爾落転換



ダーツとは、ダートと呼ばれる矢を投げ、得られた得点により優劣を競う射的競技である射的競技の一種である。
ボードの狙った場所にダーツを命中させる技能性だけでなく、精神的な要因に結果が大きく左右される、デリケートな一面を有するスポーツである。
その歴史は古く、今から約2600年前にさかのぼる。戦時中酒場にたむろしていた兵士たちが、余興でワイン樽めがけて矢を放つようになったことが発祥と言われている。


ただ、今それをやっている連中で違うのは、ダートの代わりにナイフが使われていること。


「よし、次は俺の番だな」


そう言ってナイフを握るのは当船、日本丸副船長の瀬上浩介。様々な修羅場を潜り抜けてきた電磁の爾落人である。
スロウイングラインに立ち、ナイフを構える瀬上。ボードを狙い投擲モーションに入る。


「菜奈美が新しい下着を買っていたぞ」


集中していた瀬上に雑念を誘う一言。
瀬上の投げたナイフはボードから僅かに外れ、壁に突き刺さる。しかも力加減を間違えたのか、深い。


「あー!」
「腕が落ちたんじゃないか?」


瀬上をからかいながら壁のナイフを抜くのは四ノ宮世莉。日本丸操縦士を担う空間の爾落人だ。
世莉は壁にできた傷を撫でた。傷は目立っている。隠せないほどに。


「早く退け。実戦で揺さぶられながら戦うこともあるかもしれんぞ」
「んなわけあるか!」


抗議する瀬上そっちのけで自分のナイフを握る捕捉の爾落人、日本丸砲術手の八重樫大輔。今回のダーツ、訓練を兼ねてナイフでやろうと言い出した張本人だ。
瀬上は食い下がる。


「待て待て今のノーカン!」
「四ノ宮、早く片付けろ。来ているぞ」


捕捉で警戒していた八重樫が警告する。だが、警戒しているのは敵ではない。身近な人物だ。
世莉が転移でダーツ一式を隠す前に部屋の扉が開かれる。現れたのは桧垣菜奈美だ。


「またダーツしてるわね!」
「取り締まりにわざわざ早送りで走ってきたのか?」


開口一番にまくし立てる菜奈美に対し、一番に減らず口を叩く瀬上。


「何もダーツをするなとは言ってないの!ナイフを投げるのが問題なのよ!外したら壁が傷つくでしょ!」
「元々は外さない前提でプレーしていたんだが。2人ともナイフの投擲が上達していたし、訓練の一貫のつもりだ」


八重樫が悪びれる様子もなく真顔で説明した。それに世莉が同調する。


「そうだ。瀬上が外すまでは壁に傷はなかった」
「お前らなぁ!」


結局罪をなすりつけられる形となった瀬上が吠える。その前に世莉は転移で八重樫を連れて部屋を脱出した。項垂れる菜奈美。
結局、瀬上に小言を浴びせた後の菜奈美が時間を巻き戻して壁は修復されたのだった。


個性派爾落人集団をまとめる時間の爾落人、日本丸船長、桧垣菜奈美心労の一幕だった。
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