Hurt Locker
蜘蛛の網にかかる蝶。木の枝から枝へ放射状に張られた糸の罠。強度の高い縦糸と粘り気のある横糸で構成された罠に一度引っかかった獲物が逃れる術はない。人間のように蜘蛛より大きい上位の存在がいなければ。しかしその上位である人間の少女、赤髪のメロゥノは傍観する。
蝶が助けを求めるようにもがいて抵抗していたが、その振動は網の主人に餌の存在を自ら報せるだけだ。縦糸を伝って素早く接近してきた蜘蛛の八つ目全てに反射する自分の姿に戦慄した蝶。さらに暴れて抵抗するがなす術なく蜘蛛後部突起からの糸で器用にぐるぐる巻きにされていく。空へ羽ばたける美しいその姿が糸で汚されていくサマは、メロゥノの抱いていた嫉妬心が嘲笑に変わる瞬間だ。
「……」
やがてメロゥノの目の前で捕食が始まった。蜘蛛の一方的な蹂躙。蝶が消化液の注入で生きながらにして溶かされ、啜られながら食われる気分は子供ながら想像に難くない。蝶は今も意識は残っているのだろうか。今まで自由を謳歌してきた代償としては悔いが残るものなのだろうか。こんな死に方をするなら飛べない方がよかったと思うのだろうか。
「ふふっ…」
メロゥノは母親が探しに来るまでその双眸で弱肉強食である自然界の摂理を眺め続けていた。その時の彼女は自分も弱者であると知る由もなかった。