかりに茶化して去る世莉を追いかける菜奈美。瀬上は世莉にも２人にも気にせず部屋に戻っていく。時間拘束が解けた２人。


「続きは後にしよう。今と同じ状況を作ってから再開したい」
「いいだろう」


中断させられた２人は少し残念そうだ。