爾落転換
翌日の早朝。陽が登り始めるこの時間に起きてきたのは八重樫だ。睡眠時間も短く目覚め良い彼の日課。それは装備を背負い片腕で腕立て、スクワット、銃火器の慣らし動作、各種ブレードとナイフを慣らしで素振りだ。
「今日もやってるのか。よく飽きないな」
甲板までやってきた世莉。今日は珍しく早起きだ。やはり肌寒いのか上着を羽織っている。
「それはない。飯を食って寝るのと同じ、俺にとって必要なことだ」
「必要…か。それは自身の戦闘力からだろう。他の能力が羨ましくないのか?電磁とか」
「ないとは言い切れないな。だが捕捉も便利だと思っているし武器を手に取るのが性に合っている。時代毎の兵器に対応していくのが楽しみなっているところだしな。それに、そうしてこなければこの面子と合流するまで生き残れなかった」
「まぁ、そうだろうが…」
「おはようございます!」
八重樫に凌が合流した。今日は寝起き良かったのか爽やかな笑顔だ。
「おう。フットワーク始めろ」
八重樫+凌の暑苦しさに堪えかねた世莉は船内に戻っていった。まるで体育会系の先輩後輩だ。この2人の組み合わせだと学生時代を思い出す。
今度は入れ違いで当直明けのクーガーもやってきた。
「お二方、欠かしませんね」
「うん。一応、戦闘員の平時は訓練だし」
「怠らないのは大事なことです。がんばってください」
どこか含みのある言い方のクーガー。こちらの考えを見透かされているかのようで少し気分が悪い。
「おはよう。ダイス殿凌殿」
聞き慣れた女性の声に凌がギョっとする。彼女の接近に気づいていたはずのクーガーを睨むが、彼はいつの間にか姿をくらませていた。
「凌殿もひとが悪い。誘ってくれれば付き合ったのに」
ガラテアだ。寝起きのはずなのに通常運転だ。
「い、いやぁ…女性の部屋に起こしに行くのは気が引けて…」
「気にすることはない。それが気になるなら明日からは起床時間を決めておけばいい」
「あ、そろそろハイダさんと朝飯作る時間でした。行ってきます!」
ダッシュで甲板を後にしていく凌。残されるガラテアと、ブレードの素振りを続ける八重樫。
「鍛錬と並行して料理の練習か。最近ますます高めていくな。気に入ったぞ」
ガラテアは感心している。相手のいなくなった矛先が今度は八重樫に向く。
「ダイス殿、手合わせ願いたい」
「いいだろう。ブレードのスイッチは切っておく」
「いや、是非入れておいていただきたい」
「それは挑発か?」
メーザーブレードは爾落人の間で普及している溶断する武器で、形状は日本刀に近い。人間が扱うには副作用や人体に悪影響があるそれは、対象を叩き割るソニックブレードと並ぶロングセラーだ。既にマイナーチェンジが重ねられて信頼性が確立されたこのモデルは、掠るだけでも重症なのに斬られない自信があるのか。
「こちらも本気でいくということだ」
そう言って爪を伸ばすガラテア。さらに爪の表面には炎を纏わせている。スイッチを入れた八重樫。メーザーブレードの刀身に熱が帯びていく。寝起きから1時間も経っていない2人。